古典的な魔球漫画は、主人公の投手が新魔球を開発→ライバルに打たれる→主人公の投手が新魔球を開発→…というサイクルの繰り返しだった。
「巨人の星」と「侍ジャイアンツ」は魔球漫画の代表のように扱われているが、魔球は原作︰福本和也の「ちかいの魔球」（1961～62年連載、作画：ちばてつや）と「黒い秘密兵器」（1963～65年連載、作画：一峰大二）でアイデアが出尽くしており、梶原一騎の「巨」「侍」は魔球の限界を示した作品だった。
「黒い秘密兵器」の「秘球」は速い話がボールの手品であり、椿林太郎が新しい手品を考案し、ライバルがそのタネを見抜くことの繰り返しだった。
河崎実が『「巨人の星」の謎』（平成5年）で指摘したように、星飛雄馬はライバルにホームランを打たれた（決め球をライバルに打たれ、結果がホームランになった）だけでマウンド上で号泣し、監督命令も聞かずマウンドを降りるという悪癖があった。
1966年または67年、夏の甲子園、青雲高校対紅洋高校、星飛雄馬はマウンドの上に崩れ落ちて号泣。
1968年開幕戦、巨人対大洋、左門に速球を打たれ、星飛雄馬はマウンドの上に崩れ落ちて号泣、マウンドを降りて球場を後にした。
1968年後半戦、巨人対阪神、花形が大リーグボール1号を打って予告ホームラン。飛雄馬はマウンドの上の崩れ落ちたがここでは泣いておらず、花形も倒れていたのを見て驚き、本塁打を見届けて落涙。
1969年前半戦、大リーグボール1号をオズマに打たれて、マウンドの上に崩れ落ちて号泣、降板。
1970年開幕戦、巨人対中日、伴宙太に大リーグボール2号を打たれ、飛雄馬はマウンドの上に崩れ落ちたが、長嶋から打球が頭上にあることを知らされ、ピッチャーフライを捕球。
星飛雄馬は1970年の前半戦、阪神戦で花形に大リーグボール2号を打たれた。原作のKC大リーグボール17巻、文庫10巻「強いやつが勝つ!」ではこのとき、飛雄馬は「いまのおれときたらどうだ。花形のバットに一撃された消える魔球がはいそれまでよとばかりレフト場外に消えたとたん、まだベンチから指示もないのにとことこマウンドをおりちまった」、そして大リーグボールが邪道だと言い、野球は本来大きな男が力をぶつけ合うものだと言ったあとで、「おれは野球をバッテリー間だけの小手先だましの手品にだらくさせた!手品なんてたねが割れちまえばもうおよびじゃない」とも述べている。
おそらくは飛雄馬が心の中で思ったことだろう。
Y!Japan 梶原一騎 植木等
この場面の少し前、1970年の春のキャンプの時期、中日への移籍を嫌がっていた伴が巨人軍の事務所で「巨人に残るか、引退して星の大リーグボール3号開発に協力する」という希望を述べていたとき、川上監督は「星も手品師ではないのだよ」と諭していた。つまり新魔球の開発は「新しい手品を考え付くこと」と同類だと認識されていたのである。
のちに飛雄馬は1970年後半戦、大リーグボール3号で復帰したあと、観客から「マウンドの魔術師」と称賛され、一部メディアが魔術師・引田天功との対談を提案していた（『巨人の星』KC第19巻、文庫第11巻）。
さらに1978年の大リーグボール右1号のときは阪神のロメオ・南条が「こんな手品の相手にはならん」と言っていた（『新巨人の星』文庫第6巻）。
最終的に飛雄馬は「手品」としての魔球を切り札とするのが自分の個性だと割り切ったようである。
1969年、左投げの大リーグボール2号が現れたとき、一徹は「打つ方法より魔球の謎を解き明かすのが先」と述べていた。しかし1970年に花形が消える魔球の秘密を解明したとき、アニメでは花形が消える魔球を打つ方法がすぐに見つからず、苦心して雪を使う方法にたどりついた。原作でも長嶋と王が「魔球の秘密を知っていてもすぐ打てるものではない」と言っていた。
1978年の大リーグボール右1号（蜃気楼の魔球、ボールが3つに分身）の場合、もはや、謎解きはどうでもよくなり、花形（ヤクルト）も左門（横浜大洋）も地面の影の上のボールを打てばいいという結論に達した。
大リーグボール左1号から右1号まで10年、梶原一騎は「手品」としての魔球に見切りをつけていたようである。
梶原一騎の作品がが魔球漫画の代表で、水島新司がチームプレーとしての野球を描いた先駆者と言われるが、梶原一騎は既に野球漫画における魔球の限界を示しており、「脱魔球」の土台を作っていた。
水島新司の「ドカベン」では魔球と呼ばれないものの里中智の「さとるボール」という「落ちるシュート」が登場し、プロ野球編では里中のスカイフォーク、不知火のイナズマなど、むしろ魔球への回帰が見られた。
水島新司がアンチ梶原一騎のようでありながら、梶原一騎の後継者だったというのは、ヒニクである。
平成24年tw
〔劇画王梶原一騎BOTさん (@kajiwara_bot) / Twitter〕
「とても信じられない…あの幼い少年が魔送球を投げるなんて…それにあの左手の指にあった奇跡のようなボールだこのなぞは…？」【川上哲治『巨人の星』】 #kajiwara
大リーグボール2号から急に飛雄馬の少年時代に戻りましたね。消える魔球が花形に打たれた後の原作での飛雄馬の自虐的な独白は凄いものでした。「タネが割れても舞台にしがみつく手品師はピエロに成り下がる…悲しきピエロ、その名は星飛雄馬…」。
参考になるブログ記事：悲しきピエロ - 人生に必要なことは、すべて梶原一騎から学んだ
「悲しきピエロ、その名は飛雄馬」 - Y!検索
飛雄馬は魔球を手品で邪道だと思うなら、消える魔球を編み出す前にそれに気付くべきだった。
平成25年tw
返信先:@kajiwara_botさん
「あしたのジョー」で矢吹丈が植木等のファンだったのは有名だろうが、「巨人の星」でも文庫10巻で星飛雄馬の心の中の独白に「はい それまでよ」「およびじゃない」という台詞がある。
星飛雄馬が蜃気楼の魔球をヤクルトの花形に打たれても、かつてのような戦線離脱をせず、（広島や中日を相手に）魔球を投げ続け、横浜大洋の左門に打たれても王貞治の守備に助けられ、試合に勝ったことが、記事（論文?）からわかる
雑誌で詳しく触れられていないが、劇中、南米リーグから阪神に入団したロメオ・南条というライバルは「こんな手品の相手にはならん」と言って星飛雄馬の「蜃気楼の魔球」を故意に見送り、合間の速球を打ってピッチャー返しで星を倒そうとしていた。
その後、星一徹が長嶋茂雄に助言し、ロメオのピッチャー返しは、巨人の連携守備によって破られた。
/『昭和40年男』平成28年10月号 | 虚実歴史のブログ (ameblo.jp)/
令和2年tw
『#巨人の星』ではカーブの発明者はゴールドスミスで、これを披露した後、人々は驚き、そして批判を始めたらしい。「堂々と直球で勝負し、打たれたらそれでいいではな」という理由だ。
令和4年tw
/#巨人の星/
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/悲しきピエロ - 人生に必要なことは、すべて梶原一騎から学んだ (goo.ne.jp)/
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/#巨人の星/
＞おれは野球を、バッテリー間だけの小手先だましの手品に堕落させた！手品師なんて、タネが割れちまえば最後 もう、およびじゃない
＞タネが割れても、まだ舞台にしがみつく手品師はピエロに成り下がる、悲しきピエロ、その名は飛雄馬・・・
/悲しきピエロ - 人生に必要なことは、すべて梶原一騎から学んだ (goo.ne.jp)/
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関連語句
参照
平成23年BLOG
/梶原一騎と植木等/
平成24年BLOG
令和2年BLOG
『巨人の星』における金田正一の星飛雄馬に対する見方の問題（魔球が打たれたらどうすべきだったか）
令和4年NLOG
【非公開】『巨人の星』文庫9巻「あっと驚くタメゴロー」
令和4年07月02日 21:18
【非公開】『巨人の星』文庫10巻「はいそれまでよ」「およびじゃない」
令和4年07月02日 21:26
【非公開】『巨人の星』文庫10巻解説
村上和彦 高校野球まんがとしての「巨人の星」
和暦と西暦混在
令和4年07月02日 21:29
【非公開】豊福きこう「ジョーと植木等」
令和4年07月02日 22:21
【非公開】【巨人の星】魔球と手品
令和4年07月05日 11:15