『ルックバック』(押山清高監督) | 新・法水堂

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『ルックバック』



2024年日本映画 57分

監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督:押山清高

原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
美術監督:さめしまきよし
美術監督補佐:針﨑義士、大森崇
色彩設計:楠本麻耶 撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志 音響監督:木村絵理子
音楽:haruka nakamura
主題歌:「Light song」by haruka nakamura うた : urara
アニメーション制作:スタジオドリアン

声の出演:
河合優実(藤野歩)
吉田美月喜(京本)
斉藤陽一郎(担任)
森川智之(4コマの男性)
坂本真綾(4コマの女性)

STORY

学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる……。【公式サイトより】


『チェンソーマン』の藤本タツキさんが2021年に発表し、「このマンガがすごい!2022」オトコ編において1位に選ばれた読み切り作品をアニメ映画化。


原作はご多分に漏れず、ジャンプ+に掲載された際に読んで圧倒されたが、今回のアニメ映画版も実に素晴らしかった。
本作を観て思い浮かんだのは、「努力に勝る才能なし」という言葉と「運も実力のうち」という言葉。
藤野はある程度の才能はあったのかも知れないが、京本のマンガを見て初めて自分よりも絵が上手い小学4年生がいると知り、上達するために本を買い、必死に絵を描き続ける。それも6年生の途中で挫折してしまうのだが、卒業証書を届けに行き、京本の部屋の前に山と積まれたスケッチブックを見て自分以上に努力していたことを知る。
それでも藤野が再び漫画を描くことにしたのは、他ならぬ京本が自分の作品のファンだと言ってくれたことがきっかけ。この出会いがなければ、藤野は後に妄想世界で描かれるように空手に打ち込んでいたかもしれない。もちろん、どちらがよかったかを判断することはできないが、それは実力が呼び起こした運でもある。

発表時、この作品が多くのクリエイターから反響があったのは、おそらく作り手の多くが自分にとっての京本を欲しているからなのだろうな。一人でも自分の作品を好きだと言ってくれる人がいる。それだけで継続する力となりえるのであろう。
高校卒業後、雑誌連載を前に京本は山形の美大への進学を決め、二人はコンビを解消。連載漫画は順調に人気が出てアニメ化が決まるほどのヒットとなるのだが、大学内で事件が発生して京本が犠牲となってしまう。藤野は引きこもりだった京本を部屋の外に出させることになった自分のせいだと悔やむのだが、そこで妄想世界で藤野に命を救われた京本が描いた4コマ漫画「背中を見て」を見つけ、再び創作を始める。
「ルックバック」は「振り返る」という意味だが、振り返れば、いつでも京本がそこにいるーー必死に漫画を描き続ける藤野の背中からはそんな思いが伝わってきた。

河合優実さんと先日『デカローグ』プログラムDで拝見したばかりの吉田美月喜さん、2人の声優ぶりもよかった。