ICCサミットFUKUOKA 2025が大盛況のうちに終了した。
今回もフード&ドリンクアワードの審査員を担当させていただいた。全15社のブースを回り、3分のプレゼンを聞きながら試食・試飲をし、各社について採点をしていくという贅沢な経験だ。今回も各社の素晴らしい取り組みに感心しっぱなしになりながら、おこがましくも採点を進めていった。
翌日に伊良コーラの小林社長と話をしていて、過去最高レベルの接戦であったという感想を述べあったあと、審査員として出展者側にどのくらいフィードバックをしているかという話になった。実は、多くの方が審査のみをしていて、フィードバックをするケースが少ないのかもしれないと思った。そこで、出展者の方に参考になればと思い、審査の振り返り記事を書くことにした。
70名以上もいる審査員の1人として、プレゼンを聞いてどう感じたのか? どうすればもっと良くなったか?ということを率直に記載した。 >>ICC公式の結果速報はこちらから
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まず全般的な振り返りになるが、もう少し、事前にプレゼンの練習をしておくと良いと感じた。できれば社内のスタッフよりも、企業や製品のことを知らない人にプレゼンをしてみて、実際の反応を試してみるのが良い。商品のことを理解できたか、何が一番心に残ったかなどの要素を聞いてみるのが大切。やればやるほど、ピントを絞った良いものになる。目安としては少なくとも5名、できれば10名程度だろうか。10人にまとめて実施するのではなく、1人ずつ実施してその都度指摘事項を改善して次に望む。同じ人物に改善後のバージョンに意見をもらうのも良い方法だ。
加えて注力していただきたいのは以下3点だ。
1)審査項目を理解し、その審査基準に基づいて、その順番通りに説明を行う
今回の審査項目は、「おいしさ」「サステナビリティ」「アルチザン(製法へのこだわり)」「ブランディング」「共感」の5項目であった。よほどの意図がない限り、この順番で説明をしていくのが望ましいだろう。審査項目については運営チームから丁寧な解説がある。

審査員は連続で15ブースを回って説明を聞く。その間ずっと話を聞き続けて食べ続けていることもあり、ブースを訪れるタイミングで集中力が切れているケースもある。そんな状態で一方的に3分間プレゼンを聞き、試食する。そして審査点をつけるのは、約1分間のブースの移動途中だ。他のブースにつけた点と比較して適切な評価を行うのは、かなり慌ただしい。
つまり審査員は、時間に追われながら先ほど聞いた話を思い出しながら採点していく。すると、聞いた内容が審査項目のどの項目に当てはまる話なのか頭の中で整理できないケースが起きる。
ときに、「あれ、先程の話にはサスティナビリティの要素があったっけ?」とか「製法のことについて詳しい説明があったかな?」とおぼろげになる場合があるのだ。こうなると、適切な採点を受けられない可能性がある。必要な要素を整理して話すことで審査員側も採点がスムーズになり、適切な評価が受けられやすくなる。
2)つかみ をもっと工夫し、理解しやすくする
話の最初に、これからプレゼンしようとしていること=出展者としてのウリを、端的に短いフレーズで10秒程度で要約したほうが良い。少なくともその10秒以内のフレーズだけは覚えて帰ってもらえるようにする。
例えば、
◯◯県を拠点に◯◯スタイルの農業を行い〇〇という製品を作っています。
日本で初めての◯◯技術を使った商品をオンラインで販売しています。
従来の◯◯と異なり、◯◯に着目した商品を、◯◯エリアにある店舗で販売しています。
といったようなことだ。
このときに、「全国初の」とか、「何年にもわたって不可能と言われてきた技術で」とか、「他社の◯倍の時間と手間をかけて」といった、パンチのあるキーワードを入れる。
この「つかみ」=「キーワード」がないと、どうしても抽象的な印象となってしまう。抽象的な導入をすると、プレゼン時間全体が、つかみどころがないままに終わってしまう可能性が高まる。
3)最後の最後に、商売っ気を出すことも大事
あくまでフード&ドリンクアワードの趣旨は、製品やプロジェクトのPRをして審査を受けることだが、それだけではない。ICCは一般的な展示会とは異なり、決定権を持つ経営者が多く参加している。持ち時間の大半は上位入賞を目指したプレゼンに使うべきだが、プレゼンの最後の一言や自由な対話が可能な交流時間に、ビジネス的な提案をしてみるのはどうだろう。
例えば、企業のノベルティーとしての採用や、福利厚生、社員食堂での利用、社内外イベントでの賞品採用など、自社商品の活用方法を提案してみよう。 ICCサミットの参加者は、共感力が高く、「何かしら応援できることはないのか?」と考えてくれる人がたくさんいるはずだ。
サミットの会期中は朝から夜まで忙しく動いていて、おみやげをゆっくり買う時間がないという方も多いので「おみやげにどうですか?」と一言伝えてみるのもいいかもしれない。
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上記をふまえた上で、個別企業の印象とレビューである。ちょっとストレートな表現があるかもしれないが、今回は過去最高レベルの戦いであり、どの商品も素晴らしかった。その事はまず前置きとして伝えておきたい。各社の「よかったところ」が短いのはそのせいだ。素晴らしさを語らなくても、十分、良いものばかりだった。
その上で、各社もっとレベルアップできる余地があると感じたので、フィードバックを記載してみようと思う。以下、写真はすべてICC公式サイトから引用している。
博水
出品プロダクト:魚のすり身で作った麺を2種のスープで
【よかったところ】
- かまぼこで作った麺は、試食してみると想像以上にコシがあり、とても美味しかった。2種類のスープも個性があり、それぞれの特徴がよく分かった。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
日本の魚食を増やしていきたいという思いがあり、非常に共感できた。ただし、このラーメンを食べることでどれくらい魚食を促進できるのかという具体的な説明をもっと打ち出すべきであった。質問してみたところ、製品1人前あたり、魚20匹分ものすり身が使われているそうで、大いに驚いた。栄養ドリンクの宣伝で「レモン○個分」というような言い方あるが、それにならって、この麺を一食食べるだけで20匹分の魚の栄養やタンパク質が取れる!というわかりやすい説明があるともっとインパクトがあったんじゃないだろうか。グルテンフリーについても同様で、大きなアドバンテージといえる。
商品自体も、試食したのは小分けのラーメンであったが、よく話を聞くと冷凍で販売されていて解凍して食べるものらしい。であれば商品説明として、商品の完成形を見せた後、このような商品をこの値段dでオンラインで販売しているというような説明があるとさらに理解が深まっただろう。
というのも、麺だけ試食すると、麺のみを販売しているのかと考えてしまうし、麺のみの販売というと通常はスーパーの棚に並んでいて、自分で調理することをイメージしてしまうからだ。
また、かまぼこを麺にすると言う発想自体がとてもユニークなことである。このことをもう少し掘り下げ、麺にするアイデアをどうやって思いついたのか、製法上の工夫や、食感のこだわりなどを丁寧に説明することで、「アルチザン」の評価を高めるのがよかったのではないだろうか。
江田畜産
出品プロダクト:自然派和牛/自然派卵のサステナブル丼
【よかったところ】
- 肉のおいしさと、卵のおいしさ、そしてご飯も美味しく、トータルとしての商品の完成度はとても高かった。
- 東京で働いていた若者たちが、ゼロから畜産業に参入し、試行錯誤しながら改善を重ねて商品開発をしているというストーリーは非常に心を打つものだった。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
牛丼のことを「サステナブル丼」と表現していたが、サステナブルという言葉自体においしさを感じさせるニュアンスがないため、ネーミングについてはもう少し工夫があっても良かったと思われる。この言葉をかなり聞き飽きているというのもある。
プレゼンの順番として、上述のように、サステナビリティ、アルチザン、ブランディング、思いの共有というような順でのプレゼンが良かったと思われる。キャッチコピーに「自然放牧」とあるので、大きなポスターで自然の中でのびのびと育っている牛の写真を使ったり、そういった映像を用いて、どういった場所で育てているのかなど、自社の牛の育成のスタイルをもう少し他社と比較した形で、特徴的に説明すると、応援する人が増えたのではないだろうか。
新規参入での現在地をもう少し語っても良かった。たとえばDXの工夫をし、自ら販売にも乗り出して、ユニットエコノミクスは成り立っているのか?手応えはできているのか? 現状の課題は何なのか? そういったことを率直に伝えることで、共感を生み出していけたのではないだろうか。
個人的意見になるが、生産をして肉を出荷するところまででは、現在の原料価格や市況ではなかなか厳しい。何らかの形で6次産業化し、販売収入も取り込んでいかねば事業としての成立が難しいのではないかと思う。ここにどんなアイデアを創造して取り組んでいくのか、若いみなさんの挑戦を今後も注目してみたい。
セガワ
出品プロダクト:おおまさり とろり蜜 甘なつと
【よかったところ】
・大粒のピーナッツは、ほどよい甘さがありとてもおいしかった。
・落花生の農家さんの窮状について理解を深めることができた。落花生の製造工程なども理解できた。
・単に商品を作るだけでなくレストランなどへネットワークを広げ、需要を開拓していることがわかった。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
商品のキャッチコピーが「おおまさり とろり蜜、甘なっと」とあるが、率直なところ、この3語では商品イメージが喚起しにくかった。
まず「おおまさり」が落花生の品種名であるということがプレゼンを聞くまでわからない。また甘納豆のことを「甘なっとう」ではなく「甘なつと」と別の表現を使っているが、この呼び方は少し微妙かもしれない。方言でしょうか?
というのも、関西では「甘なつと」と聞いた瞬間、「甘夏(みかん)」が浮かび、「甘なつ と」 というふうに頭の中で言葉が分節される。
つまり最初は、「おおまさり」という何かを蜜がけしたものと、甘夏みかんを組み合わせたものが出てくるのかなと思ってしまった。
一言で伝えようという気持ちは理解できるのだが、もう少し手前のところにとどめて「地元品種を使った特別な甘納豆」くらいのほうが伝わりやすかったかもしれない。
プレゼンの大半の時間は、この「おおまさり」という品種が、いかに手間をかけて育てられたものなのかということであった。そのこと自体はよく理解できた。が、おおまさりの魅力を伝えたいということであれば、一般的な落花生と比較しながら単体で食べる機会も提供したほうが良かったのではないだろうか。蜜をつけた完成品を提供してしまうと、この「おおまさり」がおいしいのか、調理の結果美味しくなっているのかということがボヤけてしまうためだ。また今や殻付きの落花生は珍しいものとなっているので、「おおまさり」単体で見てもその粒が大きいのかは即時に判断できない方が多いだろう。
さらに、これは少数派かもしれないが、そもそも甘納豆は落花生から作られるということをスムーズに理解できない人もいる。製法の説明をもう少し厚くして、落花生から甘納豆が作られているが、甘納豆自体も需要が下がっているので、美味しい甘納豆を作ることでその需要も復興していきたいと考えている、など。
また、品種の説明に偏ったことで、このような取り組みによって、自社自体のストーリー、つまり、最初は問屋をしていたが自ら生産に乗り出したことや、新しい取り組みを通じて落花生農家の減少を食い止めたいという大きなストーリーが、少しぼやけてしまったように思う。つまり、この調理法を他社の農家にも伝えて、地域全体で新たな特産品を作っていこうとしているのか、それとも、いち農家として、この商品を成長させて、自社の生産を伸ばすことで、地域にインパクトを与えていこうとしているのかがよくわかりにくくなった面がある。このあたりを整理してクリアに発信すると「共感」の点がもっと伸びたはずだ。
ローカルランドスケープ
出品プロダクト:沖縄産カカオの出来立てチョコレート
【よかったところ】
・服装や提供方法に工夫が感じられて、南国沖縄の雰囲気が出ていたことがとても良かった。
・また、日頃あまり見かけたことのない、チョコの製造風景の一部がプレゼンテーションされていたこともインパクトがあったと思う。
・社長さんのプレゼンテーションは、素朴でありながらも、真摯な強さを感じさせるもので、こういった姿勢だからこそ、着実に歩を進めていくのだろうという誠実さが感じられた。
・出来立てのチョコレートは、香りが非常に豊かで、口の中で複雑な味わいがあり、魅力的に感じた。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
プレゼンテーションの流れはよく理解できた。また、カカオを育てることの苦労や、それをなぜ沖縄で実施していこうと思っているのかという面も、ある程度は理解できた。しかし、どうしても印象としては「沖縄産のカカオでチョコレートを作っている会社」というレベルのあっさりした理解で留まってしまった。共感する という点まで伸びなかったのが率直なところ。
出来立てのチョコレートを見せるだけでは訴求として弱いので、事前準備の段階であと一歩踏み込んで、出来立てのチョコレートを使って新しいメニューを開発しているということや、この出来立てのチョコレートの実演をここで見てもらいますというプレゼンにまで落とし込む必要があったかもしれない。
例えばこの出来立てチョコレートをホットチョコレートとして飲んでもらうカフェを作りますという話や、この出来立てのチョコレートを使ってパフェをかけて食べる新しい食べ方を提案したりなどといったことだ。
それが間に合わないとしても、出来立てのチョコレートをスプーンで食べるだけではなく、例えば沖縄の名産である島バナナを持ってきてそれにチョコレートを塗って食べてもらって、「贅沢なチョコバナナ」として食べてもらったり、お手製のパイナップルがあるのであれば、そのパイナップルにチョコレートをかけて新たな味わいを提案してもよかったかもしれない。
チョコレートというのは、誰にとってもなじみのある食材なので、食べ物としてのインパクトを出そうと思えば、そこまで作り込まないと、審査員の心を動かすのは難しい。また、「アルチザン」の項目に沿って考えると、カカオから美味しいチョコレートを作り出すまでの工夫の面ももう少し丁寧に解説すると良かったのではないだろうか。
ストーリの訴求も、思いを持ってカカオ生産とチョコレート生産に取り組んでいるというところまではたどり着けたが、そもそもなぜ沖縄で新たにカカオを育てようとしているのか、なぜ、メイドイン沖縄の商品を作ろうとしているのかを掘り下げて伝えてほしかった。
そもそもの出発点に、別の考えや思いがあったはずである。でないと2016年から9年間も努力が続かなかっただろう。 例えば、沖縄には観光客がたくさん来ているけれども、地場産品の消費があまり進まず、地域経済が活発になっていないという状況があったり、多くの農家が、米や野菜など、低単価の商品生産しか行っておらず、地元住民の暮らしがなかなか良くなっていないなど、ご自身が感じておられる社会課題があり、それを出発点として、メイドイン沖縄の商品を作ろうということや、チョコレートを作ろうという動きができたのではないだろうか?(これは推測であるが)。
そのような原動力となる物語が話されるとさらに点が伸びたと思われる。
オリゼ
出品プロダクト:フードコスメORYZAEの米麹グラノーラ
【よかったところ】
・一口食べた瞬間、ほのかな甘みと、それを上回る旨味が口の中に広がり、とてもおいしかった。人工添加物を一切使っていないというのが信じられないほどだった。
・グラノーラに添えられた蜂蜜のような液体が、最初は人工甘味料だと思っていたが、それも人工添加物を一切不使用の液体だと知って大いに驚いた。
・パッケージなどが、商品のコンセプトとよく合致していて洗練されている。一見して、これは明らかに売れそうな商品であると理解できた。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
自然な甘みと、豊かな旨味があり、製法に様々な工夫がこめられていることが容易に感じられた。この部分を掘り下げた説明があっても良かったように思う。米麹の働きで、とか、酵母など微生物の働きで、という説明だけでは少し物足りなかった。どのような製造工程で、このようなほのかな甘みと、おいしさが実現するのか、どのようなところに苦労があり、工夫をして、この商品開発に至ったのかなどをもう少し丁寧に説明しても良かったと思う。それだけ凄いことを成し遂げているのだから。甘味料を添えられていた液体で最初蜂蜜だと勘違いしていた。もう少しプレゼンテーションで、くどくなるくらい、一切砂糖や添加物であることや、添加物等を使っていなくて実現していることを訴求してもよかったのではないか。そして、味わいについても、薄いわけでは決してなく、ゆっくりと食べると、本当に口の中で豊かな味わいが広がっていった。この味の調整でも、さぞかしご苦労があったことと思うので、そのことを改めて説明してもよかったのではないかと思われる。つまり、「アルチザン」の点が取り切れていなかったのではないだろうか?
カップの中にグラノーラと一緒に入っていた液体が、最初は蜂蜜だと勘違いしていた。これも自然由来の砂糖の入っていないものだとのこと。くどくなるくらい、一切砂糖や添加物であることや、添加物等を使っていなくて実現していることを訴求してもよかったのではないだろうか。
また、この技術自体がブランドの根幹になっていると思うので、今後の発展領域、これからの取り組み内容について詳細な説明があるとブランド評価もかなり高まったように思う。
個人的にはこれをグラノーラバーにして量販店に並ぶようになれば爆発的にヒットするんじゃないかと思いました。
麹王子
出品プロダクト:あいすくりーむ革命/発酵アイス
【よかったところ】
・プレゼンされた3種類のアイスクリームはどれも美味しく、砂糖が96%もカットした形で作られているとはとても想像がつかないほどだった。
・完全に無糖にこだわるのではなく、微量の砂糖を使うことで味の良さを追求していることもよく理解できた。
・大きな提灯を設置したり、冷凍ショーケースなどを準備し、しっかりとした世界観をもって展示をしたいという気持ちが伝わってきた
【ここを磨けばさらに良くなる!】
冒頭で、米麹とは?を丁寧に説明するために1.5分ほど費やされていたが、今回の限られたプレゼン時間では、このプレゼンはカットしてもよかったのではないかと思う。フード&ドリンクアワードの審査員レベルであれば、米麹について知っていて食べたことがある者も多いからだ。
その浮いた時間で、麹でアイスを作ることの難しさについてあと少し説明が欲しかった。
また、麹でアイスを作ることによるメリットがボードで大きく3-4つ記載されていたように記憶しているが、上述のように「米麹とは」をカットした上で、それらのことを説明し、キャッチコピーにある「革命」の意味を明らかにしたほうがインパクトがあったと思われる。
商品自体に大きなインパクトがあったが、開発者自体のパーソナルヒストリーも含めて、伝え方のところで点が伸び切らなかったように感じた。麹王子という社名にしているくらいなので、きっと社長さん自身が麹にかける思いやバックグランドがもっとあるはず。そこを伝えきれたら結果は違っていたはず。
柴海農園
出品プロダクト:サラダセット/「農家のアテ」シリーズ
【よかったところ】
・旬の野菜の味がしっかりと感じられて、とてもとてもおいしかった。逆説的だが、このブースで野菜を食べることで、今外食産業や、お惣菜で使われている野菜が、いかに味が薄いものであるかを思い知ることになった。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
いただいたパンフレットに作り手としての思いが描かれている。
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有機農業って大変ですよね?とよく聞かれます。私は、大変ですがとても面白いですよ!と答えています。
なぜ有機なのですか?と聞かれます。
難しいからおもいしろいんです!と私は答えます。
土作りをし、1から種を撒き、最適なタイミングで管理をし、狙い通り作り上げた野菜を好きな人に食べていただく。この営みの一例を体感できる農業が大好きなんです。
せっかく作るなら、より喜んでもらえる有機栽培で、最高においしいタイミングで収穫できる旬の野菜だけを、野菜が好きなお客様に直接届けたい!そんなわがままを貫き通しで2009年から印西市で農業をしています。
柴海農園の野菜セットには、夏にほうれん草は入りません。冬にきゅうりは入りません。同じ野菜が続いたり、おいしい!と思った野菜が次のセットには入らなかったり、季節の野菜を食事に取り入れることは、戸惑うこともあるかもしれません。
しかし季節の流れに身を任せてみると、「ない」ことの豊かさが見えてきます。旬が過ぎれば次の季節までお預けです。
その野菜が「無い」時間があるからこそ、季節がめぐる感動があり、実感があります。
野菜セットは、野菜だけでなくその旬のある暮らしも一緒にお届けしています。
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読んだときに、凄くいいなと思って読み返した。
このフレーズは、確固たるポリシーなので、このスピーチから入ったらもっとよかったかもしれない。
多くの農園や直販サイトに掲載されている、野菜セットと何が違うのか?が、上記のスピーチに込められている。野菜と言う差別化しにくい商材だからこそ、その背後にある思いや、スタンスで上手に差別化し表現することが重要になりますね。
野菜をそのままサラダにするわけなので「アルチザン」の項目は普通にいくとどうしても低くなる。そこを理解した上で、野菜作りにおける工夫を丁寧に説明できていたらさらに点が伸びたと思われます。
くれぐれも、野菜サラダもペーストもとてもとてもおいしかった。
門崎 格之進
出品プロダクト:出汁で食べる格之進ハンバーグ
【よかったところ】
・毎回、新しいアイディアと工夫で商品を提供してくださるそのチャレンジスピリットは、本当にすばらしいと思います。
・「肉おじさん」こと、千葉さんのプレゼンは非常にわかりやすく、なぜこの商品を開発したのか、広まったらどのような世界が待っているのかについて明確なビジョンが伝わってきます。結果として応援したい気持ちが自然と高まります。
・出汁に浸したハンバーグは、おでんに入っているつみれのような食感で、肉と出汁の旨味が見事に調和していて、とてもおいしかったです。肉を食べた後の出汁は、最初とは味が変わっており、それを飲み干すのも楽しい経験でした。思わずおかわりしてしまいました。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
「おいしいハンバーグを出汁につけて食べる」という直感的アイディアベースの商品であるため、アルチザン性とサステナビリティの面で少し訴求が弱くなってしまったかもしれない。
実際には、思いつきであっても実際の商品化にあたってはいろんな試行錯誤があったかと思う。味にこだわりのある千葉さんであれば、なおさらのこと。 であれば、「デミグラスソースじゃなくてだしで食べる文化にしていきたい」という思いを実現するため、味付けにどのような工夫を重ねたのか、どんな難しさがあるのかということを掘り下げて説明すると良かったように感じた。
次にサステナビリティについては、「昆布漁師が救われる」といった簡単な説明にとどまっており、この点の物足りなさが総合結果にも響いた可能性がある。サステナビリティの訴求要素がこの点しかないのであれば、もう少し丁寧な説明があると良かった。たとえば、拠点としている岩手の昆布漁師さんが磯焼けなどで苦しんでいる現状を説明した上で、異業種と連携し、新しい食べ方を提案することで地域の課題を解決していくという強い思いを伝えるなど。
今回はその説明が少し足りなかったために、アイディアベースの商品という印象が強くなってしまったように思います。とはいえ、さすが格之進ブランド。すぐにまた食べたくなるほど、美味しい料理で、今回一番おかわりしました。
TREASURE IN STOMACH
出品プロダクト:ヴィーガン&グルテンフリーのケーキ/焼き菓子
【よかったところ】
・砂糖も小麦粉も使っていないとは思えないような、美味しいお菓子を提供されていた。
・現状のビジネス展開についても端的に整理してプレゼンをされていた。
・ブースにおける世界観、かわいらしさが丁寧に表現できていた。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
プレゼンテーションでは、まず商品説明から入っていたが、小麦、乳製品、卵、白砂糖を一切使用していないお菓子であることを先に説明してから試食に移った方が良かったと思う。そうすることで、試食時のおいしさがより大きな感動につながったはず。また、「どのように作っているのか」という疑問も自然と生まれるため、次のステップで、米麹や油、果物などを使用して上手に甘みを引き出す技術的な部分についても、もう少し詳しい説明があれば、「アルチザン」の評価がもっと上がったのではないでしょうか。
また、商品説明から始まったプレゼンテーションでしたが、お菓子のような既存市場に溢れている製品の場合、作り手の物語やストーリーが重要な差別化要因となります。質問を通じて、代表取締役の柴田さんご自身にアレルギーがあり、幼少期から周囲と同じものが食べられない苦労があったこと、社会人になってからも会食の場面で周囲の理解を得ることが難しかったといったパーソナルヒストリーが明らかになりました。
このような経験を持つ方が世の中に実際どれくらいいるのか、具体的な人数を示すと良かったでしょう。口頭では「世界中に何億人もいる」という説明でししたが、日本国内の具体的な数字を示すことができれば、より説得力が増したはずです。
そういった数字をもとに、「実はあなたの身近にも、言い出せないだけでアレルギーを持つ人がこんなにいるんです」というような説明ができれば、よりインパクトがあったかもしれません。個人的な見解として、アレルギー保持者は今後も増加傾向にあり、欧米と比較して日本の商品選択の幅はまだまだ限られています。
特に地方部では、アレルギーを持つ子供のお母さんが安心かつ美味しいおやつを見つけることが難しく、やむを得ず、味気ないアレルギー対応ケーキを提供せざるを得ない状況が多々あります。そのため、このようなビジネスには大きなポテンシャルがあります。
そのことが審査員に十分に伝わらなかったかもしれないなと感じました。
ジーバー
出品プロダクト:癒しのジーバー豚汁
【よかったところ】
・味噌や野菜のおだやかな味付けが、ジーバー豚汁というネーミングにぴったりで、心が穏やかになった
・ブースの演出が明るく前向きな感じで、説明を聞く前から、シニアのエネルギーを高めるような面白いプロジェクトであることが伝わってきた
【ここを磨けばさらに良くなる!】
味噌の味や野菜の食感も良く、豚汁としてとてもおいしかった。立ち居振る舞っておられたおばあちゃんたちが、非常ににこやかで、疲れを見せずにプレゼンしていたのは、とても良い光景だった。商品そのものではなく、地域の取り組みという、このフード&ドリンクアワードにとっては新たな展開の可能性を示してくれたことはとても良かった。
一方でプレゼンは、豚汁の試食から始まるため、通販などで販売している特別なプロダクトなのかと誤解してしまった。豚汁というのは具体的な商材というよりも、このプロジェクトを象徴する一つの例なのだということを理解するのに少し時間がかかってしまった。
あくまでこの活動がプロジェクトであること、地域の人材やエネルギーを活用し、地域を盛り上げていく活動であること、豚汁はその象徴としての商品であることなどを、冒頭に端的に説明してからその後の話をふくらませたほうが、より理解しやすかったかもしれません。
そしてこの取り組みが、一時的な活動ではなく、成功モデルを各地に広げていこうとしている点などをもっと明確に説明されると、プロジェクトに対するより深い理解につながったのではないかと思います。
これは余計なお世話ですが、このプロジェクトがどのような収益構造で回っているのかについても興味がありました。今後が本当の楽しみです。また、豚汁が飲みたいです。
アットホームサポーターズ
出品プロダクト:猟師の鹿バーガー
【よかったところ】
・鹿をまるごと利用するという同社のコンセプトに基づき、鹿の角や皮でのグッズ、ペットフードなど、様々な商品を世界観を持って展示できていたのは、魅力が伝わりやすかったと思います。
・ハンバーガーは、鹿肉の味がしっかりとし、地下のリンクを使っていると事前に聞かなければ、陸上動物の肉と間違えてしまうほど、食べ応えのあるものでした。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
試食し、プレゼンを聞いていると、また(もっと)食べたいなと思うのですが、この商品がどこでどのように販売されているのかが冒頭に明確に説明されませんでした。冷凍で販売しているのか?直営のレストランで食べられるのか?説明がないと、頭の中に疑問が残ったまま次に進んでしまいます。まず冒頭で、「鹿肉の消費を増やすためにおいしいバーガーを作り、このような流通ルートで提供しています」というような端的な説明があれば、その後の情報がスムーズに頭の中に入ったと思います。
自社で解体施設を持っているからこそ、旨味に違いが出るというご説明でしたので、この点についてはもう少しじっくり説明しても良かったと思います。一般的な解体方法を説明した上で、その方法だと肉の味が落ちてしまうのか?その味を調整するために、自社でどのような工夫をしているのか?について具体的な説明があれば、「アルチザン」の項目の評価がもう少し上がったと思います。
そもそも、なぜ鹿を捕るべきなのか?という点についてはもう少し丁寧な説明が必要でした。鹿が増えすぎており、地域の被害が深刻な状況になっていること、需要がないために捕獲があまり進んでいないことなどを地域の現状として示し、その上で、鹿を捕獲し美味しく食べることが、地域づくりにつながっていくという説明があれば良かったと思われます。少し触れられていましたが、駆け足な感じがあったので、「本当に深刻なことである」という印象付けが必要ということですね。
余談ですが、1日目と2日目で、ハンバーガーの断面が全く異なっており、提供されるポーションの形が2日目にはとても美しくなっていることに気が付きました。当初は、担当される方が提供に慣れてきて、カットが上手になったのかと思っていましたが、後日聞いてみると、デザイン&イノベーションアワードに出展されていた一文字厨器さんの包丁を早速導入したとのこと。細かいことですが、このような工夫はお客様にも伝わりますので、短い時間の中で最善を尽くすという意味で、とても良い挑戦でした。食感にも明らかな違いがありました。
鹿の角を利用したり鹿の皮を使ったグッズを販売しているという説明については十分理解できましたが、今回はあくまでフード&ドリンクアワードの展示です。その部分に時間を使うのであれば、上記のような味の説明やサステナビリティについての説明に時間を割く方が、全体としての評価が良くなったかもしれません。
フローミュラ
出品プロダクト:有機/農薬不使用のクラフトハーブティー
【よかったところ】
・独自にブレンドされたハーブティーは、温かいまま飲んでも、アイスにアレンジしたり、ハチミツを加えたりしても、とても美味しくいただくことができました。つい何度も足を運んでおかわりをしてしまいました。
・ブランドの世界観の表現が優れていて、色合いや、力強いメッセージボードの配置など、見せ方へのこだわりが感じられました。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
まず、審査項目に沿って各項目を丁寧に説明していくと良かったと思います。テンポ良くいろんなトピックが出てきていたのですそのトピックがどの審査項目の話なのかを整合させるのに少し時間がかかりました。
まず大前提として、審査員の半分(半分以上)は男性で、ハーブティーに馴染みがない。もちろん聞いたことがあり大まかには知っていますが、身体に良さそう、とか、普通の紅茶よりも良さそう みたいなボンヤリした解像度しか持ち合わせていません。
なのでそういった初心者レベルに合わせたトーク展開に設定したほうが良かった。
例えば、味について言えば、どのようにハーブをブレンドしているのか、なぜそのハーブを使うのか? なぜ農薬不使用にこだわっているのか。手作業での封入についても簡単な説明ではなく、機械では出せない本当の美味しさを実現するために、あえて手間をかけているという説明があると良かったと思います。クラフトと呼ぶ根拠、つまり一般的なハーブティーとの違いを説明しても良かったかもしれません。
次に、今回は6種類のブレンドが紹介されていましたが、商品名がすべて英語表記でした。英語表記自体は良いのですが、「Turn On」「Warm up」「Cheer Up」という3種類が並んだとき、そのニュアンスの違いを日本人が的確に理解できるでしょうか。
同様に「Cool Down」「Calm Down」「Turn Off」の3種類も、言葉のニュアンスの違いが微妙です。ブランディング的には英語の方がかっこいいのかもしれないけれど、本質的な価値を伝えることを優先したほうが結果として売れます。
どういうシチュエーションで飲んでもらいたいのかという視点から提案する方が良いのではないでしょうか。冷静になりたい時と深く落ち着きたい時の違いは分かりにくいため、例えば「目覚めのとき」「良い夢のために」といったネーミングにして1日の時間帯による使い分けを示唆したり、「Presentation」とか「Relax」とか「Exercise」とかタイミングによる使い分けを示唆するネーミングで具体的な効果を訴求するなど、6種類の違いを明確に伝えられると良かったと思います。
加えて「アルチザン」の項目の加点を狙うべく、例えば「Turn On」(始めるためのブレンド)ならば、どのような狙いで、どのような材料を用いることでそれを実現しようとしているのかを解説すると良かったと思います。
上述のように男性審査員の多くはローズヒップ、ハイビスカス、月桃と言われても、その味や香り、効能を具体的にイメージできません。そのため、「このような方に飲んでいただきたくて、この効果を期待して、ローズヒップを中心にブレンドしました」といった例を出し、それぞれのシチュエーションに最適な成分配合をしていること、その素材へのこだわりの一例を説明できれば、アルチザンの項目の評価が上がったと思います。
パンフレットにも一部書かれているようなこと、例えば「飲む前にまず香りを吸い込むことで、感情や本能に関わる大脳辺縁系にダイレクトに働きかけ、効果が高まる可能性があります」といった説明を口頭で簡潔にするだけでも、聞き手には専門知識の深さが伝わります。
コーヒーやエナジードリンクなど、カフェインや糖分による急激な血糖値の上昇で身体をむりやり活性化させる商材が大流行していますが、その健康リスクに気づいた人から徐々に離れ、代替製品を求める人が増えていきます。このような流れの中、ヨーロッパでは一般的な、ハーブティーで気分や体調をコントロールする手法は、日本でもこれから確実に注目されるはず。時代の流れにフィットした商材であり、伝え方次第では大きな市場を作り出せる可能性があります。何より本当に美味しいので、これからも頑張ってほしいところです。
流行
出品プロダクト:あらゆる課題を詰めるソーセージ(本マグロの葱鮪(ねぎま)ソーセージ、奥多摩わさびソーセージ、平飼い鶏と勝沼ぶどうのソーセージ)
【よかったところ】
・3種類のソーセージが、何度も何度も食べてしまうほどの美味しさで、また、食べ飽きないように絶妙なバランスであっさり目に味付けされている
・どんなプロジェクトなのか明確にボードで説明されている
・堂々としたプレゼンテーションと、社長さんの人柄が表れた、ブース全体に流れる明るい雰囲気
【ここを磨けばさらに良くなる!】
まず、社長さん自身がソーセージのマイスターであり、世界各国のソーセージ技法をマスターして本も出版している腕前を、もっと誇りを持ってアピールするべきでした。そして地域の課題を詰めたソーセージを作り、今後どのように展開していくのかという未来像をもう少し説明すると良かったと思います。現状では「廃棄されてしまう素材や利用価値の低い素材を使って美味しい商品を作りました」というところにとどまっているため、インパクトはとても大きいものの、全体のビジョンが少し見えにくい印象でした。
味に関しても、「変わった材料が入っていてもおいしい」という単調な感想にならないよう、もう少し補足説明が必要だと思いました。具体的には、3種類それぞれに含まれる材料の水分含有量が異なるため、仕上げ方も異なり、それこそが難しいポイントであるはずです。その食感の違いを克服し、「美味しい商品」に仕上げられることこそが、職人としての最大の技量なのではないでしょうか。塩味でごまかすのではなく、極力あっさりした味付けにおさえることで、含有しているわさびの葉や、まぐろの味を感じさせることに見事に成功しています。まさに、アルチザン!
例えば「ぶどうを使用する際はこういう特徴があるため、この味付けにしています」「マグロの場合はこういう特徴があるため、この仕上がりにしました」というような説明を加えるだけでも、審査員にとっては斬新な印象になったはずです。また、塩分をコントロールすることは保存可能期間とのトレードオフになるため、簡単なことではありません。このあたりの説明があっても良かったのではと。
地域の素材を使ったソーセージという商品自体はとてもわかりやすいので、地域の居酒屋やビアバーなど(特に近年急増しているクラフトビール業界との面白いコラボレーションなどを通して)さらに広がっていくことを期待します。とてもとても美味しかったです。
森林ノ牧場
出品プロダクト:四季を味わう森林生まれのジャージー乳製品
【よかったところ】
・社長さんの熱のこもった話しぶり、誠実なお話ぶりは、このプロジェクトにかける想いと重なって、非常に感銘を受けました。
・それぞれの製品にあわせたデザイン表現が上手で、味の雰囲気ととてもマッチしていた
・加工品のチーズとヨーグルトが特に美味しかった
【ここを磨けばさらに良くなる!】
いただいた資料には次のように書かれていました。
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大切な資源になるはずだった植林された森林が活用されず荒廃し、土砂崩れや獣害が増加している。森林大国である日本は今、全国各地でこのような問題を抱えています。
そんな折、私たちは2009年に未活用の森林を活用して「森林の牧場」を開きました。森林と畜産を掛け合わせることで、新しい循環の仕組みを作り出せるのではないかというビジョンが描けたことがきっかけでした。
放牧された牛たちが森の中を自由気ままに歩きまわり、豊かな草を食べてはのんびりと木陰で休む。そんなのどかな風景が広がる森林の牧場では、自然の循環を牛たちが創り出してくれています。
人間が手入れできない下草を牛が食べ、ミルクやお肉という恵みを人に与えてくれるだけでなく、牛糞に様々な虫たちが集まり、それを餌に小動物もやってきて、森の土壌が豊かになっていく。豊かになった土壌には栄養のある草が生え、それを食べる牛からはさらに栄養価の高い良質のミルクが取れるようになる。牛が森に入ることで、実はこのような価値の循環が自然と生まれているのです。
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上記の活動方針のコメントは大変シンプルで素晴らしい。このことをプレゼンの際にも冒頭で説明できていれば、もっと理解が進んだのではないかと思いました。どこで、どのくらいの広さで行っていることなのか? そしてそこから、この手法で活用できる森林の面積がどのくらいあるのか?つまりこの森林の牧場プロジェクトは、どのくらい拡張性があるのか?という説明があることで、サステナビリティの評価はさらに上がったのではないかと思います。
そもそも、このようなプロジェクトで、森林の再生と酪農の育成を両立しているプロジェクトは、他にあるのでしょうか?何か技術的な困難があり、他の人は今までできなかったことなのでしょうか?それとも昔は一般的に行われていたが、現状では行われなくなってしまったものなのでしょうか?それとも、このプロジェクトは唯一無二のものなのでしょうか?そのことも、もう少し説明があると理解が進んだのではないかと思います。
このコンセプトへの理解を深め、ファンを増やすために、実際には観光牧場として森の散策ができたり、牛との触れ合い体験を提供されています。このようなことも説明されると、サステナビリティの評価がさらに上がったのではないかと思います。
また、今回アルチザンの項目もありましたので、牛乳だけでなく、チーズやヨーグルトが提供されたのも非常に良かったと思います。強いて言うなら、職人の要素を評価する必要があるので、それらのチーズやヨーグルトが、どのような工夫をされて作られているのか、一般的な製品との違いをもう少し掘り下げると、さらに高評価だったのではないかと思います。
こと京都
出品プロダクト:九条ねぎのしゃぶしゃぶ
【よかったところ】
・ネギのカットを2種類食べ比べるという単純明快で、非常に訴求力のあるプレゼンは見事でした。カット幅で味や香りの印象が全く変わるということを直接的に体験できました。
・ネギにできることをすべてやる、という強い思いが感じられる、力強いプレゼンでした。
・九条ねぎというブランド定義が曖昧な環境のなか、育てにくい品種をあえて採用し、原種を保っていこうと強い思いで取り組まれていることが非常によくわかりました。一般的には、価格を重視して、香りや味があまりないが育てやすいという理由だけで栽培される品種があることを例に出し、それと比較していたのも、理解が深まりました。
【ここを磨けばさらに良くなる!】
とてもわかりやすく熱のこもったプレゼンだったので、改善点というのはほとんどないのですが、強いて言うのであれば、どちらかというと差別化しにくい商材である「ねぎ」を、ビジネス的にどのように展開されているのかがもう少し説明されているとよかったと思います。現場では、さまざまな方面に広く出荷をされていますが、確か、浸透する過程では、有名なラーメン店に積極的に営業をかけて使ってもらうなど、九条ねぎの認知拡大・ブランド向上・販路拡大を狙うために、地道な工夫や努力をされていたと記憶しています。どこのスーパーでも安値で売られているねぎという商材を、どのような努力を通じて価値を感じてもらい、流通ルートを切り開いていったのか、そこのストーリーには、聞き手の心を動かす何かがあるはずです。
これも大変細かい指摘になりますが、試食用のカップが非常に小さかったため、だしの量と肉とネギのバランスが非常に取りづらくなっていました。コストのこともありますが、やはりコンテストなので、その商品で訴求したいことが最も伝わるような器の大きさなどを工夫すると良いと思います。具体的には、もう1〜2回り大きい紙コップを用意し、だしと肉を入れ、そこにたっぷりとしたネギを入れるのが良いのではないかと思います。このことによりネギの食感の違いや、出汁との相性を存分に感じてもらえる仕掛けになったことでしょう。豚しゃぶになっていたこと自体は、興味を引くきっかけになり、とても良かったと思います。何より、ねぎが本当に美味しい!!
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以上です。上記を通じて、審査員がどのような印象を持ちながら審査をしているのか、審査の際に、どのようなポイントが心に残り、どのようなポイントが物足りないと感じているのか、1つのヒントにしていただければ幸いです。
もちろんですが、上記はあくまで藤田個人の観点であり、審査員が10人いれば、10人の背景知識があり、10の異なった印象があります。料理の専門家なら、味についてもっと深い異なる角度からの分析を行うでしょうし、社会起業家であれば、サステナビリティや社会性の部分をもう少し厳密に評価すると思います。
今回の出会いも何かの縁と考えていますので、もし今後ピッチコンテストに出られるなどで、プレゼンのフィードバックが必要な方は、お気軽に(本当にお気軽に)藤田までご連絡ください。喜んで、相談相手になります!
皆さんのますますのご活躍を楽しみにしています。美味しい食材をありがとうございました。