青年団リンク やしゃご『きゃんと、すたんどみー、なう。』 | 新・法水堂

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〈芸劇eyes〉

青年団リンク やしゃご

『きゃんと、すたんどみー、なう。』

 

 
2022年7月7日(木)〜17日(日)
東京芸術劇場シアターイースト
 
作・演出:伊藤毅
照明:伊藤泰行 音響:泉田雄太 音響操作:秋田雄治
舞台美術:谷佳那香 小道具・衣装:石原朋香
チラシ装画:赤刎千久子 宣伝美術:フルタヨウスケ
舞台写真撮影:石澤知絵子 映像撮影・編集:宮崎陽介
制作:河野遥(ヌトミック) 制作補佐:眞砂麻衣
舞台監督:中西隆雄、鳥巣真理子
 
出演:
豊田可奈子(長女・高木雪乃)
とみやまあゆみ[演劇ユニット鵺的](次女・大越月遥)
緑川史絵[青年団](三女・高木花澄)
海老根理(引っ越し業者1・綿引慎也)
清水緑(引っ越し業者2・山本由香里)
佐藤滋[青年団](引っ越し業者3、由香里の兄・山本康介)
辻響平[かわいいコンビニ店員飯田さん](月遥の夫、大学助教・大越常之)
岡野康弘[Mrs.fictions](雪乃のボーイフレンド・佐渡正志)
赤刎千久子[ホエイ](花澄の友人・松平幸子)
井上みなみ[青年団](授産施設「のぞみの会」職員・小篠美香)
藤尾勘太郎(大越の助手、大学院生・笠島清剛)
藤谷みき[青年団](花澄の幻覚・高木真弓)
 
STORY
関東圏郊外。三人姉妹が住む一軒家。長女は、知的障がい者である。親はもうなく、主に三女が家を仕切っている。次女が結婚し、夫と建てた新居への引っ越し日。引っ越し業者とともに作業をする姉妹たち。そこに、長女と結婚したいという男が現れる。【公式サイトより】

5年前、伊藤企画として上演された作品の改訂版。

舞台中央には高木家の居間。十畳の広さで、ちゃぶ台があり、下手側にカラーボックスや扇風機。縁側の向こうに中庭が見え、裏からも出入りが出来る。
下手側が玄関に続き、上手側が長女・雪乃の部屋へと繋がる。上手奥には渡り廊下。

『アリはフリスクを食べない』同様、障碍者を兄弟に持つ「きょうだい児」を扱った本作。
次女・月遥(つきは)が家を出ていくことになり、三女・花澄が知的障碍を抱える姉の世話を一人ですることになるわけだが、彼女の前には母・真弓の幻影が現れるようになる。
花澄は真弓との対話の中で、どうして月遥と自分を生んだのか、姉の世話をさせるためではないかと問い質すが、真弓はそれを否定し、「花澄は、花澄のしたいようにしなさい」と諭す。
このやりとりは花澄の葛藤の表れであり、答えでもあるのだろう。確かに自分の夢を諦めたり(花澄は絵を描くのが得意でかつては松平とともに漫画家のアシスタントをしていた)、様々な制約はあったりもするだろうが、自分が姉の世話をするのは自分がしたいから、自分が姉のことが好きだからに他ならない。

本作では入場時から、縁側には引っ越し業者の綿引(わたひき)と由香里が座り、居間では松平が居眠りをしている。また、月遥が小篠を連れて雪乃の部屋に向かうといったやりとりがなされる。
そこまでなら青年団系ではよくある演出だが、本作では終演を知らせるアナウンスの後も芝居が続く。アナウンスとともに退場する客も結構いたが、そんなに急いで出ていかなくてもいいのに。笑
こういった演出からは、この作品が現実と地続きで、そこかしこに同じような悩みをかかえている人たちがいるのだということを静かに訴えかけているように感じた。

また、本作では『アリは〜』同様、障碍者同士の恋愛も描かれる。自分もまーくん(正志)と結婚したいと暴れる雪乃が、誰も自分に「大人になったら何になりたい?」と聞かなかったと責めるシーンに胸を締めつけられる。
障碍者だから、普通じゃないから、恋愛もできないし、結婚もできないし、ましてや子供を育てることなんてできない。周りにそう決めつけられて育ってきた雪乃なりの抵抗なのだろう。
当日パンフにも名作として紹介されていたイ・チャンドン監督の『オアシス』をまた観たくなった。

本作もキャスト陣がとてもよかった。
障碍者を演じるのは想像以上に困難なことだと思うけど、豊田可奈子さんも岡野康弘さんも違和感なく見ることが出来たのはご自身がきょうだい児である伊藤毅さんの演出もあってのことだろう。
『アリは〜』で障碍者を演じていた辻響平さんと井上みなみさんが今回は彼らの理解者であり、サポーター役であるというのも面白いキャスティング。

上演時間1時間59分。