はじめに

 記念すべき第一弾は、塩野七生さんの「海の都の物語」の第一巻です。「海」が題名に入っていて、本の海を旅する図書館船くじら号の出航にぴったりだと思い、この本を選びました。まだ一巻しか持っていないので、二巻以降を上げられるのはしばらくあとになってしまうかもしれませんが、ご了承ください。

 

「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 1」塩野七生(新潮文庫)

 各国が内外で争いを繰り広げる、中世ヨーロッパにおいて、分裂ともほとんど無縁で、政経分離を貫くことによって繁栄を誇った、ヴェネツィア共和国。その誕生と発展を描く、第一巻。まず印象に残ったのは、現実を見据える能力の貴重さだった。
現実主義者が憎まれるのは、彼らが口に出して言わなくても、彼ら自身そのように行動することによって、理想主義が、実際には実にこっけいな存在であり、この人々の考え行うことが、この人々の理想を実現するには、最も不適当であるという事実を白日のもとにさらしてしまうからなのです

 とあるが、確かに、ヴェネツィア共和国の徹底したリアリストぶりは、読んでいるこちらからしても、感心してしまう。それによって、一千年の存続が叶ったのだから、本当に現実を見据える能力というのは貴重で、重要だと思った。また、そのような政府の方針に、国民が反発しなかったというのも興味深い。商人が多いせいか、それ以外の人々も、現実主義に立たざるをえなかったのかもしれない。

 

 それから、古代ローマ帝国とヴェネツィア共和国に共通した「高速道路」の整備への努力には、唸らされるものがある。「ローマ人の物語」を読んでいる間も、ローマ人の合理性に感嘆したが、ヴェネツィア人もそれに勝るとも劣らない。その二つが、長く繁栄したということは、やはり合理性、あるいは現実主義は、国家の存続に欠かせないものだと感じる。

 

 私は、どうしても理想主義に走ってしまう傾向にあるが、それは、目の前の現実を見据えるということの難しさに通じているのだと思う。深刻な状況であるほど、人はそれを認められずに現実逃避に走り、結果として理想主義に陥る。適切な対応策を講じられず、また状況は悪化するという悪循環が、そこにあるのではないか。だからこそ、現実主義者であった古代ローマ人と、中世ヴェネツィア人は、問題を悪化させることなく、解決に導けたのではないかと思った。現代国家は、果たして現実主義と合致した政策を実行できているのだろうか。そんなことが、ふと頭をよぎった。

 

終わりに

 というわけで、塩野七生さんの「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年」の書評でした。冒頭では、海がついているから〜と理由を述べましたが、実はただの偶然です。理由はこじつけで、たまたま、ブログを始めようと思ったときに読んでいたのがこの本だったというだけのことです。でも、船と称するからには、「海」で出航するのがふさわしいのかもしれません。最近は、塩野さんの本にハマっているので、しばらくは歴史関係の本になると思います。それでは、また次回。お楽しみに!