広島への旅行記(前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

広島への旅行記(前半)

これは日記の過去ログから。2001年に広島で国際神経精神薬理学会が開かれている。その時の旅行の詳細。残念ながら写真はない。

760投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月02日(火) 18時07分21秒
明日から広島遠征っす。10月2日~6日まで3泊4日でかなりの期間だ。(2001年国際神経精神薬理学会をやっている。)

実はうちの病院の薬剤師さんがすでに今日出発していて、明日合流することになっている。できるだけ軽装でいきたいが、変な季節なんでちと困る。僕の肩かけカバンだけにおさまるんだろうか?とか思う。今から準備して入らんかったら明日ヴィトンの小さいのを買いにいこうかと思っている。広島は友人がたくさんいるはずだが、今はあまり連絡がとれないのよね。

770投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 18時00分40秒
>カイゼルひげ@純正品
ども、です。今、無事に帰ってきました。

今回の旅行について、忘れないうちにカキコしとこうと思う。学会、尾道の小旅行とも、とても有意義だった。旧友にも会えたしね。

771投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 19時16分49秒
10月3日(初日)
ちょっと髪の毛が伸びていて、急いで散髪にいく。それから出発。午後3時頃には広島に着いていた。

ホテルでチェックインを済ませ、広島国際会議場まで歩いていった。ホテルからとても近いところにあり、歩いても10分もかからない。そういえば、広島は26歳頃遊びに来て以来だったことに気付く。広島はとてもなじみがある都市だが、最近はご無沙汰している。

国際会議場は平和記念公園内にある。入場し受付をするとカバンをくれた。中には分厚いAbstracts集と観光案内みたいなものがあった。携帯で薬剤師さんを呼ぶとすぐに会場内の部屋から出てきた。少し話をしたあと、ある発表を見たが国際学会なので正直、ほとんど聞き取れない。シンポジウムなどは同時通訳があって、これは大変助かる。ほぼ完璧な同時通訳で、まるでケーブルのCNNを聞いているようだ。

772投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 19時17分25秒
ほぼすべての発表が英語で行われたが、スライドは比較的ゆっくり見られるので、全くわからないわけではない。専門語は共通だし、耳が慣れてくれば、ものによればかなりわかるようになった。

日本人の英語の発表が一番聞き取りやすい。(涙)
母国語が英語でない人たちの発表が次にわかりやすい。(涙)
ちょっと早めに喋る母国語が英語の人たちの発表が辛い。

初日は夕方のシンポジウムが興味深かった。うつ病(単極性)の再発を防ぐことについてだったが、簡単にまとめると、

1、再発を防ぐのには薬物は重要。(プロザックとプラセボで調査されていた)
2、薬物療法は少なくとも9ヶ月は続けるべき。
3、抗うつ剤にリチウムを加えた治療は、再発率を減少させる。
4、薬物を中止する際に、急激な休薬は再燃させやすいので徐々に行うべき。
5、interpersonal therapy(対人関係療法?)は再発率を下げうるが、これは強いものではない。
6、1990年代でさえ、薬物療法を継続していても再発率は高いままだ。
7、再発の先行指標と考えられるものは、寛解時の残遺症状の存在である。
8、薬物療法と認知療法を組み合わせると、再発率を減らせる。

などであった。すべてのシンポジウムが終了ししたあと、広島出身の岩田英憲氏のパンフルート演奏があった。こんなところにも国際学会の雰囲気が出ている。この後、懇親会があり、ちょっとだけ食事をしたが、料理はまずかったのですぐにホテルに戻り街に出てみた。

今回思ったのは、この季節でも広島はかなり暑い。夜はジャケットなしで歩き回った。2軒廻り日本酒などを飲んだ。明日もあるので12時にはホテルに戻り休養。

774投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 23時52分05秒
10月4日(2日目)
この日は8時半から学会は始まっていたが、10時半からのspecial lectureが面白そうで、これにあわせてホテルを出発した。ポスターはともかく、A、B、Cの3会場で同時に進行していて、どれかを選べば他は諦めないといけない。

10時半のシンポジウムは僕は、「妄想を伴う大うつ病の新しい治療」というのを選んだが、薬剤師さんは遺伝子が好きなので、他の会場の「パーキンソン病の遺伝、発症機序、及び治療」に行くという。

ここでは、ミフェプリストンという極めて最近から使われだした薬物について、効果や治療成績の紹介があった。ミフェプリストンはコルチゾールの拮抗薬で、堕胎薬としても使用されている。何故、「妄想を伴う」うつ病に使用されるかと言えば、

「うつ病の際に、コルチゾールが高くなり、認知障害や妄想が出現する」
という仮説に基づく。この仮説は正しいらしい。

775投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 23時52分50秒
このミフェプリストンという薬は、アメリカでも2000年ぐらいに発売されたばかりらしい。即効性があり、4日目にはBPRSやHDRSなどのスコアもかなり改善しているという。また、重篤なうつ状態ではコルチゾールの日内変動が消失しているが、この薬物を使用していると日内変動が出てくるという。

ところで、Delusional Major Depression(妄想を伴う大うつ病)といわれると、どうも精神病性の、それも気分に一致しない,より分裂病の色彩が強いうつ病を思い浮かべてしまう。ここでいう「妄想を伴う大うつ病」は、罪業妄想や微小妄想など、うつ病ならば当然理解しうる2次妄想を伴っているに過ぎない。だから、僕のイメージからすれば

妄想を伴う大うつ病=重度のうつ病

単にこういった感じだ。

776投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 23時53分18秒
その後、すぐに続いてspecial lectureがあったが、これも最近から使われるようになったNaSSAと呼ばれる薬物、ミルタザピンの作用機序についての話だった。これはちょっと内容が難しかった。

ミルタザピンは、すでに北米でレメロンという商品名で売られている。ミルタザピンは脳のノルアドレナリン神経の終末にあるα2アドレナリン受容体だけでなく、セロトニン神経終末に存在するα2-アドレナリン受容体もブロックし、ノルアドレナリンとセロトニンの両方の放出を促進させる。

何故こうなるかといえば、α2アドレナリン受容体はオート・レセプターといい神経終末からのノルアドレナリン放出を抑制しているからだ。(セロトニン神経終末のα2-アドレナリン受容体も、ヘテロ受容体といい、セロトニンの放出を抑えている。)

つまり、ミルタザピンはSNRIのようにノルアドレナリンとセロトニンの両方に作用し、Dual Actionになっている。

777投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月06日(土) 23時54分11秒
実は、このspecial lectureは縫線核のセロトニンニューロンと青斑核のノルアドレナリンニューロンの活動が、SSRIやデシプラミンでどのように変化するかについての話がほとんどだった。ミルタザピンは付随していたに過ぎない。

まとめ
1、ノルアドレナリンはα1レセプターを通して、縫線核のセロトニンニューロンに強い刺激を及ぼす。

2、反対に、少し不明確だが、多分HT2レセプターを介して、青斑核へのセロトニンニューロンへの投射は、これら青斑核のニューロン活動を抑制している。

3、シタロプラム(セレクサ)やパロキセチン(パキシル)投与により、青斑核ノルアドレナリンニューロンの活動が減少した。

4、対照的にデシプラミン(ノルアドレナリン系に作用が強い3環系抗うつ剤)を投与した場合、最初は瞬間的に青斑核のノルアドレナリンニューロンの活動が減少。その後、上記に見られたSSRIのノルアドレナリンニューロンの減衰効果が日を追って薄れてきた。

5、5HT1Aアゴニストの投与により、青斑核のノルアドレナリンニューロンの活動は亢進したが、長期間になるとその効果は薄れてきた。

6、5HT2アゴニストの投与により、青斑核のノルアドレナリンニューロンの活動は抑制されるが、長期になるとその抑制効果は著しく減少する。
  
7、これら5と6の現象はデシプラミンによって影響を受けない。

8、SSRIによる青斑核のノルアドレナリンニューロン活動の著しい減少はそれ自体、直接的な抗うつ効果をあらわしているのかもしれない。あるいは、強迫や恐怖症など他のSSRIの効果を説明するものかもしれない。

この日は夕方からホテルに会場をかえ、サテライトシンポジウムが行われた。3つのプログラムが用意されており、僕たちはSNRIのシンポジウムを選んだ。

今回はこのサテライト・シンポジウムを聞けただけでも、広島に来た甲斐があったと思う。ずっと疑問に思っていたことのヒントが得られたからだ。

779投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月07日(日) 11時47分55秒
このサテライトシンポジウムはSNRIのミルナシプラン(トレドミン)についての研究がほとんどだった。

ところで、この日記の578で、ダウンレギュレーションという仮説はあやしいものだと書いた。その理由の1つにトレドミンは効果が出てくるのが従来の薬物に比べ早すぎるというのを挙げた。(このエントリの補足を参照)

ここでおさらい。
<ダウンレギュレーション>
抗うつ剤は、基本的に神経末端の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)を増やす効果をもつ。うつ病患者はこれら神経伝達物質が枯渇していて、そのため神経末端の受け手側のレセプターは(その枯渇を補うように)増加している。薬物を投与した直後は神経伝達物質は豊富になっているものの、このレセプターの増加した状態は変化していない。しかし、増えた状態が持続するとだんだんレセプターは減少してくる。(ここがダウンレギュレーション)

レセプターが減少しないと、抗うつ効果が出てこないというのだ。抗うつ剤をうつ病患者さんに投与して効果が出てくるまでのタイムラグ(10日~4週間)
はこの仮説で説明できる。

780投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月07日(日) 11時48分55秒
このシンポジウムで、ミルナシプランの効果出現の早さを説明する新しい仮説が提出された。なんと薬物によりダウンレギュレーションを起こさないものがあるという。(この時点でこのダウンレギュレーション仮説の80%は崩れたと思う)

たいていの抗うつ剤はダウンレギュレーションを起こすが、シタロプラム(セレクサと呼ばれるSSRI)とミルナシプラン(トレドミン)はダウンレギュレーションを起こさない。トレドミンは効果出現が早く、調査によれば1週間目でイミプラミン(トフラニール)に比べ明らかに改善以上の効果が多かった。しかし、4週間目では両者に差がないという。

この早さを説明する仮説は以下のようなものであった。

 縫線核のニューロンに5HT1Aレセプターがあるが、これはオートセレプターである。(抑制的に働くレセプター) 一般にSSRIは2~4週間投与により、このレセプターを脱感作させ、結果、神経末端の伝達物質を増加させる。しかしミルナシプランは7日目でこの脱感作を起こさせるらしい。

しかし、この仮説は僕にはとうてい納得できない。それこそ小一時間、問い詰めたい気分だった。(こう言うと、薬剤師さんがずいぶん笑っていた。)

このように脱感作しているという場合、その場所のレセプターのタンパクが変形して、今までと異なる形状または立体的な構造になっていると思われる。つまりそうそう短い時間で変わるものではないだろう。ミルナシプランの臨床経験で感じることとして、半減期が短く(8時間程度)患者さんによれば薬の消退をはっきり実感できるというものがある。つまり

「朝・夕2回服用だと、午後から薬が切れてきて、3時頃にはバッドになっちゃうんですよね」などという人がいる。

つまり刻々と抗うつ効果が血中濃度に相関して変化している。こういうのもダウンレギュレーションで説明がつかないものだと思っていたが、この新しい仮説でも明快に説明できない(と思う)。

782投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月07日(日) 11時53分02秒
それに神経末端に伝達物質が増えたとか言っているが、増えても効果が出てこないことを説明するためにダウンレギュレーション仮説が出てきたんじゃなかったのか?

はっきり言って最初に戻っただけだ。これならよほどダウンレギュレーション仮説の方が格調高いと思う。だいたい、こういった長い期間信じられてきた仮説が崩れた時に、それを補うように真っ先に出てくるような仮説は、精神医学に限らずハズしていることが多い。

まぁ、前からずっと思っていた疑問に対し、多少答えが聞けただけでも満足した。これだけでもここに来た甲斐があった。その日は会場のホテルで懇親会で食事を取り、すぐに宿泊ホテルに戻った。ちょうどヤクルトVS阪神の優勝が決まるかの臨時番組があり、それを観てるうちに眠くなった。友人と相談して今日は外出しないことにした。野球は引き分けでヤクルトの優勝はお預けになった。こういうルールの場合、引き分けは敗北に等しい。

783投稿者:kyupin  投稿日:2001年10月07日(日) 19時29分36
10月5日(3日目)
今回一緒に学会にいった薬剤師さんはドクターまで出ており、以前、製薬会社の研究所にいた。しかし研究者肌だったので、(多分教授を狙っていたんだと思う)地方の大学に移籍し研究を続けたが、上の教授に干されて辞め、うちの病院に来たという経緯がある。現在、僕もスケジュールを配慮しており、彼は週に2~3日、僕の出身大学の薬学部院生の指導をしに行っている。研究も細々と続けていると言っていた。

今日は最終日だ。午前中早い時間に比較的面白いそうなシンポジウムを聞いたが期待はずれだった。いいかげん疲れていたので、昼前に学会は終わりにして、尾道に行ってみることに決めた。

尾道は26歳頃に亡くなった高校の友人と来たことがある。この時以来だが、行く前はそう期待もしてなくて、広島市内はそう面白そうなところがないし、暇つぶしに行ってみるか、といった程度だった。

それが、あれほど面白い小旅行になるとは・・

(補足)
578投稿者:kyupin  投稿日:2001年07月29日(日) 22時26分26秒
ところで、このダウン・レギュレーションという仮説は僕はあやしいもんだと思う。というのは、最近発売のSNRIのトレドミンはいやに効果が早くて、この仮説では説明できないからだ。(3~4日で効果が出る) ドグマチールも効果が早いが、これは上の仮説で説明できる機序で効果が発現するとは思わないので、例外的な薬物と思っていた。ドグマチールは効果が弱いしね。

SSRIやSNRIは、基本的に神経末端部位の伝達物質を増加させるので、ほとんどすべての薬物で効果が遅れないと、ダウン・レギュレーションの仮説が崩れてしまうと思う。逆にいえば、こういった効果出現の早い薬物の出現をみれば、上記概念に沿わない劇的な抗うつ剤の存在を暗示していると個人的には思っている。おそらくトレドミンは従来の考え方によらない抗うつの機序があると思う。

579投稿者:kyupin  投稿日:2001年07月29日(日) 22時27分37秒
もうちょっと考えてみよう。電撃療法(ECT、一般にいわれる電気けいれん療法)はほんの1~3日で効果が出現し、その効果たるや、かなりの重度のうつ状態までカバーしている。しかし電撃療法直後は、神経末端部位ではむしろアップ・レギュレーションが起こっているというのだ。だから、抗うつ剤の効果およびうつが改善する脳内変化を、ダウン・レギュレーションのみで説明するのは無理があると思う。

ちょっと不思議に思うのは、電撃療法をして、抗うつ剤も投与せずにいると1ヶ月ぐらいで、うつ状態に落ち込む人がいることだ。いったんアップレギュレーションしたものが、どういった変化が生じ、うつになってしまうのかな?と僕は思う。

まだ、このことを明快に説明できる人は世界にいない。これから研究が進み、10年ぐらい経てば、かなりのことがわかっていると思う。