八ヶ岳 随筆 亀盲帖

八ヶ岳 随筆 亀盲帖

曲草閑人のブログ

 先月、5月25日、サックスの巨人、ソニー・ロリンズが死去した。95歳。

今更、ロリンズの説明もないと思うが、やはりジャズに興味が無い人は知らないだろう。

 

 1930年、アメリカ、ニューヨーク生まれのテナー・サックス奏者。

モダン・ジャズの巨匠と言われ、所謂ビバップの創始者の一人でもある。

 

 訃報を聞いた時、さほどビックリしなかった。95歳だもんね。逆に、短命が多い伝説のジャズマンの中にあって、その御長寿にビックリという感じ。ただ、自分が多大なる影響を受け、自分史の青春の1ページに刻まれた偉大なアーティストが、また一人この世から去ってしまったのだなあという思いだった。

 

 自分のジャズへの入口が、正にこのソニー・ロリンズだった。

アルバム「サキソフォン・コロッサス」の中の一曲目『セント・トーマス』。

この曲が、高校生だった自分をジャズの世界に誘い入れてくれたのだ。

 

<高校時代、初めて買ったジャズのレコード。

ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」>

 

 『セント・トーマス』からロリンズを知り、ジャズにハマって行ったのには、以下の様な経緯があった。

 

 中学生からプログレッシヴ・ロックにハマっており、キングクリムゾンだピンクフロイドだELPだイエスだジェネシスだと、小遣いの許す限り、レコードを買い漁っていた。中でも一番好きだったのがELP(エマーソン・レイク&パーマー)だった。ELPのアルバムは全部揃えていた。ただ、中学生の友達でそれを理解してくれる人は皆無だった。

 

 高校生になり、同じ音楽の嗜好を持つ友達が何人も出来た。その中に特に詳しい先輩が居て、いろいろ教わった。

或る日、その先輩が自宅に遊びに来て、一緒にレコードを聴いていた。その時かけていたのがELPの「恐怖の頭脳改革」というアルバムだった。曲が進み、アルバムの中の最高傑作といわれる『悪の経典 作品9 第二印象』という曲が流れていた時、途中の間奏部分で、先輩が急に「あ!このフレーズ、ロリンズだ!セント・トーマスだ!」と言ったのだ。

 

<ELPの名盤「恐怖の頭脳改革」>

 

 「??? 何、何? それ何? なんの事?」と尋ねると、「今の部分のワン・フレーズはジャズのソニー・ロリンズの有名な曲の一部だ。オマエもそろそろジャズに入るべきだな。ロリンズはお薦めだぞ。まずはさっきのフレーズの元の曲が入った、サキソフォン・コロッサスというアルバムを聴いたらどうだ」

 

 そう言われて、後日さっそくレコード屋に走り、「サキソフォン・コロッサス」を買った。生まれて初めて買ったジャズのレコードだ。針を落とすと、1曲目の『セント・トーマス』が始まる。テーマとなる導入部分のフレーズが、正に『悪の経典 作品9 第二印象』の途中に出てくる、あのフレーズだった。

 

<高校時代に買ったこのアルバムは、今でも大事に聴いている>

 

 ちょっと感動してしまった。そして、アルバム「サキソフォン・コロッサス」を聴きまくった。やがて、そのアルバムの参加メンバーである、トミー・フラナガン(P)やマックス・ローチ(Ds)、ダグ・ワトキンス(B)にも興味が湧いてきた。もちろんロリンズの他のアルバムも入手した。そしてどんどん枝葉が広がり、どっぷりジャズの世界にのめり込んで行くのであった。

 

<自分の、ソニー・ロリンズ コレクション>

 

 結果として後年、自分でジャズ・バーを経営するまでに至る。店では常にジャズの名盤といわれるレコードをかけていた。とは言っても、知ったかぶりの理屈っぽい薀蓄垂れの「ジャズ・マニア」になったわけではなく、ただ単純にジャズが好きというだけ。だから、相変わらずロックもポップスも、クラッシクもブルースも民俗音楽も、幅広く聴いていたのだが。

 

 今でも、バーボンを舐めながら、よくジャズのレコードをかける。ソニー・ロリンズが入口となって、ジャズを知ってから既に47年。様々なジャズを聴いてきたが、一周回っても二周回っても、今だに最後はロリンズの「サキソフォン・コロッサス」に戻って来る。どんなにジャズを深く聴き込んでも、どんなにマニアックなものを知っても、やはり「サキソフォン・コロッサス」はジャズ史に残る最高の名盤の一枚に変わりはない。

 

 そんな、ソニー・ロリンズの訃報に、10代の若き自分の、刺激的だった日々が、まざまざと甦って来た。

 

 

 偉大なるジャズのレジェンド、ソニー・ロリンズ。心からご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

 期待というものは、大きければ大きいほど、ハズレた時のダメージが大きい。

それは当たり前の事なのだが、わかっていてもつい期待してしまい、後でガッカリするという事になる。

 

 先日、かなりガッカリする事が有った。

 

 町役場に行った時、たまたま映画のチラシを手に入れた。

その映画のタイトルは『鹿の国』。

 

 

 インパクトのある写真のチラシだったので目に付いた。

何の映画だろうとチラシを読むと、諏訪大社を中心とする「諏訪信仰」と、その重要な神事である「御室神事」を軸に、「ミシャグチ神」や「大祝(おおほうり)」、「おこうさま」などに迫るドキュメンタリー映画だというではないか。

 

 自分は八ヶ岳に移住してからというもの、謎に満ち溢れた「諏訪信仰」に興味を持ち、フィールド・ワークを続け、自分なりの説を立てつつある。つまり、自分の興味の対象のドンピシャな映画なのだ。

 フィールド・ワークをしても、まだまだ解明できない謎が多々あり、もしかしたらこの映画が何らかのヒントを与えてくれるかも知れない。

 

 これは、絶対に観に行かなくては!

 

 映画は、所謂ミニ・シアター系で、普通の映画館での上映ではなく、公民館的な施設で、一日だけ上映される。

当日会場に直接行けばいいらしいのだが、限られた席数なので、事前予約で席を確保する方が安心だ。

 

 で、前売りを買う前に、映画の前情報を得ようと、公式ホームページなどを調べてみた。

すると、映画の概要とともに、何枚かのスクリーン・ショットが出て来た。

 

 

 

 

 

 

 上にあげた5枚がそのスクリーン・ショット。

おお!これはすごい!期待できそうだ、とさっそく前売りを購入したのだった。

 

 そして、当日。ワクワクしながら、須玉町にある「ふれあい館」という農村総合交流施設に向かう。

はじめて来たこの施設は、実に立派なものだった。

 

 

 事前に買った前売りのスマホを提示して、入場する。

ホールも立派で、公民館のイメージとはかなり異なり、モダンな施設だった。

 

 

 約90分の映画を観終った。

 

 感想・・・・・

 

 ガッカリ度MAX。

 

 なんじゃコリャ。

 

 確かに「諏訪信仰」をモチーフにしてはいるが、その表面をうす~く撫でるだけの、まったく無意味な映画だった。

深く切り込むところは何処にもなく、「御室神事」を再現したというものの、その真髄にはまったく迫っていない。

「ミシャグチ神」も「大祝」も「おこうさま」についても、何の探究もない。

その、あまりにも、薄っぺらな内容に、驚愕したものである。単なる観光案内とさして違いは無い。

 

 まったくもって、ビックリで、視終って会場を出るときには呆然としていた。

一緒に行ったよーこも、「なんともならない映画だったねえ~」と正直な感想を漏らした。

二人揃って、映画に対する期待が大きかっただけに、お互いの顔に失望が溢れている。

 

 ネットの事前の情報では、

「これほど心が騒ぐのか?」

「ドキュメンタリー映画として異例の大ヒット!」

「見れないものを見たい!」

「メガヒット!」

などの、褒め言葉が並んでいたのだが・・・・・。

 

・・・・・期待ハズレが甚だしい。

みんなー!だまされるなー!!

 

 「諏訪信仰」は興味の尽きない謎に満ちたネタの宝庫なのに、なぜこんなつまらん映画が出来たのか。

 それこそが謎である。

 

 年が明けて成人の日も終わった。八ヶ岳は水道が凍るほどの寒さだが、今の所幸い積雪は無い。ただ連日、乾ききった八ヶ岳颪が、山おも吹き飛ばす勢いで荒れ狂っている。

 

 そんな嵐の音を外に聞きながら、家の中でぬくぬくと過ごすには、薪ストーブは最高だ。この冬も、薪ストーブ開きは、昨年の10月30日、つまりよーこの誕生日に行われた。

 

 シーズンオフの間に積もった埃を叩き、煙突に掛かった蜘蛛の巣を払い、炉の中の灰を整える。木の屑と小枝を組んで、着火剤をそっと入れ込む。チロチロとカワイイ火が灯り、それを上手に育てる。少し太い小枝を入れ更に火を大きくする。中ぐらいの薪をくべる頃は、炉の中いっぱいに炎が躍る。そして、メインの太くて重くてごっつい薪を入れれば、天井に達する煙突は、ゴーゴーと喜びの歌を歌い始めるのだ。

 

 

 ああ~、あったかい。薪はふんだんに有るので、好きなだけ、遠慮なく火が焚ける。さあ、ささやかなお誕生日パーティーを始めましょう。この日のお誕生日パーティーメニューは、ステーキ。戴き物の超高級ステーキ肉が、この日の為にとってあったのだ。

 

 

 もちろん、ステーキは自分が焼く。店をやっていた頃の人気メニュー「小角堂ステーキ」の焼き方で。副菜はソーセイジのペンネとアンチョビのサラダ。これらも自分の手作り料理だ。そしてお気に入りのパン屋のおいしいフランスパンに赤ワイン。

 

 

 カンパイして豪華な料理に舌鼓を打つ。音楽は当然、最高の音響でLPレコードをかけまくる。この日のチョイスは、よーこのリクエストで、ゴダイゴに始まり、越路吹雪、ザ・ピーナッツ、そして、我らが上條恒彦という、邦楽の夜となった。

 

 

 散々呑んで散々食べて、一息ついた時に、お誕生日プレゼントを渡した。

 

 

 骨董屋で入手した三体の金色不動明王、そしてその不動明王を納める厨子を自ら木工で手作りしてあげた。もう一つは財宝の有りかが、なぞの絵や記号と文章で記された、秘密のノート。よーこは大喜びしてくれた。

 

 

 外はビュービューと風が吹いている。その森のざわめきも、山がお祝いの歌を歌ってくれていると思えば、嬉しくなってくるではないか。今シーズンの薪ストーブ開きも、実に楽しく素晴らしい夜となった。炎はいつまでもいつまでも、明るく暖かく、陽気に歌い踊り続けてくれた。