月刊「根本宗子」第17号
『今、出来る、精一杯。』
2019年12月13日(金)~19日(木)
新国立劇場 中劇場
作・演出:根本宗子 音楽:清竜人
美術:池田ともゆき 照明:原田保
音響:高橋真衣、塚原康裕(アコルト) 振付:riko
衣裳:山本貴愛 ヘアメイク:二宮ミハル
演出助手:田原愛美 舞台監督:芳谷研
宣伝美術:遠藤歩 宣伝写真:伊藤元気
デザイン:浜崎正隆(浜デ)
宣伝ヘアメイク:友森理恵 宣伝衣装:中本宏美
制作:寺本真美(ヴィレッヂ)、会沢ナオト
企画:根本宗子
出演:
清竜人(安藤雅彦)
坂井真紀(雅彦の恋人・神谷はな)
小日向星一(アルバイト店員・金子優一)
根本宗子(車椅子の客・長谷川未来)
池津祥子(アルバイト店員・利根川早紀)
水橋研二(店長・小笠原大貴)
瑛蓮(新人アルバイト・坂本順子(30))
川面千晶(アルバイト店員・遠山陽奈(28))
今井隆文(同・矢神亮太)
内田慈(アルバイトリーダー・西岡加奈子)
春名風花(アルバイト店員・久須美杏(20))
伊藤万理華(同・篠崎ななみ(20))
山中志歩(神谷はな2)
riko(私の想い。)
天野真希(同)
田口紗亜未(同)
演奏:
岩永真奈(Ba)、大谷愛(Pf)、二ノ宮千紘(StP、Mrb、Glock)、三國茉莉(Vn)
STORY
2008年、篠崎ななみは三鷹にあるスーパーマーケット・ママズキッチンで働き始める。そこにはバイトリーダーの西岡、同い年で仲のいい久須美、ななみを何かと目の敵にしてくる利根川、最近元気のない遠山と半同棲状態の矢神、吃音のある金子などが毎日のようにシフトに入っていた。店長の小笠原とななみは恋人関係にあったが、利根川から守ってくれないことを不満に思っていた。そこへ新人アルバイトの坂本がやってくる。その頃、店には車椅子の客が現れ、毎日ただで弁当を貰っていき、利根川を苛立たせていた。その客・長谷川未来は金子の中学時代の同級生で、長谷川が車椅子生活を送るようになったのは金子が原因だった。その長谷川と3ヶ月前まで付き合っていた安藤雅彦には新しい恋人・神谷はながいた。仕事が長続きせず、はなにも借金をしていた安藤だったが、ママズキッチンにバイトとして採用される。そんなある日、解禁されたボジョレーヌーボーを飲んだ利根川が酔っ払い、ななみは店内で泣きじゃくるという事件が発生。そのことが発端で利根川と小笠原との関係を知ったななみは店を出て行く。一方、友人を亡くして落ち込んでいたはなは、雅彦に対する不満を爆発させて別れを切り出す。
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今年が旗揚げ10周年の節目となった月刊「根本宗子」、最後を締めくくるのは初の新国立劇場での本公演。
本作は2013年に初演され(はな役は早織さん)、2年後に再演。そして今回、音楽に清竜人さんを迎え、音楽劇としてセルフリメイク。
私が根本さんの作品を観るようになったのはここ2、3年ほどの話なのだけど、この初期の作品には根本さんらしさが満載。
まず前半のスーパーマーケットで働く人々の人物描写。
それぞれが「ああ、こういう人いるよね」という感じで、その観察眼に関心するとともに、こういった一種の群像劇も根本さんお得意とするところ。
ななみと小笠原が付き合っていて、利根川は小笠原の元恋人。更に利根川は矢神とも関係を持つ。矢神と付き合っている遠山は焼きもちを焼かせようと金子と親しくなるが、金子は本気になってしまう。
そして金子は車椅子の客・長谷川と因縁があり、中学時代、リレーに出場した際にぶつかったことが原因で長谷川が車椅子生活を余儀なくされ、金子が吃音になったのもそれ以来のこと。更に長谷川は安藤の元恋人で、はなが去った後、西岡が安藤のもとに出入りするようになる――と相関図を描くと複雑に絡んでくるが、人物描写が的確なので観ていて混乱することはない。
男性陣のダメダメさ加減も相変わらず。
特に安藤は見ていてムカつくほどで、何をこいつは甘えたこと抜かしとんねんと説教したくなること請け合い。
安藤にしても金子にしても、共通しているのは人間に対する不信感。だから少しでも優しくされると、その人との距離感の取り方がおかしくなってしまう。
後半、西岡がパチンコに行くために出て行こうとすると、安藤が引き留める。結局西岡は出て行ってしまうのだが、逆上した安藤は戻ってきた西岡をボコボコにする。
金子は金子で、遠藤が自分に優しくしていたのは矢神に焼きもちを焼かせるためで、DVを受けているという相談も嘘だったことが発覚し、自分が吃りだから何をしても平気だと思ったのかと遠藤を追いかけ回す。
舞台のお盆が回転する中、この二組(安藤―西岡、金子―遠藤)の追いかけっこが重ね合わされる。
同時並行して、ななみが再び店に現れ、小笠原以外の男性ではイけなくなった利根川をイかせるべく手袋をはめる。
そのななみの行動が理解できず、店を飛び出す友人の久須美が見ていていたたまれなかったが、新人バイトの坂本が追いかけ、「間違ってないと思います!」(中国人なのでイントネーションがちょっと独特)と抱きしめるシーンは救いがあって実によかった。
他人の気持など何年付き合おうがどれだけ仲がよかろうが理解できないものなのだという、これまた根本作品に共通するテーマがある一方、はなにしてもななみにしても、他人には理解されなくても自分の気持に正直に生きることを選択する。その潔さが心地よかった。
演出面では『墓場、女子高生。』同様、「私の想い。」が登場(天野真希さんは続投)。コロス的な役割を担う。
山中志歩さん演じる神谷はな2は分身として、本家?に語りかけたりするのだが、今一つ活かしきれていなかったように思う。
キャスト陣はみんなよかったけど、瑛蓮さんは声のでかさが特に気に入った。笑
そのまっすぐさが久須美を演じる春名風花さんのまっすぐさと相まって、相乗効果をもたらしていた。
ところで人の名前を芸能人の名前や語呂合わせで覚える坂本は、久須美の名前をどう覚えたんだろう。笑
初っぱなに一曲披露する伊藤万理華さんは元乃木坂46の方なのね。道理で物販にもトイレにも男性客の列ができていたわけだ。「ねもしゅー、人気出てきたなぁ」とか思っていたけど。
最後、利根川にアレをするシーンはファンの方はどういう思いで見ていたんだろう。笑
その利根川を演じた池津祥子さんの舞台度胸にも惚れ惚れ。
内田慈さんも八方美人でありつつ、実は強かな女性を好演。西岡が引き留める安藤よりもパチンコを優先させ、「だったら儲かるはずの10万円払ってよ!」と啖呵を切るところとか可笑しくて仕方なかった。
小日向星一さんは長年、負い目を感じつつ吃りとなった青年を繊細に演じていて、役柄にハマっていた。
清竜人さんは一夫多妻制のユニットをやっていたことぐらいしか知らず、名前の読み方すら知らなかったけど、個人的には歌い方とかは好みではないかな。なんせキャラがキャラなので。笑
ただ、ピアノの前に座ると別人で、弾き始めた瞬間に空気を一変させてしまうのはさすが。
根本さん扮する長谷川未来はほとんど自分自身だろうな。根本さんも高校時代、モーグルで怪我をして選手生命を絶たれて車椅子生活を送っていたので、その時に感じた憤りなどがストレートにぶつけられている。
大体、根本さんは自分の作品では絶叫するように台詞を吐くシーンがある。人によってはちょっとやりすぎに感じるかも知れないけど、私は結構好きで毎回うるっとさせられてしまう。
上演時間約2時間38分(一幕1時間35分、休憩15分、二幕48分)。