その人の本来の性格とSSRI | kyupinの日記 気が向けば更新

その人の本来の性格とSSRI

今回は2007-05-25にアップした過去ログ「攻撃的婦人と電撃療法」の続きである。続きと言うより、その後のまとめのようなエントリである。

彼女はかなり以前に酷いうつ状態と希死念慮で初診し、その日にECTを実施している。彼女はその日の内容は全く覚えていないと言う。

初回のECTであまりに様変わりし、ほぼ寛解状態に至った。2回目をした場合、躁転でも起こしかねない様子だったため、1回だけでECTを中止した。

その後、長くパキシル20mgを服用していた。パキシルを選択した理由は、一般的に古典的3環系抗うつ剤より、SSRIの方が躁転を起こしにくいこともあった。

2007年5月の記事では「お店を出すんですぅ」という内容があるが、その後、手広く3軒ほどお店を経営し、うまくいっていたようである。

彼女の性格は竹を割ったようなさっぱりとした性格で、いわゆる「江戸っ子のようなタイプ」である。決断も早く、自分がいったん決めたら変更はしないし、他人の助言も受け入れないような感じであった。また、何らかの失敗があっても気分の切り替えも早い。(参考

しかし、そういう人でも急激なうつ状態に襲われ、希死念慮を生じ、自殺既遂が起こりかねない状況に至るのである。 こういうのを見ても、希死念慮を伴う昏迷はいわば「悪魔的な操り人形」のような病態だと思う。(参考

その後の経過が面白いのである。ある時、彼女のパキシルを変更する誘惑にかられた。僕が全般的にSSRIの処方を減らしていた時期である。

実は過去にパキシルで寛解状態に至り、その後も非常に安定しているため、今もパキシルを継続している人が、数人だけだがいるのはいる。

しかしトータルでは、パキシルを止めてジェイゾロフトか、古典的3環系抗うつ剤、ブプロピオン、リフレックスなどの新薬、あるいは抗うつ剤を止めて気分安定化薬でコントロールしている人がほとんどである。

彼女の場合、パキシルがとても悪いという感じではなかった。しかしある日、彼女は

自分は、もともと今のような性格ではなかった。

と言ったのである。積極的ではあるが、今のようにてきぱきした性格ではないという。

そこで、パキシルをアンプリットに変更することにした。1つ問題点は、ECT直後に躁転の気配があったことである。しかしその後は少なくとも躁転といった時期は見られなかった。アモキサンは怖いが、マイルドなアンプリットならリスクは非常に低いと思った。

また、彼女は過去にパニックらしきものがあった時期があるが、社会不安障害といったタイプではない。だからアンプリットがちょうど良いのではないかと思ったのもある。ある時期から、パキシル10mg、アンプリット50mgに変更し、それで十分安定していた上、のみ心地も良さそうなのでそのまま経過を診ていた。

その後、アンプリット100mgとし(他は眠剤)、パキシルを中止してみたのである。

彼女がアンプリットだけ服用し始めて数ヶ月したら、なんとなく診察時の印象が変わった。彼女はおっとりした女性に変わってきたのである。診察室ではいつも微笑んでおり、穏やかに話をするようになった。

彼女によると、今の自分が本来の自分らしい。

そうして、お店を2軒閉店し1軒だけに絞り、のんびりとマイペースで生活するようになったのである。実は、彼女と同じような変化はしばしば経験する。それが良いかどうかは微妙と思う人もいるかもしれない。

僕の感覚では、患者さんにとって、本来の自分の方がやはり違和感が少ないのではないかと。

SSRIがハードに切り込むタイプの薬物であることがよくわかるエピソードだと思う。

また「パキシルとアンプリット」の記事が参考になるが、アパシーやうつの残遺ではなく、一見パキシルの成功例にも少し不自然なパターンが存在していることがわかる。

なお、彼女は「内因性の正体」の最後の頃「6月」のエントリで再び登場する。

参考
パキシルとアンプリット
ウェールズ生まれの
なぜ自殺が良くないのか
アンプリットのテーマ
電撃療法(ECT)のテーマ