八ヶ岳 随筆 亀盲帖

八ヶ岳 随筆 亀盲帖

曲草閑人のブログ

 年が明けて成人の日も終わった。八ヶ岳は水道が凍るほどの寒さだが、今の所幸い積雪は無い。ただ連日、乾ききった八ヶ岳颪が、山おも吹き飛ばす勢いで荒れ狂っている。

 

 そんな嵐の音を外に聞きながら、家の中でぬくぬくと過ごすには、薪ストーブは最高だ。この冬も、薪ストーブ開きは、昨年の10月30日、つまりよーこの誕生日に行われた。

 

 シーズンオフの間に積もった埃を叩き、煙突に掛かった蜘蛛の巣を払い、炉の中の灰を整える。木の屑と小枝を組んで、着火剤をそっと入れ込む。チロチロとカワイイ火が灯り、それを上手に育てる。少し太い小枝を入れ更に火を大きくする。中ぐらいの薪をくべる頃は、炉の中いっぱいに炎が躍る。そして、メインの太くて重くてごっつい薪を入れれば、天井に達する煙突は、ゴーゴーと喜びの歌を歌い始めるのだ。

 

 

 ああ~、あったかい。薪はふんだんに有るので、好きなだけ、遠慮なく火が焚ける。さあ、ささやかなお誕生日パーティーを始めましょう。この日のお誕生日パーティーメニューは、ステーキ。戴き物の超高級ステーキ肉が、この日の為にとってあったのだ。

 

 

 もちろん、ステーキは自分が焼く。店をやっていた頃の人気メニュー「小角堂ステーキ」の焼き方で。副菜はソーセイジのペンネとアンチョビのサラダ。これらも自分の手作り料理だ。そしてお気に入りのパン屋のおいしいフランスパンに赤ワイン。

 

 

 カンパイして豪華な料理に舌鼓を打つ。音楽は当然、最高の音響でLPレコードをかけまくる。この日のチョイスは、よーこのリクエストで、ゴダイゴに始まり、越路吹雪、ザ・ピーナッツ、そして、我らが上條恒彦という、邦楽の夜となった。

 

 

 散々呑んで散々食べて、一息ついた時に、お誕生日プレゼントを渡した。

 

 

 骨董屋で入手した三体の金色不動明王、そしてその不動明王を納める厨子を自ら木工で手作りしてあげた。もう一つは財宝の有りかが、なぞの絵や記号と文章で記された、秘密のノート。よーこは大喜びしてくれた。

 

 

 外はビュービューと風が吹いている。その森のざわめきも、山がお祝いの歌を歌ってくれていると思えば、嬉しくなってくるではないか。今シーズンの薪ストーブ開きも、実に楽しく素晴らしい夜となった。炎はいつまでもいつまでも、明るく暖かく、陽気に歌い踊り続けてくれた。

 ああ~、今年は雪が少なくて助かったなあ~。

こう呟いたのは2月の終わり頃だった。去年の冬の始まりから、年末年始、年が変わって厳冬期の1月2月と、殆ど雪は降らず、降ったとしても風花が舞う程度で、道に積もることはなく、今年は助かったなあと、安堵の胸を撫で下ろしたものである。

 

 ところがどっこいだった。3月に入ってこんなことになろうとは。

寒波は八ヶ岳を襲った。しっかりと、これでもか、というくらいに雪を積もらせた。しかも、それは一度ではなく、降り積もった雪がようやく融けた頃に次の寒波がまた大雪を振らせ、更にそれが融ける頃にまた降った。2週間ばかりの間に、なんと3度も大雪に見舞われたのだ。

 

<我が家に通ずる「もののけ小道」の様子>

 

<我が家からの下り道>

 

 もちろん、寒波到来は八ヶ岳に限った事ではなく、全国的なもので、特に日本海側は災害級の降雪となり、連日ニュースで取り上げられていた。テレビの映像を見れば、まさにそれは被災地であった。八ヶ岳は、そこまでではなかったが、やはり日常生活にはかなりの支障がでた。

 

 がんばって雪掻きをして、昼間の太陽で残りの雪がやっと融けたかと思うと、翌朝は何事も無かったかのように、一面の雪景色が広がっている。わー、きれいだなあー、じゃない! 雪掻き前と同じ風景に、まずは目を疑い、気を取り直して、絶望的な気分を味わい、そしてうんざりするのだった。

 

<庭の様子>

 

<えれえこった>

 

<ボルボも埋まった>

 

<お出かけは出来ません>

 

 もし、悠々自適な生活を送っていて、何処にも出掛ける必要もないのなら、雪景色の風情を楽しむ余裕もあろう。薪ストーブの火にあたりながら、樹氷の美しい景色を愛で、きれいだねえ~、とつぶやくだろう。そしてコーヒーを片手に「徒然草」の『雪のおもしろう降りたりし朝』を思って、莞爾するというのもオツなものである。

 

<2階の窓から外を見る>

 

<我が家の裏手の様子>

 

 ところが現実はそうはいかない。雪掻きしなくてはならない。道を作らねばならない。車を出さなくてはならない。仕事に行かなくてはならない。出勤しなくてはならない。雪に埋もれた標高1000mの我が家から、更に雪深い標高1200mに有る勤務先に出勤するのだ。しかも夜の凍った雪道の出勤である。嗚呼、理想と現実。もうヤダよう~。

 

<勤め先の風景>

 

<見てるだけならイイのだが>

 

 しかし、そんなことばかり考えても仕方あるまい。春が来たら、やりたかった事を思いっきりやろう。それを夢見て乗り切ろう。やっと、我が家に通ずるもののけ小道が、雪解けでぬかるんだ頃、テレビで桜前線の話題が出始めた。まずは、お花見するのが楽しみだ。

 

<うう~、寒い・・・>

 

 

 風邪を引いた。何年かぶりに本格的な風邪を引いた。

 

 無事に新年を迎え、松の内を過ぎた頃だった。その夜、やけに寒いなあと感じていた。ストーブを焚いてホットカーペットも入れているのに、やたら寒い。今夜は随分と冷え込んでいるのだなと思っていた。

 

 翌日、発熱した。そうか、そういう事か。夕べが特別寒い夜だったわけではなく、自分の感覚がおかしくなっていたのだ。熱は二日で下がった。幸い、インフルエンザでもコロナでもなかった。単なる風邪だった事に、ホッとしたものである。

 

 しかし、ここからが長かった。熱はすぐに下がったものの、体中が風邪であることを主張している。フラフラするしクラクラするし、気力がなく何もやる気が出ない。そんな状態が10日ほども続いた。ようやく、その体調も回復したが、咳が残った。喉が痛いわけでもないのだが、不快なイヤな乾いた空咳がやたら出る。タバコを吸おうものなら、一吸いで咳き込む。タバコが吸えないというストレスが原因で、病気になりそうだった。

 

 咳が納まり、何となく全快したようだなと思えたのは、風邪を引いてから一か月後だった。しかし、治ったとは言うものの、一旦冷え切ってしまったエンジンは、なかなか掛からない。普段はやりたいことだらけで、寸暇を惜しんで動き回っているのに、ただただ無為に過ごす日がそれからもしばらく続いた。

 

 二月も半ばを過ぎ、ようやく最近になって徐々に気力が満ちてきた。どうやら再起動してからのアイドリングは終わったようだ。そんなわけで、年明けから絵を描くこともなく、書を書くこともなく、文章を書くこともなく、物を作ることもなく、創造的なことを何もしないまま今日に至り、今この文章を書いている次第。

 

 やはりこの歳になって、一旦病垂れが付くと、その回復には想像以上に時間が掛かるものなのか。普段の何気ない日常が、健康で元気で居れることの有難さを、しみじみと感じるのであった。

 

 今までに「今日も元気だタバコが旨い」というフレーズを何度も使っているが、この度、つくづくそれを実感した次第である。 ああ~、タバコが旨い・・・