ZX-12R は主に北米やヨーロッパに輸出され、海外の多くのバイクファンを魅力しました。

時速300km/hまで一気に加速する異次元とも言える動力性能は、一般の高速道路を他車の流れにのりながら巡航する場合にも、充分な余力が快適さをもたらすものでした。
バランサーによって振動が打ち消されたエンジンは、それこそ絹を引き裂くように滑らかに吹け上がります。
(前のZZ-R1100と比べると、10年の差を実感します)


ZX-12R(A1型)


2004年のモデル(B3型)からは、環境基準にも適合するように排気ガスの清浄装置(キャタライザー)が取り付けられました。

ZX-12R は毎年、細かな熟成を積み重ねながら完成度を高めていきましたが、2006年に Kawasakiトップモデルの座を後継の ZZ-R1400 に譲ると、ファンから惜しまれながらも生産終了となりました。


ZX-12Rの後継となったZZ-R1400


私自身も、これから先何年もの進化を見届けたいと思っていただけに残念です。

もし、ZZ-R1400 のエンジンを積んだ ZX-14R が有ったら、どんなバイクになるのでしょうね。
いつかお目にかかれる日を、心の中で楽しみにしています。



シリーズ「ZX-12Rの生い立ち」終わり


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翌2001年、Kawasaki はヨーロッパの新規制に対応した ZX-12R をリリースしました。前モデル(2000年型)がA1型と呼ばれているのに対し、この新モデルはA2型と呼ばれています。

外観上はカラーリングのグラフィックスが新しくなった以外は、特に大きな変更点は有りません。細かな点では、スピードメーターの表示が300km/hまでとなったこと、インジェクションのセッティングが見直されたことなど主な違いです。



2001年型(A2型)の各カラー


そして更に翌2002年、最初のマイナーチェンジモデルとも呼べる新しい ZX-12R が発売されました。
基本的なスタイルはそのままに、約2年間の熟成期間を経て発売されたこのモデルは、B1型と呼ばれています。



2002年型(B1型) ZX-12R


スタイリング上の大きな違いは、フロントカウルとラムエアーインテークの形状で、誰でも一目で従来のA1型~A2型と、新しいB1型を見分けることが出来ます。


そもそもA1型のラムエアーインテークがフロントカウルから突き出た形状となっているのは、高速走行時(250km/h超)の風圧がカウルの影響を受ける前に車体内のエアクリーナボックスに取り込むためでした。

しかし、欧州の300km/h規制を受け、世界最高速が至上命題とはならなくなったことから、B1型以降は、ある程度一般受けのするクセの無いデザインに変更されました。(それでもやはり、個性のあるデザインに変わりはない気がします)


A型シリーズ(A1型~A2型)


B型シリーズ(B1型~B6F型)

その外、B型では特徴あるモノコックフレームの剛性バランスを見直し、A型シリーズで度々指摘のあったハンドリング特性や旋回性など、主に操作性能の向上を目指したリファインが行われています。

どうしても高重心になってしまうモノコックフレームの構造上の特徴がハンドリングに影響を与えていたようですが、熟成を重ねた正常進化というかたちでマシン全体の完成度を高めています。

荒々しいA型シリーズと、熟成されたB型シリーズ、どちらにも根強いファンが沢山おり、それぞれの個性の違いを楽しんでいるようです。


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2000年、スーパースポーツバイクを取り巻く状況が一変します。

海の彼方のヨーロッパで、ZX-12R や GSX1300R のような、最高速が300km/hを超えるバイクに対し、規制を求める声が出てきました。バイク事故の増加を憂慮したオランダ交通省の大臣が、バイクに最高速規制をかけるようEU各国に働きかけたのだそうです。



それまでも、ヨーロッパ各国は個別にバイクに対しての規制をかけていました。ドイツやフランスは100馬力を上限とする馬力規制、イギリスは125馬力(のち、一時的に撤廃)、スイスは環境保護のため、極端な排ガス規制と騒音規制。


逆輸入車として1000ccクラスのバイクを日本で買う場合、仕向け地がどこの国かが問題になります。以前、イタリアやオランダ、ベルギーなどは特に規制もなく、これらの国に向けて輸出されたバイクは「ヨーロッパ一般向け」と呼ばれ、フルパワー車の証とされました。


一時期、ZZ-R1100などはかなりの人気が出たため玉不足となり、100馬力規制のかかったフランス仕様車などが逆輸入車として日本に入ってきたこともあります。

Kawasaki の新車はヘッドライト下とタンク下に、「仕向け地コード」である3桁数字のラベルが貼られていました。フルパワー車である「ヨーロッパ一般向け」仕様のコードは「401」なので、バイク乗りはそれを確認してから買うようにしていました。

(注:「401」以外にもフルパワー仕様はあります)




しかし、2000年に提案された規制は、馬力や排ガスはもとより、最高速度そのものに対する規制をEU全ての国に適用するという大きな動きだったのです。
新案は採用され、その結果、2001年から欧州で販売されるバイクについて、以下の規制が施行されることとなったのです。

・最高速は300km/hまでとする。

・構造上、それ以上のスピードが出る車種にはリミッターを取り付ける。
・スピードメーターに300km/h以上を表示してはならない。

これは明らかに、ZX-12R や GSX1300R を意識した規制でした。スピードの出しすぎが危険なのは車も同じ筈なのですが、対象はバイクだけとされました。


ZX-12R のスピードメーター

大型バイクのメイン市場であるヨーロッパで新規制がスタートしたことにより、日本のメーカーは他の市場向けのバイクにも、この規制に適合した仕様で輸出することになりました。大消費地であるのヨーロッパの規制に適合させてから他国向けの仕様車をリリースする関係上、そうせざるを得ませんし、バイクメーカーが社会的批判を受けることを避けたためと思います。
ヨーロッパでのスピード規制が、実質的に世界共通のものとなったのです。


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