はじめに
みなさんこんにちは。本野鳥子です。今回は、「海の都の物語5」です。このシリーズの初回となります「海の都の物語1」はこちら、前編となる「海の都の物語4」はこちらです。それでは今回も、はるか昔の地中海を訪れることといたしましょう。出発進行!
「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年5」塩野七生(新潮文庫)
時は、大航海時代へと突入し、ポルトガルがインドへの新航路を発見する。これは、黒海やエジプト、シリアなどを介して地中海の香味料市場を独占していたヴェネツィアの経済に、大きなショックを与えた。一時は、ポルトガルの妨害によって、香味料が入手できないまでになる。当時のヨーロッパに満ちていた緊張感がありありと感じられ、息を飲んでページを繰った。だが、これまでも幾多の危機を切り抜けてきたヴェネツィアは、今回も持ち前の外交手腕で乗り越える。
しかし、ヴェネツィアの本来の敵は、ポルトガルではなく、またもやトルコだった。対トルコに編成された艦隊には、軍船208隻のうち、110隻がヴェネツィアのものであったことからも、ヴェネツィアがいかに重大問題と捉えていたかが分かる。
そうして対峙したトルコには、オーストリアのドン・ホアンを総大将に何とか勝利を挙げた。レパントの海戦である。だが、翌年の遠征には失敗。地中海の交易で膨大な利益を上げていたヴェネツィアにも、滅亡への足音が響き始めていた。少々長いが、引用させていただく。
「強国とは、戦争も平和も、思いのままになる国家のことであります。わがヴェネツィア共和国は、もはやそのような立場にないことを認めるしかありません」
十六世紀のヴェネツィア共和国の外交官フランチェスコ・ソランツォは、このように帰任後の報告の中で述べている。経済面では、持前の商才と組織的な畝意によって、大航海時代の挑戦を受けて立つことができたヴェネツィアも政治と軍事の面では、ことが、自分たちの意志とは無関係なところで進んでいくのを、認めざるをえない情況に追い込まれていた。
たとえ衰退への一歩を踏み出そうとも、ヴェネツィアの現実主義は相変わらずだ。ともかく、ヴェネツィアの人々も、ヨーロッパの情勢が自分たちの手から離れたところで進んでいくのを、指を加えて見守ることしかできなくなっていたのである。
確実に、滅亡までの道を、ヴェネツィアも歩み始めていたのだと、認めざるをえない。
ところで、作者によると、先ほど引用したような、ヴェネツィアから諸国に派遣された外務官たちの報告が、出版されているらしい。日本語訳があるかどうかは知らないが、少し興味が湧いた。こういった一次資料を読むためにも、イタリア語ができるようになりたいものである。とりあえず、読みたい本の中に入れておこう。
どんなに栄華を誇った国も、いつかは衰退への道をたどり始め、そして滅ぶ。それは自明の理に違いないが、それでも一つの国の滅亡には、寂しさを覚えずにはいられない。ヴェネツィアの政治体制が堅固なものであっただけに、そしてヴェネツィアに生きる人々に魅力を感じていただけに、彼らが衰退に向かい始めるのを見るのは忍びない。せめて最期まで、彼らの行く末を見届けたいと願う。
おわりに
というわけで、次回はついにこのシリーズも最終巻です。その後の見通しとしては、村山早紀さんのコンビニたそがれ堂の最新刊で、風早の町に向かうことになると思います。船長の気分によっては、鹿の王のアカファになるやもしれません。ともかく、次は確実に「海の都の物語6」となります。どうぞ、お楽しみに! 最後までお読みくださり、ありがとうございました。