はじめに

長らくお待たせしましたが、ようやく「海の都の物語1」の続きです。いくつか内容を忘れてるところもあって、読むのにもちょっと苦労しましたが、何とか読了です。
 
「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年2」塩野七生(新潮文庫)

 前巻に続き、ヴェネツィア共和国の歩みを、豊富な一次資料を元に、分かりやすく教えてくれる本。中世ヨーロッパの国家といえば、諸侯が乱立したり、絶対的君主が君臨していたり…というイメージがある。しかし、ヴェネツィア共和国の政治のしくみは、それらとはかけ離れた政治体制であった。

 
現実的なヴェネツィア人は、イデオロギーにはかかずらわずに、どうすれば実害をより少なくできるかという視点からだけ考えて(以下略)
 ともある通り、彼らは、当時権威では最高位といって良いローマ法王にも臆することなく、交易を展開していく。それが顕著なのは、ローマ法王にイスラム教徒との交易を禁止されれば、オリエントのキリスト教徒を介して貿易をした、というエピソードだ。反抗的な姿勢を見せるヴェネツィア人たちには、ローマ法王もほとほと困り果てたに違いない。他にも、信仰の中心である聖マルコ寺院は、ローマ法王の派遣する司教ではなく、自分たちが選出した「財団理事」である監督官によって運営され、司祭さえも住民によって選ばれたのだというから、もはや法王が可哀想すらになってくる。
 
 また、フランス革命のころから、政治の貴族の専横を許したとして、非難されるようになる元首、ピエトロ・グラデニーゴの改革についても、興味深い。確かに一見すれば、世襲を許したように感じられる。しかし、少し深入りして考えてみれば、作者の主張する通り、より安定した政治体制となっている。政策を見た目だけで批判するのは容易だが、それが本当に自分のためになるのかの判断には、多角的な視点が必要であることを、再認識した。
 
 そして、塩野七生さんの作品は、彼女自身の作品だけでなく、他の作品、特に古典へも誘ってくれる。マキアヴェッリの「君主論」や、シェークスピアの「ヴェニスの商人」、ボッカッチョの「デカメロン」など、読みたい本がさらに増えた。古典から距離がどんどん遠のいていく現代において、古典に読者を誘う役割というのも、現代作家は果たす必要があるのかもしれない。そうであるなら、塩野七生さんはまさに理想的な作家だと思える。
 
 知的好奇心が刺激され、また、植え付けられる先入観の怖さが、身に染みて感じられた一作だった。
 
おわりに
 というわけで、塩野七生さんの作品をまた一冊、読了です。次回は、この続き、「海の都の物語3」の書評をお送りしたいと思います。最後までお読みくださり、ありがとうございました。それではまた、お会いしましょう!