鈴木一夫著『水戸黄門の世界』(河出書房新社、1995)
史実の徳川光圀の生涯、業績などを紹介している。「光圀が生類憐みの令に抗議して綱吉に犬の皮を送った」という説のもとは何だったかがわかる。
この本が出た1995年は佐野黄門の時代で、かげろうお銀が主人公のスピンオフ『水戸黄門外伝 かげろう忍法帖』が放送されていた時期である。
金文京著『水戸黄門「漫遊」考』(講談社学術文庫、2012)
中国の故事などと比較して『水戸黄門漫遊記』がどう形成されたかを考察する本のようだ。
この本はもともと、著者が金海南という別名で1999年に出した本であった。それが2012年に文庫になった。
原本が出た1999年は1月は加藤剛主演の『大岡越前』の第15部(1時間連続枠の最終シリーズ)が放送されていた時期で、前後の『水戸黄門』は佐野黄門の末期、第26部と第27部の間であった。
文庫が出た2012年は『水戸黄門』が里見黄門を最後に終了した2011年の翌年。文庫版あとがきで、 当然ながらテレビの『水戸黄門』終了について言及があった。
21世紀は著者(金文京氏)の予想を超えて激動の時代となった。情報化社会、インターネット社会において、水戸黄門の「忍び旅」など詐欺行為だという指摘だ(文庫373~374ページ)。
また文庫の364~365ページで金氏は「もし水戸老公によって救われた民衆が一揆を起こしたらどうなるか」という假説を立て、光圀と助・格は一揆を鎮圧する側に立つだろうが、弥七は水戸黄門の正義を自分の正義にすることができるかどうかという疑問を投げかけている。
『水戸黄門』において討幕をたくらむ勢力や密貿易を考える商人は悪人とされる。これは幕末の坂本龍馬の時代には正義となる。『平清盛』で清盛は宋との貿易の發展を夢見ていたが、光圀の正義は幕府の統治と鎖国の体制を強化することだけであった。これが『水戸黄門』の限界だった。
282~283ページによると1898年(明治31年)の『中国九州漫遊記』で光圀は道中で出会った九紋龍長次という盗賊を改心させて仲間に加え、のちに東海道で騙りをはたらくごまの灰だった龍宮の万五郎または長五郎を捕まえ、手討ちにしないで供にした。中村幸彦氏によるとこの万五郎または長五郎のモデルが松之草村小八兵衛らしい。 金氏は283ページで松之草村小八兵衛を「弥七と八兵衛のモデル」としているが、これは金氏自身の推測であって、番組の公式設定ではない。罪人を家来にするあたりは、『西遊記』で三蔵の弟子になった孫悟空、猪八戒、沙悟浄がみな過去に罪を背負っていたのと似ている。
金文京氏の名前は、北京語なら Jin Wen-jing で、朝鮮語なら Kim Mun-gyeong となるはず。
本では著者名が漢字の「金文京」とローマ字の KIN BUNKYO があり、完全に日本語音読みだ。
在日華僑かと思ったが本人は日本生まれで、父親の故郷が韓国の全羅南道海南郡にあるらしく、原本のときの筆名「金海南」(どうしても「金南海」と勘違いしてしまう)はそこから来ているらしい。そして和歌山県にも海南があり、もちろん中国にも海南島がある。
そうなると金文京氏は在日韓国人二世になるが、それで日本語音読みで名乗っているのは珍しい。もっとも中国の朝鮮族は日本語を学ぶと自らの名を日本語音読みで名乗ろうとする。だから金文京氏のほうが大陸的ではある。
なお、「きんぶんきょう」を日本人が發音すると、正確には KIM BUNG-KYO のような發音になる。
T-CupBlog>『光圀伝』【作品】
@kyojitsurekishi 「天地明察」で算哲を後押しした光圀は「光圀伝」では藤井紋太夫による「水戸から将軍を出して大政奉還」の提言を却下し紋太夫を手討ちにした。大和暦の件で光圀は朝廷や公家に恨みを持っていたのであろうか。
posted at 13:25:02
@kyojitsurekishi 時代劇の「水戸黄門」では鎖国体制を守る事、幕藩体制を守る事が絶対正義であった。「光圀伝」では藤井紋太夫が光圀に「水戸から将軍を出して大政奉還」という提案をして手討ちにされた。
posted at 21:35:51
幕末に慶喜が大政奉還するとは光圀も想像できなかったか。
@KenjiMizuchi 水戸黄門は生類憐みの令に批判的だったと言われ、綱吉に犬の皮を贈ったという伝説もありますが、番組では憐みの令は生命尊重の法で役人たちが悪用していたことになってます。直訴がご法度なのは当然で、「光圀伝」で光圀は大政奉還を進言した藤井紋太夫を手討ちにしてます。
posted at 05:18:22
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@NewsIbaraki 茨城の皆さんもご存じでしょうが2015年大河は「花燃ゆ」で2016年は「真田丸」です。「光圀伝」は「天地明察」のような映画化の方が現実的でしょう。「桜田門外ノ変」で北大路欣也が、「八重の桜」で伊吹吾郎が斉昭を演じました。慶喜の父を前面に出したら如何でしょう。
posted at 04:19:08
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〔平成25年8月〕(AmebaBlog)
関連語句
水戸黄門(参考&おすすめ書籍資料&網頁)
光圀伝(T-CupBlog)
参照
漢字論原点回帰II>『漢文と東アジア』金文京(KIN BUNKYO)著、岩波新書