装丁の美しさと題名からは、とても少年Aを題材にしている本だとは想像つかなかった。
美しいピンクの花の奥にいる美しい少女。
ニルヴァーナはよく知っているロックバンドだったし。



「少年A」に人生を変えられた人々の物語 

少年犯罪の加害者、被害者遺族、加害者を崇拝した少女、その運命の環の外にたつ女性作家。「少年A」は彼らに何をもたらしたのか。(内容紹介より)




なんとなく記憶に残っている事件。
それを題材に窪美澄さんがどう描くかすごく興味を持った。

少年Aと、遺族、少年に惹かれている少女と作家の女性の視点で書かれていた。
読んでいてどこが真実で創造なのか境界線が分からなくなった。

私が小説を読む理由の一つは、他の人の人生を覗いて体験出来る気がするからだ。
でも、解説のさいごに『作家が書くことに固執するのは「人間の中身をみたい」からなのだ』と書かれていて、読み手の私も同じような気持ちも持っている事に気付いた。

物語のラストに突然の現れる黒い車の正体が分からず、モヤモヤしてる。
なんだったんだろう???

帯に書いてあるコメントが気になって手を取りました。







八年前に別れた黒崎を忘れられない十和子は、淋しさから十五歳上の男・陣治と暮らし始める。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治。彼を激しく嫌悪しながらも離れられない十和子。そんな二人の暮らしを刑事の訪問が脅かす。「黒崎が行方不明だ」と知らされた十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始めるが…。衝撃の長編ミステリ。(内容紹介より)



とにかくまともな登場人物がいない!
それが読んでいて強く感じたこと。
読んでいて嫌な気分になるのに、離れられず最後まで気になってのめり込んで読んでいた。

十和子と同居している陣治がどれだけ生理的に受け付けられない男性なのか詳しく書かれている。
確かに、近付きたくない!って思える男。
性格が嫌だとかじゃなく生物として嫌悪感を抱く男だって感じさせられた。

手から円盤の形したパンがペンって落ちる
という描写があるんだけど、そこが陣治が不潔で下品で卑屈で滑稽な人間なんだということがうまく表されていると思った。

そんな陣治をいじめることでしか自分を保てない十和子だって十分嫌な女だと思う。
特に家事をするわけではないのに陣治の働いてきたお金で自由に暮らして、ご飯も作ってもらってマッサージまでしてもらって、、、
そこまでやってもらっている陣治をなぜそこまで、貶めることが出来るのか?
そんな嫌なら別れて離れて暮らしたら?って言いたくなる。
しまいには、浮気しちゃうし。

そんな、十和子を愛し続けて自分を犠牲にする陣治。

恋なのか愛なのか何なのかよく分からない2人の関係だった。

そして、サスペンス的な要素があるのには驚いた。何がホントなのか真実は何なのか分からないのが面白くてページをめくっていた。

沼田まほかる、さんはユリゴコロで知りました。
もしかしたら誰もが心の中に持っている、人間の嫌な怖い部分を描くのがうまいなって思った。



朝井リョウさんの作品は以前、スペードのAや何者を読んだ事があって、なぜこんなにも自分ではない人の心まで分かるのだろう??読んでる私も自分じゃないのに共感してしまう、そんな作品だった。




本当に、私たちが幸せになることを望んでる?恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業…発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取りまく言葉たち。それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは―。「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編。(内容紹介より)





アイドルを取り巻く環境を、アイドル視点で書かれている。

恋愛は禁止、売れてほしいのに高いブランド物を持つことを快く思われない、歌と踊りが上手すぎてはいけないとか、どこか人間らしくないような事を求められているアイドル。

ほんの些細な事でネットは炎上するし、彼女たちは何を考えて何を目指してアイドルやってるんだろう?と時々思っていたので今回の作品の内容は興味を持って読むことが出来た。

本の内容はフィクションだけど、裏側ってこんな感じなのかなって想像しながら読むのは面白かった。
ネットが炎上する様子を見て、私が思っていることが作品の中でうまく代弁されていた。

ちょっとネタバレになるけど、最後の方で恋愛スキャンダルが発覚した後の様子をもっと詳しく見ていきたかった。
ラストだけ違った視点でその後が書かれているのが面白かったから、もっと詳しく話を読みたかったなっていうのが正直な感想でした。

朝井リョウさんの書く人間のリアルなとこ、やっぱり好きだな!



森の中にそっと置いてある純度の高いアクリルのような小説だった。

本屋大賞を受賞した本作が文庫化されたのを
見つけて、手に取ってみた。




ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。(内容紹介より)



ピアノを弾く機会があまりなかった私に
内容を理解出来るのかな?と読む前は不安も
あったけど、とてもわかりやすく読みやすく
心地よい文章で書かれていた。

調律師は演奏者に比べると影の存在で
演奏の裏にこんな物語があるということを
今まで気にかけたことはなかった。
調律師の仕事はとても奥が深い。

ずっと森の中で、風で葉が擦れる音の中で
本を読んでいるような気分だった。
音の表現の仕方がすごく好きだった。


ずっと奇妙なフィルターがかかっているような物語だった。
こちら側とあちら側の境界線をいつの間に超えてしまったんだろう。

境界を超える瞬間は身近に潜んでいるのかもしれない。
そんな気持ちになる短編集だった。




冬也に一目惚れした加奈子は、恋の行方を知りたくて禁断の占いに手を出してしまう。鏡の前に蝋燭を並べ、向こうを見ると――子どもの頃、誰もが覗き込んだ異界への扉を、青春ミステリの旗手が鮮やかに描く。 短編集。(あらすじより引用)


辻村深月せんせいの本を久しぶりに読んだ。
やっぱり好きだ。
去年は辻村先生の本ばかりを読んでいたな。

「冷たい校舎の時は止まる」や、「子どもたちは夜と遊ぶ」で辻村先生のホラーちっくな所に触れてきた。
この本が1番ホラー要素が強くて背中がゾッとしたり心臓がバクバクしたりした。

誰もが小さい時に触れたことがある怪談や都市伝説が背景にあるので、読みながら子供の頃の感覚を思い出すはず!

中でも、「おとうさん、したいがあるよ」の話が面白かった。
場面を想像するとシュール過ぎて読む手が止まらなかった。
あんな奇妙な感覚は久しぶり!!!

個人的に最初の話の「踊り場の花子」は怖いんだけど、シンガーソングライターのさユりが好きなので、さゆりという名の女の子が出てきてテンションが上がってしまった。


最後の話「八月の天変地異」は、ゾゾっとするホラーではなく心があったかいオレンジ色に包まれるような境界線だった。
最後に光がみえる。
こういうところが辻村先生らしいな、なんて素人ながら感じました。