を読んでからどうぞ
☆ ☆
「真守くーん。生きてる?」
軽いノックのあとにドアが開いて、御神が顔を出した。
ここは、装置の置いてある部屋の隣室だ。ソファにもベッドにもなるソファベッドが設置してあり、通常のカウンセリングを行う部屋として使う予定だったが、今現在、真守が占領して横になっている。
「体よくなった?」
真守は、ふっとばされたときに全身打撲となり、「仮想現実で受けた怪我の経過をレポートにして売る」という御神の声によってここで観察されているのだ。
寝てるだけで給料が発生するのはいいものの、骨が折れていないだけで、全身打ち身だらけなので、寝ても起きても痛い。とにかく痛い。1週間でだいぶましになったことが救いだった。
「お見舞いでーす。写真撮るわよー」
ボクサーパンツ1枚になって、全身を写真におさめる。この恥ずかしさもだいぶ慣れた。
「これぐらい薄くなったら、もう大丈夫ね。明日から家に戻って通常勤務でよろしくね」
「はい」
真守は、休みにも飽きてきた頃だったので、ちょっとうれしかったが、顔には出さないようにした。
御神は、持ってきたスナック菓子を自分で広げて食べている。
「キッチン汚かったわよ。ちゃんとしといてね」
「はい」
ここで入院に近い形で押し込められたからといって、御神が看護婦になってくれたわけではない。
「骨折ではなく、打撲だから自分で食事は作れ」とこの部屋で真守は自炊していた。調味料が全くなかったので、100均で間に合わせのものを買ってこないといけなかった。思ったより出費がかかって泣きそうである。
「蟹和さんから、連絡あったわよ」
「元気そうでしたか?」
「行かないって決めて、お子さんにも保護者会にも宣言したら、新しいママ友ができたんですって」
保護者会に出ていない他のお母さんが、心配して声をかけてくれたのだ。
「意地悪でされてたことって、勘違いだったらしいわよ」
悪口を言われること以外は被害妄想から出た勘違いだったらしい。公式試合のときに保護者会に出てない人が一般席に追いやられるのは、席の確保が難しいからだそうだ。
「やっぱり、子供の姿をいい席で見て映像におさめたいってみんな思うでしょ。それで、保護者会の人数で優先的に席をとっておくようにしたら、普段来てない人は入れないんですって」
保護者会によく参加できる家族というのは、子供一人につき、両親である二人だけでなく祖父母4人も合わせて最低6人ぐらいで応援することが多い。親戚付き合いが多いところはそれより多かったりする。しかも来ると宣言しても全員が来れるわけではない。みんなが、来ないかもしれない親族の席を主張した結果、関係者の席は空いてるのに予約が入った状態になったため、保護者会に頻繁に来ない人の席がないのだ。
そんな風に、ちょっとずつの勘違いが解けて、みんながいい人に見えて。今すごく楽しいらしい。
「勇気を出してよかったって、毎日幸せですって報告してくれたわ。怪我したかいがあったわね」
「はい。また、あの装置使うんですか?」
「当たり前よ。思ったより危険だから、価格設定もう少し上げないとね」
危険はぼくだけでは…?
と真守は思ったが口に出さなかった。
「深層心理ってパワフルよね。すっごい面白い!」
うきうきする御神の横顔に(やめたいって気持ちがわかない自分が嫌だ)と真守は泣きそうになったのだった。
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