はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。本日は、「海の都の物語4」についてです。ついに全六巻のこのシリーズも、半分を過ぎてしまいましたね。前編の「海の都の物語3」はこちら。最初からお読みになる方は「海の都の物語1」からどうぞ。それでは今回も、時空を超えて、はるか昔のヴェネツィア共和国を訪れることといたしましょう。
「海の都の物語 ヴェネツィア共和國の一千年4」塩野七生(新潮文庫)
徐々に勢力を拡大し、ついにはヴェネツィア共和国の領土を脅かすまでに成長した、トルコとの攻防。アドリア海の制海権だけは手放すまいと必死のヴェネツィアと、何としても西に領土を拡張したいトルコが、戦いを繰り広げる。その一部始終を語るのが、第八話 宿敵トルコである。
対トルコの最前線となったのは、ヴェネツィア共和国と、ハンガリー。そして、ペルシアだった。十字軍編成も望みは薄く、苦境にありながらも必死に切り抜けようとあの手この手をつくすヴェネツィアには、いかに彼らにとって対トルコが重要な問題であったかが、よく伝わってくる。
交易立国であったヴェネツィアは、絶対に他者を必要としたのだ。それなのに、この他者を必要とする国は、十五世紀後半に至って、他者を日梅雨としない、つまり自分たちとはまったく別の価値観を持つ国家を、敵に持ってしまったのである。
という一文からも、当時のヴェネツィア共和国の並大抵ではない努力が察せられた。
そして、第九話。対トルコという軍事的な一面を扱った第八話とはうって変わって、「聖地巡礼パック旅行」という、なんともユーモアにあふれた題に、笑いを誘われる。イタリアのミラノ公国の官吏、サント・ブラスカの手記を通して、当時のヴェネツィアの、商い上手な一面を、実にうまく描写していく。トロマーリオと呼ばれる、聖地巡礼の人々を世話するためだけの国家公務員が存在したというのだから、現代顔負けの丁寧な接待だと思った。
ところで、この巻のまえがきも、作者の「歴史を書く」という行為に対する見方がよく伝わってきて、面白かった。私は、一応これでも、歴史から何かを学びとろうとしているつもりではあるのだが、塩野さんの文章の前には、そんな真面目な姿勢はどこへやら、気づけば、ただただ純粋に歴史の面白さに浸かってしまう。歴史というのは本当に面白いと、しみじみ感じられる本だった。
最後に一つ、引用させていただきたい。
古代ローマの文人のホラティウスも、言っているではないか。
「面白くてためになる書物が、良書なのである」と。
おわりに
というわけで、「海の都の物語4」の感想でした。楽しんでいただけましたでしょうか。次回は、「海の都の物語5」になります。それではまた、図書館船くじら号のご利用をお待ちしております。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!