前エントリでは、調整前の段階の計算について書いた。
調整前の計算であっても株式分割がある場合は、「株式分割が期首に行われた仮定」を置いて計算する必要があった。また、分割前と後では社債の転換価格は異なる場合が多い。例えば株式数を2倍にした場合、(それだけでは会社の価値は変わらないので)一株当たりの価値は概ね2分の1になる。ただし分割後は一般に株価が高まる傾向にある為、単純に比率に応じるとは限らない(この部分を計算する必要はないが)。

さて、今回は調整後の計算。

[資料]
1.当期は4.1~3.31の一年間
2.当期純利益は10,000千円
3.期首の普通株式数は400,000株。10.1に時価発行増資 を行い、普通株式を100,000株発行している。
4.転換社債型新株予約権付社債
(1)転換社債型新株予約権付社債は前期に次の条件で 発行したもの。前期末までに権利行使されたものはない。転換社債型新株予約権付社債は一括法で処理している。
・払込金額:40,000千円(額面 発行)
・転換価格:500円(株式分割後の転換価格は400円)
(2)当期7.1に上記の社債のうち10%が転換された。
(3) 当期1.1に上記の社債のうち20%が転換された。
(4)転換社債型新株予約権付社債に係る当期の社債利息は1,500千円である。
5. 当期12.1に25%の株式分割を行った。
6.前期の財務諸表に注記された前期のEPSは22.5円、潜在株式調整後のEPSは19.5円。
7. 税率は40%とする。計算上、株式数は1株未満を、金額は小数点2位未満を四捨五入。


前回計算したように、調整前の株式数は
574,768株=(400,000×1.25)+(100,000×1.25×182/365)+(8,000×1.25×274/365)+(20,000×90/365)
注意点は、唯一分割後に発行された20,000株については、期首の分割の仮定は二重に株式を分割することになってしまうために避ける、という点。

まず潜在株式調整を行うことによる普通株式の増加数から。複数の株式数があるが、増加するのは潜在株式が存在していなかった期間に関する部分。今回は前期からある転換社債について、?転換される前の期間についての転換を過程する部分(×2回分)と、?期末まで転換されなかった部分についての3点。具体的には以下の3点。

(1)期首から第1回転換(7月1日)されるまでの期間での転換の仮定
(2)期首から第2回転換(1月1日)されるまでの期間での転換の仮定
(3)期末まで転換されなかったものについての転換の仮定

である。この他の株式数に関する要素としては、(4)すでに発行済の普通株式と、(5)期中に通常の増資により発行した普通株式がある。しかしいずれも潜在株式ではないため、調整の必要はない。

さて、この「潜在株式調整として普通株式数を増加させる」3つの要素
(1)期首から第1回転換(7月1日)されるまでの期間での転換の仮定
(2)期首から第2回転換(1月1日)されるまでの期間での転換の仮定
(3)期末まで転換されなかったものについての転換の仮定
だが、これについても実際に株式分割以前に転換されたものについては1.25倍する必要があることを忘れないようにしたい。
これらは全て前期発行の転換社債に関するものなので、「期首での転換を仮定」するわけだが、ポイントは「実際に転換されたタイミング」である。


(※ここから重要)潜在株式調整なので、仮定は3つの転換について、全て期首に置かなければならない。しかし、株式分割の影響は実際に基づくため、10月1日の分割以前に転換された(1)については、その株式数を1.25倍する必要があるし、逆に分割の10月1日以降に転換された、あるいは期末まで転換されなかった部分については1.25倍してはならない。

ということでもういちど資料。

・払込金額:40,000千円(額面 発行)
・転換価格:500円(株式分割後の転換価格は400円)
(2)当期7.1に上記の社債のうち10%が転換された。
(3) 当期1.1に上記の社債のうち20%が転換された。

7.1の転換は40,000千の10%なので4,000千分。この時の転換価格は一株500円なので、合計で8,000株を発行している。ただし7.1は転換(10.1)以前なので、1.25倍の10,000株とする。潜在株式調整は転換されていなかった期間にかかる転換を仮定するので、「期首4.1~6.31までの91日間」について発行していたものとして考える。つまり期中平均で
10,000株×91/365=2,493株の増加を把握。

次に1.1の転換分。こちらは期首~12.31までを発行していた期間として仮定。こちらは分割の影響をすでに受けているので25%増しにしてはならない。転換は社債全体の20%なので8,000千円分。ただしこちらは「分割後の転換価格」を用いなければならない。これは一株400円なので、合計で20,000株の発行。期間は4.1~12.31までの275日分。期中平均は20,000×275/365の15,068株の増加。

これらの実際に転換された部分については、結局のところ合計の発行数は権利行使に係る発行数である。
例えば7.1に転換された10,000株(実際は8,000だが分割の影響を反映したもの)について、通常のEPSで7.1~3.31までの期中平均+調整のEPSで4.1~6.30までの期中平均を取るということは、つまるところそのまま合計10,000株である(当たり前だけど)
同様に、1.1の転換の20,000株も、通常EPSの期中平均1.1~3.31と調整EPSの4.1~12.31とは、合計で1年間を意味するので、期中平均も何もないのである。つまり最初から潜在株式調整のみの数字を求めたいのであれば、こうした計算は邪魔でしかないのである。

ただし転換されなかった(期末時点で残存した)権利については別途計算を要する。
社債のうちで転換されたのは7.1に10%、1.1に20%なので、残部は70%ということになる。払込金額は40,000千円なので、これは28,000千円に相当する。これについては分割の影響は既に織り込まれていることと、転換価格が分割後の@400円であることには気をつけたい。
ということで一株400円を28,000千円分なので、(期首に発行されたとして)70,000株分。こちらは年間を通して発行されていたと仮定しているので、期中平均は不要。

ということでようやく数字が出揃った。通常EPSでの普通株式が
期首:500,000株(=400,000×1.25)
新株発行:62,329株(=100,000×1.25×182/365)
第1回転換:7,507(=8,000×1.25×274/365)
第2回転換:4,932(=20,000×90/365)

これに加えて今計算した調整による増加分が

第1回転換:2,493(=8,000×1.25×91/365)
第2回転換:15,068(=20,000×275/365)
期末見転換:70,000(=40,000,000円×70%÷@400円)

総計で662,329株。

当期純利益は元の10,000千円と、潜在株式調整による影響は「社債利息1,500千×(1-実効税率40%)=900,000円」なので、10,900,000円

潜在株式調整後1株当り当期純利益は

10,900,000円÷662,329株=16.46円




なお、EPSは数年単位で必要となる資料なので、前期の数字についても比較可能性を担保するために、当期の株式分割を当てはめる処理を行う。これについてと、月割計算による調整EPSについては次エントリにて。
1.当期は4.1~3.31の一年間
2.当期純利益は10,000千円
3.期首の普通株式数は400,000株。10.1に時価発行増資を行い、普通株式を100,000株発行している。
4.転換社債型新株予約権付社債
(1)転換社債型新株予約権付社債は前期に次の条件で発行したもの。前期末までに権利行使されたものはない。転換社債型新株予約権付社債は一括法で処理している。
・払込金額:40,000千円(額面発行)
・転換価格:500円(株式分割後の転換価格は400円)
(2)当期7.1に上記の社債のうち10%が転換された。
(3)当期1.1に上記の社債のうち20%が転換された。
(4)転換社債型新株予約権付社債に係る当期の社債利息は1,500千円である。
5.当期12.1に25%の株式分割を行った。
6.前期の財務諸表に注記された前期のEPSは22.5円、潜在株式調整後のEPSは19.5円。
7.税率は40%とする。計算上、株式数は1株未満を、金額は小数点2位未満を四捨五入。

[解答]
まず資料5の株式分割について。「25%の株式分割」とは株式数が25%増加する株式分割のこと。
それから最も重要な注意点。株式分割は期首に行われたことを想定して計算する。これは当期のEPSのみならず、前期のものについても同様である。前期のEPSについても株式分割が行われたものとするのは比較可能性を担保するため。

計算の手順は?通常のEPSを算定し、?調整後のEPSを算定し、?前期のEPSの修正を行う。順序はまあどうでもよいのだが、?と?=当期のEPSについては当期首に分割が行われたと仮定し、?=前期の数値については前期首に分割が行われたと仮定する。

?当期の(調整なしの)EPS
一番のポイントは『当期中の12月1日に行われた株式分割を、当期首に行われたものとして仮定する』ということ。
調整前のEPSは、計算に用いる利益や株式の数字は常に実際のものだが、株式分割がある場合については、調整前のEPSでも実際とは異なる株式数を用いることになる。


・株式数について

期首から期末まで発行されているのが400,000株。
10月1の増資による発行分が100,000株。
社債の転換による発行(1回目)が8,000株
社債の転換による発行(2回目)が20,000株

社債の転換に関しては、払込金額が(=社債が)40,000千円。転換価格は分割前と後で異なり、分割前で500円、分割後が400円となっている。期中に行われた2回の転換は、1回目が分割前、2回目が分割後である。

1回目の転換は10%、つまり4,000千円分なので(この時点では転換価格=1株500円)、4,000千÷500=8,000株の発行である。

2回目の転換は払込金額40,000千円の20%なので、8,000千円分の転換が行われたことになる。ただしこの時の転換価格は400円なので、
8,000千÷400=20,000株の発行。

ただし何度も言うように、調整前のEPSであっても「株式分割は期首に行われたと仮定」しなければならない。25%の株式分割なので、それぞれの株式数を1.25倍すると、
期首から既に発行している400,000株=500,000株
増資による発行100,000株=125,000株
1回目の転換の8,000株=10,000株
2回目の転換の20,000株=20,000株
のようになる。

2回目の転換による発行の20,000株だけは据え置きである。これはタイミングの問題である。株式分割は12.1だが、2回目の転換は1.1である。つまりこれは分割後に行われた社債の転換なので、これを更に1.25倍するのは当然間違い。それ以外は、期首の時点で発行済のものと、増資によるもの(10.1)と、1回目の社債の転換(7.1)、すべて分割前に発行されたものなので、分割の影響を考慮しなければならない。

おそらく株式分割を絡めたEPSの計算で間違えるとしたらこの部分。転換が期中であってもそれは期首として扱う。
よって転換前に発行済の株式は分割比率を乗じなければならない。
ただし分割後に発行されたものに重複してさらに分割しないように気をつける。

転換により発行した株式は期中発行である。いつも通り、調整前のEPSの算定においても、期中に発行された株式については期中平均で増加数を均す必要がある。保有期間(ていうか発行してから期末までの期間)はそれぞれ
1回目転換分=7.1~3.31(274日間)
増資分=10.1~3.31(182日間)
2回目転換分=1.1~3.31(90日間)
なので、期中平均は、1回目転換分(10,000株:分割の影響を考慮した数)=7,507株、増資分(125,000株)=62,329株、2回目転換分(20,000株:既に分割の影響を受けている数)=4,932株
のようになる。
これに、既に期首で発行済の400,000株の分割を想定した500,000株を加えて、期中平均の発行済普通株式数は574,768株である。

・純利益について
今問題にしているのは調整前のEPSなので、株式の分割や併合の有無を問わず、利益調整は不要である(ので利益は10,000千円)。

・調整前EPS
以上で必要な数字は求められた。
当期純利益10,000千÷普通株式数574,768=17.40円

長くなったので、調整後EPSについては後半にて。
[設例]
・当期は4月1日~3月31日まで。転換社債は一括方による処理。実効税率は40%。当期純利益は12,000千円である。
・期首における普通株式数は400,000株。


~~潜在株式について~~

(1)新株予約権:前期発行のもの。当期末まで権利行使はない。
・発行数:10,000個
・払込金額:15,000千円
・権利行使価格:500円
・新株予約権行使による発行株式総数:100,000株
・当期中の通年での平均株価は1,000円

(2)配当優先株式:前期発行のもの。当期末まで権利行使はない。
・期首の発行済株式数:48,000株
・配当優先株1株は普通株式2株に転換可能である
・優先配当は、期末の配当優先株式1株当たり年40円である

(3)第1回転換社債型新株予約権付社債
前期発行によるもので当期末までに権利行使はない。
・払込金額:24,000千円(額面発行)
・転換価格:400円
・これに係る当期の社債利息:2,600千円

(4)第2回転換社債型新株予約権付社債
前期発行によるもので当期末までに権利行使はない。
・払込金額:40,000千円(額面発行)
・転換価格:500円
・これに係る当期の社債利息:500千円

[解答]
計算手順としては、
?通常のEPSを求める
?それぞれの潜在株式の希薄化効果の有無を確認する
?希薄化の大きいものから通常EPSに調整していく
?希薄化しなくなった時点で終了

ポイントはそれぞれの潜在株式の持つ希薄化効果を把握すること。もちろん発行される株式数は各潜在株式によって異なるので一概に希薄化効果の大きさ(この場合、潜在株式それぞれのEPS)の影響の大きさを論じることはできない。しかしここでは単純な希薄化効果の大小で順位付けを行う。
例えば10株発行している株式。これに対して当期の利益が1000円だとしよう。この時、利益の増減が0円で1株発行すると、1株当たりに対する利益は91円になる。つまり9円の希薄化と言える。これに対して、当期の利益が10円増加する条件で10株発行したとする。すると1株当たりの利益は55円まで落ち込む。もちろん希薄化の影響が大きいのは後者だが、ここでの順位付けとしての優先順位は「円単位としての希薄化効果の大きさ」である。つまり前者であれば0円÷1株=0円がEPSに与える影響であり、後者は10円÷10株=1円がEPSに与える影響と考える。実際に1株当たりの利益が小さくなるのは10円の利益増で発行する後者だが、計算の優先順位の支点はここにはない。単純な増加利益÷増加株式。この計算の金額が小さい方から上位としてまずは評価を行う。もちろんこの計算の金額がEPSを上回っているのであれば希薄化はないと考えられる為、こうした潜在株式についての調整は不要である。

?通常EPS
利益12,000千円。ただし優先株48000株に対して1株当たり40円の優先配当であるため1,920,000円は控除して10,080,000円が普通株主に帰属するもの。株式数は400,000であり、全ての潜在株式について権利行使されたものはないことから、このまま400,000株を期中平均普通株式数とする。よって10,080,000÷400,000=25.2円

?各潜在株式の希薄化効果を計算
※この時、上で計算した通常EPSを下回るもののみ希薄化があるとする(つまり25.2円以下)。
式は常に『利益調整額÷株式増加数

(1)新株予約権:前期発行のもの。当期末まで権利行使はない。
・発行数:10,000個
・払込金額:15,000千円
・権利行使価格:500円
・新株予約権行使による発行株式総数:100,000株
・当期中の通年での平均株価は1,000円

ワラントの株式増加数は、『発行数-権利行使に伴う払込で購入できる自己株式数』なので100,000株-(100,000株×@500円÷@1,000円)=50,000株。またワラントについて純利益調整は不要であるので利益調整額は0円とする。

利益調整額0円÷株式増加数50,000株=0円


(2)配当優先株式:前期発行のもの。当期末まで権利行使はない。
・期首の発行済株式数:48,000株
・配当優先株1株は普通株式2株に転換可能である
・優先配当は、期末の配当優先株式1株当たり年40円である

利益調整額は48,000×40=1,920,000、株式増加数は48,000×2=96,000株

利益調整額1,920,000÷株式増加数96,000=20円



(3)第1回転換社債型新株予約権付社債
前期発行によるもので当期末までに権利行使はない。
・払込金額:24,000千円(額面発行)
・転換価格:400円
・これに係る当期の社債利息:2,600千円

利益調整額=2,600千×(1-40%)=1,560,000、株式増加数=24,000千÷400=60,000

調整額1,560,000÷増加数60,000=26円
※これについては通常のEPSの25.2円を下回っている為『希薄化効果はない』ものとして扱う。よって調整の計算の要素とはならない。


(4)第2回転換社債型新株予約権付社債
前期発行によるもので当期末までに権利行使はない。
・払込金額:40,000千円(額面発行)
・転換価格:500円
・これに係る当期の社債利息:500千円

利益調整=500千×0.6=300,000円、増加数=40,000千÷500=80,000株

調整額300,000÷増加数80,000=3.75円

とうことで、希薄化の見止められる潜在株式は3つ。
第一位:0円(ワラント)
第二位:3.75円(転換社債)
第三位:20円(転換株式)

これを順位の高いほうから(普段の調整計算のように)通常EPSに加える。

もう一度通常EPSは
純利益10,080,000円/普通株400,000株=25.2円
である。

これに第一位のワラントを加えると
純利益10,080,000円+調整額0円/普通株400,000株+増加数50,000株22.4円

となる。この時点での調整後EPSと、次の第2位の希薄化を比べる。すると
22.4円>転換社債3.75円
となっている。つまり転換社債を考慮することで更なる希薄化を招くという状態である。よって第2位も計算に加える。

純利益10,080,000円+ワラント調整額0円+転換社債による調整額300,000円/普通株400,000株+ワラントによる増加数50,000株+0円+転換社債による増加数80,000株19.58円

さらにこの時点のEPSと、今度は第3位の希薄化の数字を比べる。すると
19.58<転換株式20円
このように第3位の希薄化の数字の方が大きくなっていることが分かる。つまり転換株式についての調整を行うと、調整後のEPSが大きくなってしまう。潜在株式調整はEPSが最も小さくなる数字をとる必要があるため、調整計算はこの19.58円の時点で終了である。

潜在株式調整後1株当り当期純利益=19.58円