それまでは多くのスーパーバイクが目指しながらも、その壁を僅かの差で成し得なかったのが、実速 300km/h オーバーの夢です。

ZZ-R1100 や CBR1100XX は限りなくその壁に近づきましたが、あと数キロの伸びが足りないがために超えることが出来ませんでした。


280km/h 以上の速度域においては、多少の馬力アップでは最高速の向上にはつながらず、空力特性を根本から見直さなければ、その壁を超えることは不可能とされてきたのです。


1000年代の最後となる1999年、新たに SUZUKI から発売されたGSX1300R(Hayabusa 隼)が、その壁の向こう側へ到達しました。
1300cc 175馬力のエンジンが、実測で 314km/h の世界最高速をマークしたのです。

SUZUKI GSX1300R(Hayabusa 隼)

それまでの各社のフラッグシップモデルが1100cc前後の排気量だった中、それを大きく上回る1300cc のエンジンを搭載し、空力性能を徹底的に追求した全体を包み込むような丸みを帯びたカウルでその記録を達成したのです。


言い換えれば、GSX1300Rには特に目新しい構造や画期的なアイデアなどはありませんでしたが、従来からの技術を絶妙なバランスで昇華させた結果として、他のスーパーバイクが達し得なかった領域に踏み込んだのです。


GSX1300Rにより、SUZUKI が1986年にGSX-R1100を発売して以来、久々とも言える世界最高速マシンのタイトルホルダーが SUZUKI に帰ってきたのです。


エンジンパワーと徹底した空力性能の向上により300km/hを超える


しかしながら、300km/h オーバーの最高速なんて、誰が何処で出すというのでしょう。非現実的な性能に何の意味があるのでしょうか。

まあ… 確かにごもっともな意見 (^^ゞ

でも、そんな使いもしない、使えもしない高性能だからこそ、夢と憧れを感じてしまうのです。良識を持ち合わせながらも、それはバイク乗りの本能とも言えるダークサイトなのです。

メーカーが意地にかけて 300km/h オーバーを目指したバイク…
その本気さがオーラのようにバイクから溢れ出る…

え~と… そのはずだったんですが…

GSX1300R(隼)のスタイルは、私にとって、あまりにビミョーでした…



GSX1300R(隼)

本当にこのスタイルで売れるのだろか…
見慣れればカッコ良く思えるのだろうか…

速さに憧れ、そのようなバイクに敬意すら感じてはいましたが、当時、ZZ-R1100(D型)に乗っていた私としては、Kawasaki の出方をうかがって、次期新車の購入を待つことにしていました。

今までの流れからして、有る意味で大人の分別が無い Kawasaki がGSX1300R(Hayabusa 隼)に対抗するバイクを出すことは明白だったからです。




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GSX1300R(Hayabusa 隼)の主な諸元は以下のとおりです。

(括弧内はライバルのCBR1100XX)


型式:GW71A(SC35)
発売日:国内販売無し(逆輸入でのみ購入可)


全長×全幅×全高:2140×740×1155(2160×720×1170)
軸距:1485mm(1490mm)
シート高:805mm(810mm)
乾燥重量:217kg(223kg)


エンジン型式:4ストローク並列4気筒(DOHC16バルブ)

冷却方式:水冷
排気量:1298cc(1137cc)
最高出力:175PS/9800rpm(164PS/10000rpm)
最大トルク:14.1kgm/7000rpm(12.7kgm/7250rpm)


燃料タンク容量:21L(22L)

タイヤサイズ 前:120/70-17(←)
タイヤサイズ 後:190/50-17(180/55-17)


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HONDA の CBR1100XX はエンジンに2軸バランサーを持っているため、高速域においても微細な振動の無い快適な巡航性能を持っていました。
それは最大馬力や最大トルクといった、エンジンパワーによる数値上の「性能」だけでなく、「走りの質感」においても ZZ-R1100 を凌ぐものでした。


CBR1100XX

ZZ-R1100 のエンジンは1984年に発売された GPz900R のものをベースに、排気量アップとチューニングを加えた物ですが、もはやそれではトップに留まり続けることは不可能であることを感じさせました。基本設計の古さが、もはや限界に達していたのです。
(GPz900R の開発時、エンジンの基本設計の段階で、何年にも渡りここまでハイパワー化を目指すことを想定していませんでした)

久々にHONDAのバイクが、世界をリードする新たなトップモデルとして登場したことに、HONDAファンのみならず多くのバイク乗りが歓迎しました。

当時のHONDAは、工業機械としては非の打ち所が無い、秀作とも呼べるバイクを数多くリリースしてはおりましたが、1000cc以上のクラスにおいて、有無を言わせぬ圧倒的迫力と存在感、判りやすい高性能(最高速、最大馬力)を誇るバイクに乏しかったのです。


そのため、逆輸入車のセールスポイントである「フルパワー」というキーワードに合致する車種が無く、多くのバイク乗りは他社のフラッグシップ(FZR1000、GSX-R1100、ZZ-R1100)に魅力を感じていました。


休日に高速道路を走ると、サービスエリアに沢山の CBR1100XX を見かけました。

HONDA の大型逆輸入バイクをこんなに何台も見るのは何年ぶりだろう…

ちょっと感慨深いものがありました。






しかし、 CBR1100XX の天下も長くは続きませんでした。

新たな最速王の登場は、他メーカーの次世代車開発の動きを刺激したのです。
そして1999年、SUZUKI から満を持して GSX1300R(HAYABUSA 隼) が発売されました。


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1996年、HONDA の CBR1100XX(Super Black Bird)は、7年近く世界最速に留まっていた ZZ-R1100 を、その地位から引きずり下ろしました。

164馬力のエンジンは、ZZ-R1100 の147馬力を優に上回り、7年という時間の間に進歩した工業技術の差を感じさせるものでした。


世界最大のバイクメーカーHONDAが、その持てる技術を惜しむことなく注ぎ込み、その技術力の高さを世界のバイク乗りたちにあらためて思い知らせたのです。


CBR1100XXのサイドネーム「Super Black Bird」は、マッハ3以上を誇る世界最速の偵察機 SR-71 BlackBird になぞらえたもので、抜きん出た高性能の証として多くのHONDAファンに受け入れられました。




HONAD CBR1100XX(Super Black bird)

それまで HONDA といえば、最高速や最大馬力などの他メーカーとのスペック競争からは一歩身を引いたような感じがありました。

まるでメーカー側のスタンスとして、最高速に至る動力性能やパフォーマンスはそれ自体が目的ではなく、バイクとしての総合的な高性能を求める結果に過ぎないんだとでも言いたげです。

例えば、1987年に発売された CBR1000F は、他社のライバルと比較しても最高速においてけっして引けを取らないものでした。
しかし、カタログでのセールスポイントはフルカウルボディによる恵まれた空力特性と、それによる快適な乗り心地を前面に出したものだったと思います。


HONDA CBR1000F(1987)

まるで、無用な最高速競争の行き着く先は、バイクの本当の楽しみを奪う結果に成りかねないこと、バイクそのものの将来を危うくしかねないことを判っているかのようです。
当時20代の私には、そんな HONDA の分別が「優等生」に見えてしまって、本能を刺激する魅力に乏しいメーカーという印象を持っていました。

しかし CBR1100XX はそんなユーザーの諦めに似た先入観をひっくり返しました。
「やろうと思えばいつでも出来たんだ」

CBR1100XX の持つ、限りなく300km/hに近い最高速性能が、ライバル車の新たな目標となったのです。


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CBR1100XXの主な諸元は以下のとおりです。

(括弧内はライバルのZZ-R1100(D型))


型式:SC35(ZX1100D)
発売日:国内販売無し(逆輸入でのみ購入可)


全長×全幅×全高:2160×720×1170(2165×730×1205)
軸距:1490mm(1495mm)
シート高:810mm(780mm)
乾燥重量:223kg(233kg)


エンジン型式:4ストローク並列4気筒(DOHC16バルブ)

冷却方式:水冷
排気量:1137cc(1052cc)
最高出力:164PS/10000rpm(147PS/10500rpm)
最大トルク:12.7kgm/7250rpm(11.2kgm/9000rpm)


燃料タンク容量:22L(24L)

タイヤサイズ 前:120/70-17(←)
タイヤサイズ 後:180/55-17(←)


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