素人の心療内科クリニック | kyupinの日記 気が向けば更新

素人の心療内科クリニック

たまに、全く精神科(あるいは心療内科)のトレーニングを身に付けずに開業しているクリニックがある。そんなクリニックは、うちの県では既に有名になっており、時々、院長会の話題に出る。「あれはあまりにも酷い」とか。医師免許がないことはあり得ないのでニセ医者ではないが、知らないでやっているので、これはある意味、無免の医師より悲惨だ。もちろん、悲惨なのは患者さんなのだが。

こういうことがあっても、一応、犯罪ではないので放置されたままだ。最も悪いと思うのは、患者さんまたは家族から、そういうクリニックであることが判別できないこと。判別方法の1つだが、精神保健指定医であるかどうかというのがある。普通、クリニックでは精神保健指定医ならば、外来待合室か診察室にその表示は最低限すると思う。精神保健指定医になるには精神科の経験が必須なのである。それがあったから絶対安心と言うわけではないんだけど、少なくとも無いよりは100倍マシだ。ところで、クリニックに比べ一般の精神科病院の場合、そういう表示は特にしていないことが多い。うちの病院ではそうだし、そんな病院の方が多いような気がする。

たまにそういうクリニックで治療していた患者さんが、うちの病院に流れてきて診ることがある。うつ病圏もあれば、統合失調症の人もいる。少し前だが、そのような境遇の未成年の女の子を診る機会があった。その子は僕の友人が最近、外来で診察していたのだが、ある時期、幻聴が酷くなり入院せざるを得ない状態になった。その際に紹介されて入院となったのである。

その患者さんは中学生の終わり頃に発病し、専門でない標榜だけの心療内科クリニックに受診して数年治療を受けていた。中途半端な投薬で、幻聴が治まらないまま時間が経ったので、うちに初診した時、若年のわりにずいぶん重くなっていると感じた。目がもう統合失調症なのである。以下は、その後7週間ほど入院し、退院する時の僕の友人宛のメールである。どのように感じて治療をしたかが書かれている。

入院時は多弁、多動、易刺激的で、コーヒーやジュースの要求、退院の要求などがみられ、看護者への暴言、看護室のドアを蹴るなど、不穏興奮が目立っていました。かなりひどい幻聴が持続してみられ、入院直後から6月13日までセレネース1~2A、アキネトン1Aを実施しています。(後にトロペロン1A、アキネトン1Aに変更) 幻聴は消失するまでかなり時間がかかった印象があります。内服治療では当初、ルーランを処方しましたが、幻聴に対して効果が弱くその後リスパダール主体にしました。一時興奮が強い時期はコントミン75mgを追加していました。

ジプレキサで合えばよかったのですが、処方した日、激しく興奮しドアを蹴ったり、暴言もいつになくひどい状態だったためすぐに中止しました。その後、注射治療を中止して、リスパダール6~8mgで経過観察しましたが、どうしても幻聴がわずかに残遺していたので、結局10mgまで増量し継続しています。性格的なものもあるのでしょうが、コミュニケーションなど、ぶっきらぼうで硬い感じが持続していたので、なんとか柔らかい感じを出そうと、一時セロクエルを併用(50~300mg)していました。セロクエルは確かに接触性を改善しますが、眠さの副作用出易く寝てばかりになるため、その後漸減し中止しています。結局、退院時の処方はリスパダール10mgが主体となっています。

現在の症状および副作用ですが、幻聴は本人によれば、自分の考えのような幻聴?らしき体験が時折わずかにみられているようです。入院期間は7週間ですが、後半3週間は療養病棟で生活されて、一段と落ち着いた印象があります。副作用ですが、振戦はほとんどありませんが、古い患者さんのような口渇、多飲水がみられています。これはリスパダール錠を液剤に変更すれば、改善するかもしれないと思っていました。現況、本人に薬物の管理が難しいと思ったので錠剤処方にしていますが、今後、リスパダール液の経口のアンプルが発売されたら、その検討について宜しくお願い申し上げます。リスパダールの量についても次第にもう少しは減量できるかと考えています。

その他、原因のよくわからない立ちくらみ、吐き気が最近出現してきています。セロクエルなどむしろ減量しているので、なぜかわかりませんが、回復期の自律神経症状なのでしょうか?一応、メトリジンを追加しています。本人には、服薬とデイケアの重要性について良く説明し、わりあいわかってきているように見えます。今後は貴院での外来通院、デイケアを希望しています。今後の治療につき宜しくお願い申し上げます。


なぜ、こんな風になったかと言うと、初診の医師がきちんと治療していなかったことが大きい。これ以上何とかしようにも、副作用的に限界なのである、去年、エビリファイが発売されているので、今はもう少しなんとかなるかもしれない。

去年の夏くらいに、紀伊国屋で偶然彼女と出会った。僕はすぐに気がつかなかったが、むこうから声をかけてくれた。1人暮らしをしており、わりあい元気そうだったので良かった。何を服用しているか聞くと、リスパダールなんだという。幻聴がどうしても完全に取れないと話していた。

しかし、彼女は症状があるわりに社会への適応力が素晴らしい。

辛そうな顔つきになり、「幻聴がどうしても取れない」という話し方は、ある程度、病気が軽くないとできない。清潔できちんとした服装をして、メガネもうまくかけているので、一見、病気の雰囲気がない。僕なんかはすぐに彼女の目が気になるのだが、メガネをかけているとわかりにくい。これは本人が意識してそういう風にしているのかはわからないが。

何の病気でもそうなのだが、初期の対応が非常に重要だと思う。僕はあの年齢であそこまで重い患者さんを久しぶりに診た。かわいい感じのお嬢さんであり、もしきちんと治療を受けていたなら、今の病状はかなり違っていたと確信する。中途半端な対応で、おそらく止まるはずの幻聴を残してしまったのが、機能的な予後を悪くしたと思う。いろいろやって幻聴がどうしても止まらないのならまだしも、放っておいて止まらないのは話にならない。

しかし、若い時期から幻聴がいつまでも続いていたから、現在のある意味、幻覚との共存状態になったことも言える。社会への適応力が良いのはそんな経緯もあるだろうと思う。

それは、彼女にとって良くなかったことには変わりはない。

参考
エビリファイ(その7)
3人目の女性患者
急速交代型