発売されたばかりの ZX-12R に対して寄せられた熟成不足な部分に対する指摘は、決して小さいものではありませんでした。SUZUKI の GSX1300R 隼に対抗しようと ZX-12R の開発を急ぎすぎたためか、開発の最終段階における煮詰め不足があったようです。


それは、フルモデルチェンジを行ったマシンには、必ずと言っていいほどあることなのですが、ファンからの期待が大きかった分、逆にネガティブな部分がクローズアップされたのかも知れませんね。




特に、ハンドリング面での熟成不足として多くの指摘が出ているのが、「中速コーナーで曲がらない」「前輪の接地感に乏しい」という意見です。

ZX-12R では従来のアルミ製ツインスパーフレーム(左右2本のアルミ極太押し出し材が、エンジンの側面を覆うような形式のフレーム)から、次世代とも言うべきモノコックフレーム(80年代のKawasaki GPマシン KR500にも使われてはいました)に改められていることが大きく影響しているのかもしれません。


ZX-12R のモノコックフレーム(左)と、ツインスパーフレーム(右)


推測ですが、それまでの設計ノウハウや構造解析ソフトのパラメータ値が生かせない部分が多く、開発の遅れとリリース時期の板挟みから、ある程度の見切り発車で発売されたのが影響しているのかと思ったりします。

あるいは、それを「ZX-12Rの乗り味」として、個性の一つと判断されたのかもしれません。(実際、ZX-12Rのモノコックフレームによる高重心で大味なハンドリングを好むバイク乗りも多数います)


むしろ、ベテランライダーからは「バイク任せでなく、基本に忠実なライデングを心掛ければ、曲がりにくいことはない」との意見も出ています。

過剰に進化したハンドリングマシンが数多くデビューする中で、大味で荒削りな ZX-12R の操縦性が、ネガティブな部分とされたと言えるのかも。


2000年式 ZX-12R(A1型)


もう一つ、熟成不足な点として数多く指摘されるのが、インジェクションによるアクセル操作時のレスポンス不良等があげられます。

いわゆる「ドンツキ」というもので、アクセル開度に対するエンジンの反応がリニアでなく、急にトルクが出たりするようなギクシャクしたスロットル特性となっている点です。


「ドンツキ」は、2000年前後にインジェクションを採用した他のバイクにも多く指摘される点で、ZX-12R だけに限ったものではありません。アクセルが完全にオフの状態から少しでもオンとなったタイミングでの、インジェクションの燃料噴射量制御にやや難点があったためです。

ライダーの意図しないパワーの出方になってしまう欠点は、他のメーカーも含めた当時の「インジェクション自体の未成熟さ」に起因するなのでしょう。



エンジンの透視図と、開発段階におけるイメージスケッチ

それ以上にファンに戸惑いを与えたのは、中途半端とも思える ZX-12R の開発コンセプトとキャラクター設定でした。

スーパースポーツにしては大柄過ぎる車体と、メガクルーザーにしてはレーシーなスタイリング…
何より ZZ-R1100 の後継でありながら、ZX-12R(ZZ-R1200ではない)とのネーミングを与えられたことが、このマシンの性格付けを曖昧なものにしているのかも。




いずれにしても重箱の隅を突いてばかりでは、ZX-12R の素晴らしさを見失ってしまいます。
GSX1300R 隼と同等以上の高速走行性能や、少々扱い難いハンドリングを操る楽しみなど、ファンは誰から教えられることなく、自分で ZX-12R の素晴らしさを見つけていったのです。

そしてやがて、バイクの世界最速競争にピリオドを打つ出来事が起きたのです。


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誰もが発売された ZX-12R に対し、明確なアドバンテージを持って SUZUKI の GSX1300R 隼を蹴散らしてくれるものと期待していました。

僅差ではなく圧倒的な性能差・・・ カワサキファンは、かつて ZZ-R1100 が他のライバル車に対して、新型車というよりは次世代車とも言うべきアドバンテージを示したときのことを頭に浮かべていたと思います。

メーカーがライバル車を徹底的に研究したうえで新型車を開発し、それより性能が勝っていることを確認してからリリースしているのですから、当然のことです。
後から出したジャンケンが負ける筈がないのです。



しかし、その結果は微妙なものでした。
海外の権威ある(と言われている)バイク雑誌のテストによると、最高速は未だに GSX1300R 隼が僅かに数km/hながら上回っているとのことなのです。

GSX1300R 隼の314km/hに対し、ZX-12R は312km/h、その差は2km/hとは言え、最速王の称号を奪い取ることは出来ませんでした。



冷静になれば、テストの条件や、バイク個体の差、何よりテストライダーのスキルにより、その程度は誤差の範囲と言えなくもありません。バイク雑誌の記事に一喜一憂するのは、大人気ないことではあるのです。でも、半ば意地になっていたカワサキファンには、このテスト結果は面白くないことでした。かつての ZZ-R1100 のように、誰もが認める圧倒的な最速王を楽しみにしていたのですから。


この1誌だけでなく、他のバイク雑誌による最高速テストにおいても、同様の結果がレポートされていることもありました。もちろん、ZX-12R が最高速で勝っているとのインプレ等が載っている雑誌も多々ありましたし、300Km/h に達するまでのタイム比較においても、ZX-12R に若干のアドバンテージがあるように伝えている雑誌もありました。


しかし、それらを纏めて世界最速バイク争いの「結論」を出すとすれば、「引き分け」の判定が一番相応しいものでした。


後から出したジャンケンで「引き分け」・・・ 

それは実質的に負けに等しいものかもしれません。



1999年の東京モーターショーで御披露目の ZX-12R


さらに、非日常的な300km/hを超える最高速がどうこう以前に、乗り易さや扱い易さといった基本的な性能に対し、熟成不足が多すぎるといった意見が、バイクジャーナリストだけでなく、一般ユーザーからも指摘されたのです。

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21世紀も間近の2000年、Kawasaki は SUZUKI GSX1300R(隼) に対抗するマシンを発表しました。ついにその時がやって来たのです。
(NHK「その時、歴史は動いた」風に)

Kawasaki から発売された ZX-12R のスペックは、怒涛の178馬力(マレーシア仕様は181馬力)、最高速は310km/hオーバー、まさに ZZ-R1100 が奪われた王座の奪還を目指した Kawasaki の渾身の一撃でした。



Kawasaki ZX-12R(2000年)

300km/h の世界では空力性能が最高速に大きく影響するため、車体幅のスリム化による空力特性の向上と、高速域における車体の剛性確保を両立させるため、モノコックフレームが採用されました。
エンジンの外側をフレームが覆わない構造により、その分、車体幅を狭めることが可能となり、空気抵抗を少なくすることが出来るのです。

そのために Kawasaki(川崎重工業)社内の航空機部門のメンバーも開発に加わり、航空機用の風洞実験設備を使いながら車体デザインを煮詰めました。

聞いた話によると、航空機用の風洞実験装置は、自動車やバイク用のものとは精度や測定レベル等において全く次元が異なり(比べること自体がナンセンスとか)、他社では出来ない詳細な測定を繰り返した上で、デザインを決定したそうです。






また、高速走行時の風圧を直接エンジンに取り込むことにより吸気圧を可能な限り高め、ターボエンジンと同じ効果を得るためのラムエアーインテークのダクトが、フロントカウルから突き出たデザインとなっています。

(ラムエアーインテークは風圧を利用するため、250Km/h以上の速度域で 10数馬力の上乗せ効果があります。)

これも航空機用の風洞実験設備による成果の一つです。結果的にそれが ZX-12R の個性的な面構えとなりました。


ZX-12Rのラムエアーインテークダクト

これでZZ-R1100が奪われた最速王のタイトルが、何年ぶりかで Kawasaki に帰ってきた…
誰もがそう思いました…
しかし…


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ZX-12Rの主な諸元は以下のとおりです。

(括弧内はライバルのGSX1300R(Hayabusa 隼))


型式:ZX1200A1(GW71A)
発売日:国内販売無し(逆輸入でのみ購入可)


全長×全幅×全高:2080×725×1185(2140×740×1155)
軸距:1440mm(1485mm)
シート高:810mm(805mm)
乾燥重量:210kg(217kg)


エンジン型式:4ストローク並列4気筒(DOHC16バルブ)

冷却方式:水冷
排気量:1199cc(1298cc)
最高出力:178PS/10500rpm(175PS/9800rpm)
最大トルク:13.6kgm/7500rpm(14.1kgm/7000rpm)


燃料タンク容量:20L(21L)

タイヤサイズ 前:120/70-17(←)
タイヤサイズ 後:200/50-17(190/50-17)

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