シス・カンパニー『ザ・ウェルキン』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

シス・カンパニー公演

『ザ・ウェルキン』

THE WELKIN
 

 
【東京公演】
2022年7月7日(木)〜31日(日)
Bunkamuraシアターコクーン
 
作:ルーシー・カークウッド 翻訳:徐賀世子
演出:加藤拓也
美術:伊藤雅子 照明:勝柴次朗 音響:加藤温
衣装:前田文子 ヘアメイク:佐藤裕子
ステージング:小野寺修二 舞台監督:芳谷研
プロデューサー:北村明子
 
出演:
吉田羊(助産婦エリザベス・ルーク)
大原櫻子(サリー・ポピー)
長谷川稀世(シャーロッテ・ケアリー)
梅沢昌代(サラ・スミス)
那須佐代子(ジュディス・ブルーアー)
峯村リエ(エマ・ジェンキンズ)
明星真由美(ヘレン・ラドロー/レディ・ワックス)
那須凜(アン・ラベンダー)
西尾まり(サラ・ホリス)
豊田エリー(ハンナ・ラスティッド)
土井ケイト(キティ・ギブンズ)
富山えり子(メアリー・ミドルトン)
恒松祐里(ペグ・カーター)
神津優花(エリザベスの娘ケイティ・ルーク/被害者アリス・ワックス)
田村健太郎(サリーの夫フレデリック・ポピー/ドクター・ウィリス)
土屋佑壱(廷吏ビリー・クームズ)
段田安則[声の出演](判事)
 
STORY
1759年、英国の東部サフォークの田舎町。人々が75年に一度天空に舞い戻ってくるという彗星を待ちわびる中、一人の少女サリーが殺人罪で絞首刑を宣告される。しかし、彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは免れることができるのだ。その真偽を判定するため、妊娠経験のある12人の女性たちが陪審員として集められた。これまで21人の出産を経験した者、流産ばかりで子供がいない者、早く結論を出して家事に戻りたい者、生死を決める審議への参加に戸惑う者など、その顔ぶれはさまざま。その中に、なんとかサリーに公正な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベスの姿があった。サリーは本当に妊娠しているのか? それとも死刑から逃れようと嘘をついているのか? なぜエリザベスは、殺人犯サリーを助けようとしているのか…。法廷の外では、血に飢えた暴徒が処刑を求める雄叫びを上げ、そして…。【公式サイトより】

『チャイメリカ』などで知られるイギリスの劇作家ルーシー・カークウッドさんの2020年初演作を加藤拓也さんが演出。

舞台は開演時には素舞台だが、第4場で陪審員がそれぞれのことを語りながら聖書に口づけをして宣誓するシーンでは、白い枠組が腰の高さのところに現れる。そのシーンが終わると枠組は天井へと上げられ、部屋が出現。上手に縦長の窓、中央に暖炉、下手側に出入口。

本作にはジェンダー的にもフェミニズム的にも語るべき題材は色々とあるのだけど、久方ぶりに演劇の醍醐味を心ゆくまで味わった気がする。
それはとりもなおさず、眼の前で生身の俳優たちが繰り広げる演技合戦。今回、最前列ということもあって尚更それを強く感じたのかも知れないが、実に至福のひとときであった。
その中でもやはり特筆すべきは大原櫻子さん。これまで彼女の出演舞台は5本ほど観ているが、間違いなく今までのベストアクト。今年の演劇賞で何かしらの賞を取るんじゃないだろうか。
対する吉田羊さんももちろんよかったが、特に終盤、審議が終わってからとある事件が起きてからの2人のやりとりに一瞬たりとも目が離せなかった。そして、タイトルの「ウェルキン(「天空」を意味する古語)」の意味が分かるラストに心を揺さぶられた。

その他のキャストも充実の一言。
富山えり子さんが明星真由美さんを労りながら、ケイト・ブッシュさんの「Running Up That Hill(神秘の丘)」(『ストレンジャー・シングス』の最新シリーズでも使用されて話題になっているだけにタイムリー)を歌い始め、徐々に女性たちの声が重ねられていくあたりにもグッと来た。
今回、怪我と体調不良のために降板した鷲尾真知子さんの代役・長谷川稀世さんだけ初めてお見かけする方だったが、長谷川一夫さんの娘なのね。
那須佐代子さん&那須凜さんの母娘初共演も話題だが、今回は親子役ではないものの、凜さんが佐代子さんに「お産ってどう?」と尋ねたり、佐代子さんが凜さんに「お腹を痛めた子だから可愛いのよ」と肩に手を置くあたりは思わずニヤリ。

上演時間2時間29分(一幕1時間4分、休憩15分、二幕1時間10分)。