僕はエレベータで階下へと降りた。
木之本はついてきて、
「どうでしょう?検討してもらえますか?」
僕は少し黙ったあとで、
「少し…、考えてみます」
言い方が、淡々としていたせいだろうか、
木之本は、
「難しいですか?ああ見えて、
かなりコミュニケーション能力に長けてます、
お客さんとのやりとりも慣れてますから」
「ああ見えてって」
僕は軽く笑って、
「ああは見えないですよ、
良くも、悪くも、」
「すいません、そういう意味じゃなくて」
木之本は
ツーブロックから垂らした長髪を揺らして、
僕に頭を下げた。
「それじゃあ、ああっていうのは、
どういうこと意味してるんですか?」
僕はのどかの白い顔を思い浮かべていた。
「それは…、少し、なんていうか、その」
適当な言葉のられつ、
それと反する律儀そうな態度、
こういうのに虫唾が走る。
僕はもう何も答えず、エレベーターを降りると、
さっさと次の現場へと足を運ぶため
ビルを出た。
若菜のどかだけではなく、
何人かの候補者に会う必要があった。
都庁前から大江戸線に乗りこむ。
次は東銀座の現場へ行くことになっていた。
せまい車内、席は埋まっている。
僕は座席前のつり革に
つかまり立ったまま、
ただコンクリート面が続く
窓の外を見ていた。
窓には僕の痩せた身体が映っている。
首から上は、
窓の上になって見えない。
真空管の中を通り抜けているような、
空気が押し流されていく音がしている。
穴ぐらを猛スピードで地下鉄が走っている。
ふと、また、
スマホを落とした時のこと、
思い出していた。
「あ…」
僕は思わず、小さな声をあげていた。
あの時ぶつかった女性についてだ。
あれば、
若菜のどかだったんじゃないだろうか、
背格好から顔つきまで、
全てが似ている気がしてきた。
でも、まさかそんな偶然なんて
あるものじゃない。
僕は首を小さく傾げながら、
それでも細部を思い浮かべるべく、
軽く目を閉じてみた。
プロジェクト688日目。
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