『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』(ヤン・ヨンヒ監督) | 新・法水堂

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『Dear Pyongyang』
ディア・ピョンヤン


2005年日本映画 107分
脚本・監督・撮影:梁英姫(ヤン・ヨンヒ)
プロデューサー:稲葉敏也
編集:中牛あかね サウンド:犬丸正博
翻訳・字幕:赤松立太
出演:梁公善(アボジ/ヤン・コンソン)、康静姫(オモニ/カン・ジョンヒ)、梁英姫(ヨンヒ)、コノ(長男)、コナ(次男)、コンミン(三男)、ウンシン(長男の息子)、スノク(長男の嫁)、ソナ(次男の娘)、ヘギョン(次男の嫁)

STORY
住民の約4分の1が在日コリアンの大阪市生野区。朝鮮総聯大阪支部の幹部として祖国に忠誠を尽くしてきたアボジ(父)と父の活動を支えてきたオモニ(母)の間に生まれ育ったヨンヒは、幼い頃から徹底した民族教育を受けてきた。ヨンヒには3人の兄がいたが、1971年、地上の楽園と言われた祖国・北朝鮮に“帰国”した。ヨンヒが3人の兄に再会できたのはそれから11年後、民族学校の代表として平壌を訪れた時で、“面会”時間は限られたものだった。2001年、アボジの古稀を祝うため、一家は新潟港から万景峰(マンギョンボン)号に乗って平壌に向かう。勲章をびっしりつけたアボジがパーティの席上で、自分はまだ祖国に忠誠を尽くし切れていない、これからの自分の仕事は子供や孫を立派な金日成主義者にすることだとスピーチをしたとき、ヨンヒはその場から逃げ出したくなる。アボジの望むような生き方はできないと感じていたヨンヒは国籍を韓国に変えることを言い出しかねていたが、2004年6月、アボジはあっさりと「変えてもええよ」と言う。アボジが脳梗塞で倒れたのはそれから3週間後のことだった。

北朝鮮にまつわるドキュメンタリー映画としては『ヒョンスンの放課後』があったが、イギリス人監督によるそれははっきり言って物足りないものだったが、本作は当事者だけあって様々な問題が身近に感じられる。

ただ最初の説明はいささか長い。
朝鮮総連が北朝鮮系で民団が韓国系なんてのは常識として知っておけって話なんだけど、やっぱりつけとかないと分かりにくいのかなぁ。こういうドキュメンタリーを観に来る人だったらその辺の知識は最低限あると思うけど。
そんな説明など、あの強烈なキャラクターと愛嬌のある笑顔の持ち主であるアボジが画面に出てきた途端、吹っ飛んでしまう。こりゃ映画を作りたくなるはずだわ。

三人の息子を帰国させたことに後悔の念を抱きつつも、平壌で無事に暮らせているのは将軍様のおかげと言って、死ぬまで祖国に忠誠を尽くすことを誓う父と、自分らしい生き方がしたい娘。
アボジが国籍を変えてもいいと言ったときは拍子抜けするぐらいだったが、娘は「息子と孫は祖国に忠誠を尽くすべきだ」という父の言葉に一抹の寂しさを感じていたのではないだろうか。その後に自分の写っていない家族写真をカメラが捉えるあたりにそれが感じられる。
だが、親子という関係の前に国籍なんていうのは小さな問題かもしれない。
この一家を見て、つかこうへいさんの名著『娘に語る祖国』の一節を思い出した。

 みな子よ、きっと祖国とは、おまえの美しさのことです。
 ママの二心のないやさしさのことです。
 パパがママをいとおしく思う、その熱さの中に国はあるのです。
 二人がおまえをかけがえなく思うまなざしの中に、祖国はあるのです。
 そして、男と女がいとおしく思い合う意思の強さがあれば、国は滅びるものではありません。


そのみな子ちゃんも今ではタカラジェンヌなんだよねぇ(愛原実花さん)。