精神科以外の薬の催奇形性 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科以外の薬の催奇形性

そろそろ子供がほしいのですが、どのように薬を減らしたら良いですか?

と聴かれることがある。精神科の場合、その人が薬なしで妊娠・出産できるかどうかは、精神疾患による。その理由は、妊娠期間は決して短い期間ではないからである。

例えば、てんかんの場合、抗てんかん薬を中止した状態で妊娠、出産をするのはリスクが高いため出産まで服薬を続けるのが一般的である。過去ログには抗てんかん薬の催奇形性についての比較的詳しい記事がある。

現代的には新規抗てんかん薬のラミクタールのみを服薬して妊娠出産すれば、出来る限りのベストを尽くしたといえる(イーケプラもリスクが低い)。これは双極性障害や自閉性スペクトラムの人も同様である。

ただし、ラミクタールは急には変更できないため、この薬でコントロール可能かどうか十分な時間を取って妊娠前に試みるべきであろう。

抗てんかん薬としてのラミクタールにはもう1つの障壁がある。新規抗てんかん薬は旧来の抗てんかん薬と併用しなければならない。そこで、少量の旧来の抗てんかん薬を併用処方し、実際に服用せず捨ててもらう。

これは凄いことを言っているように見えるかもしれないが、実際にそう指導せざるを得ないので仕方がない。てんかんの専門医もそう指導しているはずである。

てんかん以外では、薬を完全に中止できない人では、催奇形性がCの単剤処方になれば、ほぼベストを尽くしたといえる。(もちろんBならなお良い)

ここ数年では、デプロメール単剤で出産した人がおり、見かけ上、健康な子供を出産したが、その後、あっという間に大きくなった。(子供の成長は早い)

今回のエントリでは、そもそも中止不可能な内科薬を服用しているのに、精神科の薬だけ整理しようとする人がいることを挙げたい。

なぜそういう風に見えるかだが、やはり催奇形性という点で、向精神薬に偏見があるからだと思われる。漠然と向精神薬の方がより危険と思われているのである。

容易に止められない薬と書いたが、このような事態が生じやすいのは、やはり高齢出産が増えたことも関係がある。つまり社会的変化の影響も大きいのである。

実際には、妊娠時に決して止められない内科薬は滅多にない。

患者さんが僕に相談したような薬は、催奇形性Cがほとんど全てであった。しかし、そもそも内科薬を処方しているのは僕ではないわけで、内科の主治医に相談すべきだと思う。僕が内科薬で瞬間的に催奇形性を答えられるものは限られている。(アムロジンC、テオドールC、ガスターB、インスリンB~Cなど)

個人的な感想だが、妊娠出産時に必ず飲んでおかないと妊娠の継続すら危ういのは、やはり向精神薬くらいのものだな・・と。

だからこそ、向精神薬の催奇形性がクローズアップされるのであろう。

止めるに止められない他科の薬がある場合、向精神薬を1本に絞ったとしても、どうしても2剤の併用になる。つまり、相対的に1剤よりはリスクが高まることが予想される。

この辺りの出産の可否の判断だが、その夫婦がどのくらい子供を切望しているかも大きく関係している。

結局は妊娠出産をするかどうかは、医師の助言を参考にし家族が決めることであろう。

【B】
動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが、人、妊婦での対照試験は実施されていないもの。あるいは、動物生殖試験で有害な作用(または出生数の低下)が証明されているが、ヒトでの妊娠期3ヵ月の対照試験では実証されていない、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠はないもの。

【C】
動物生殖試験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用があることが証明されており、ヒトでの対照試験が実施されていないもの。あるいは、ヒト、動物ともに試験は実施されていないもの。注意が必要であるが投薬のベネフィットがリスクを上回る可能性はある(ここに分類される薬剤は、潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみ使用すること)。


参考
ラミクタールと妊娠・出産
日本未発売の向精神薬と催奇形性の話
パキシルと妊娠