青年団リンク やしゃご
『アリはフリスクを食べない』
2019年8月31日(土)~9月10日(火)
こまばアゴラ劇場
作・演出:伊藤毅(青年団/青年団リンク やしゃご)
舞台監督:黒澤多生(青年団)
照明:伊藤泰行 音響:泉田雄太 音響操作:秋田雄治
美術:谷佳那香 宣伝美術 じゅんむ
制作:笠島清剛(青年団) 芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
出演:
辻響平[かわいいコンビニ店員飯田さん](知的障害者・城田智幸)
海老根理(智幸の弟・城田歩)
幡美優(歩の婚約者・芹舞子)
舘そらみ(城田兄弟の幼馴染・西ゆかり)
工藤さや(工場の社長・桜田かおる)
田山幹雄[モリキリン](事務担当(かおるの恋人)・仲村千春)
黒澤多生[青年団](城田兄弟の同僚・寺田茂)
井上みなみ[青年団](同・常田加奈子)
木崎友紀子[青年団](加奈子の母・常田咲江)
岡野康弘[Mrs.fictions](グループホームの先生・林保)
尾﨑宇内[青年団](303号室の住人・三上)
緑川史絵[青年団](パーティーに呼ばれた客・本物の三上)
兄弟2人暮らし。両親は既に亡くなっている。
知的障害者の兄と、兄の世話を理由に法律家への夢を断念した弟。
2人は、同じ工場でアルバイトをして生計を立てている。
兄の誕生日。友人たちが集まるパーティーの場。
そこで兄を施設に入れることが知らされる。
「彼は、かわいそうな人ですか?」【公演チラシより】
5年前、伊藤企画として上演された作品の再演。
舞台は城田兄弟が暮らすマンションの一室。
下手側がキッチン、上手側が和室でベッド、テレビ(ゲームもあり)、本棚が置かれ、襖の奥が智幸の寝室。舞台中央にドア。
一昨日観た鵺的『悪魔を汚せ【再演】』とはまったくテイストが異なるが、これもまた家族であるがゆえの悲劇。いや、悲劇という言葉はふさわしくないな、運命あるいは宿命とでも言おうか。
人間、誰しも家族は選べない。
工場の社長・かおるがいくら「家族みたいなものだから」と言っても、所詮「みたいなもの」に過ぎない。生まれついてから知的障害者の兄と過ごしてきた歩や、その歩と新たな家族になろうとしている舞子が、舞子の父親に結婚を反対されたがために智幸を施設に入れるという決断をしたことを誰にも批判することなどできない。
かおるは「相談しろよ」とは言うが、相談したところで何の解決にもならないことも歩には分かっていたのだろう。
簡単に誰かを責めることができないだけに実に難しい問題だけど、この作品はそうした問題に真摯に向き合っていたと思う。
そういや、子供の頃、近所にも知的障害者の兄と健常者の弟がいたなぁ。今頃どうしているだろうか…。
タイトルは一風変わっているが、「アリはフリスクを食べない」というのは至極当然のことを言っているに過ぎない。甘いものを好むアリがミントの刺激があるフリスクなど見向きもしない。
アリがフリスクを食べないのと同様、人は自分の身を守るため、平穏無事な生活を送るため、無用な刺激は避けて通る。そんな意味合いがこのタイトルからは感じられた。
キャストはいずれもよかったけど、とりわけ舞子役の幡美優(はん みゅう)さん、ことごとく間が悪い寺田茂役の黒澤多生(たお)さん、智幸と同じく知的障害者で「セックスする!」と叫ぶ加奈子役の井上みなみさんが印象に残った。
上演時間約2時間。