「足元をすくう」か「足をすくう」か【1】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-883.html
mixi日記2009年12月05日から
「足下
」でも「足もと
」でも「掬う」で同じこと。
「足元をすくう
」「足元をすくわれる
」でも同じこと。
何年も前から気になっていた。
例によって、過去のmixi日記から引く。とりあえずは朝日新聞の例に終わってしまう。
予想を超えた分量になったため、またしても2回に分けることになる。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982831080&owner_id=5019671
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02-5-2
5月28日
上位との差を縮めて、意気揚々と本拠に戻った近鉄だが、最下位ロッテに足元をすくわれた。(朝刊/17面)
新聞記事の一文としては少し長い。まず細かい部分から。冒頭の「縮めて、」は、「縮め、」か「縮めて」のどちらかにするべきだろう。「本拠」は「本拠地」
のほうがスンナリ来る気がする。このあたりまでは趣味の問題。問題は「足元をすくわれた」。語感はこっちのほうがいいけど、「足をすくわれた」が正しく日
本語ではないか。この「足元をすくう
」の類いは某「ゴング」誌に頻出する表現で、気になってしかたがない。
「足
元」は「足のあたり」「足場」「足の運び」ぐらいの意味で、慣用句では「足元を見る」とか「足元がおぼつかない」とかが一般的。「足」のほうの慣用句で
ニュアンスが似ているのは「(揚げ)足を取る」かな。意味で考えても、「足元」を「すくう」のはむずかしい気がする。
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982835352&owner_id=5019671&org_id=982831080
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03-3-1
3月20日
独走中の千代大海が、過去の幕内対戦成績で10勝1敗だった若の里に足元をすくわれた。(朝刊16面)
「足元をすくう
」の類いを新聞で目にしたのは、たしか2度目。どうしてもこれが正しい日本語とは思えない。前に見たのも、スポーツ欄だった。某氏が指摘するように、スポーツ担当の記者は日本語力に問題があるのだろうか。まあ、経済面なんかにはまず登場しないフレーズだよな。
気になってインターネットで検索してみると、最近目立つ誤用のひとつらしい。
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03-8-1
8月11日
夕刊17面から。
11日の朝刊が休みだったため、10日と11日(前半)の夏の甲子園大会(第85回全国高校野球選手権記念大会)の結果を伝えている。問題の記事は、10
日の岩国(山口)対羽黒(山形)戦の試合結果。「羽黒、足元すくわれた」と大きな見出しが躍る。文中にも、「岩国の粘っこい攻めに足元をすくわれた」とあ
る。まず問題は「足元をすくう
」。本来の表現は「足をすくう
」のはずだが、もはや誤用ではないのだろうか。さらに、「足をすくわれる
」は「格上の者が格下の者に不覚をとる」のニュアンスがある。たしかに2人の好投手を擁する羽黒は前評判が高かったが、これは対戦相手に対して相当失礼な書き方じゃないだろうか。
などと書きながら、さまざまな疑問が新たに湧いてくる。
・
「不覚をとる」は漢字で書くなら「取る」なのだろうか。表記の問題は別として、「不覚をとる」はなんか異和感がある。論理的に考えると「不覚をとられる」
になりそうな気がするが、そんな表現は聞いたことがない。いちばん無難なのは「不覚を喫する」だろうな(古臭いな)。
・「~を擁する」ってすごく堅苦しいけど、この場合は「~を持つ」は使えないから、書きかえるなら「~がいる」ぐらいしか思い浮かばない。
・「対戦相手に対して」って重言じゃないのかな。
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982836800&owner_id=5019671&org_id=982835352
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04-2-2
2月26日
バイエルンに押され気味だったレアルは粗い守備の弱点を突かれ、足元をすくわれる
ところだった。(朝刊19面)
また出てしまった「足元をすくわれる
」。
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=982844557&owner_id=5019671&org_id=982843795
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05-7-1
7月24日
黒35でFとして、次に黒41から決められれば理想形だが、白はGに飛んで足元をすくってくる。(朝刊17面)
囲碁の観戦記にあった文章。これだとさほど異和感がないというより、この場合「すくう」のは「足元」であって「足」ではない。「下からすくってくる」とか「足元をうかがわれる」とかすると妙な感じになる。
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06-3-1
3月18日
足元をすくわれた米国のスター軍団は悲痛だ。(朝刊17面)
「足元をすくう
」は、もうふつうの表現になってしまったのだろうか。
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06-11-1
11月1日
気を抜けば、足元をすくわれかねない。(朝刊16面)
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06-12-1
12月7日
韓国との戦いを意識しすぎると足元をすくわれる
。(朝刊16面)
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=515163559&owner_id=5019671
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7-1
2日
「ここで足元をすくわれたら一気に落ちるからね」(朝刊16面)
プロ野球のロッテの清水投手のコメント。「足元をすくう
」
はこのところよく目にする。前にあるサイトに質問してみたところ、昔の文献にあることはあるそうな。何十年の間に何例かが見える、なんてのは使用例という
より誤用と言うべきでは。一方で「誤用」としている意見も目にする。とはいえ、このところ確実に目にする機会が増えている。個人的には、「使いたくない」
表現。あと何年かで「もう誤用とはいえない」表現になるんだろうな。
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7-2
9日
先場所不覚を取った安美錦にまたも足元をすくわれた。(朝刊15面)
今度は相撲の記事。スポーツの解説なんかで使いやすいからタチだ悪い。ただね。フツーに「足をすくわれた」ってしておけばいいと思うんだけど。
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7-3
12日
一票では変わらないと斜に構える御仁がいるが、棄権の零票ではなお変わらない。(朝刊1面)
天下の(?)「天声人語」もこういう表現を使うようになったのね。「斜に構える」も使いやすいがために誤用として定着しつつある。「斜に構える」「さわ
り」「役不足」を、定着しつつある誤用の御三家と勝手に考えている。先に書いた「足元をすくう」や「射程距離」あたりもかなり危ういところにいる。ただ、
「射程距離」はうるさく言う人が増えたせいか、「射程圏」とかにしている例も増えてきた気がする。辞書的には正しい「射程」は、さすがに言葉足らずの印象
があるせいか、あんまり見ない。
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=886931303&owner_id=5019671
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08-7-6
場所前の出げいこでは足元をすくわれている。(朝刊18面)
もう定番か。念のため書いておくと、個人的には「足元」の「元」は不要だと思っている。
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1211558022&owner_id=5019671
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09-6-6
25日
勢力争いが激しく、一歩間違えれば足元をすくわれかねない現代の将棋界で、その健在ぶりを示した。(朝刊38面)
村上耕司記者。まずおなじみの「足元をすくわれる
」。手元で調べると、08-7-6/07-7-1/07-7-2などがある。
それを別にしても相当気持ちが悪い。まず「一歩間違えれば」じゃないだろ。「少し油断すると」「一瞬でも気を抜くと」あたりがフツーじゃないかな。それ
と、現役の名人にが防衛したのを「健在ぶりを示した」はヘンだろう。数年ぶりに復位したなら、「健在ぶりを示した」ことになるだろうが。インネンかな?
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1325422941&owner_id=5019671
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09-10-5
11日
まさに上り調子の時、足元をすくわれた。(朝刊21面)
広部憲太郎記者。ボクシングのチャンピオンが陥落したことを伝える記事。「まさに」はよく目にする不要な用法。「足元をすくう」も定番になりつつある。
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「足元をすくう」か「足をすくう」か【2】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-884.html
長年、清らかなの心の片隅に小さなシミのようにわだかまっていた問題に対し、有力な情報をいただいた。
ちょっとしたしたきっかけで、下記のようなブログをみつけてコメントを入れた。
http://fc2ch2wiki.blog85.fc2.com/blog-entry-486.html
【tobiクンのコメント】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
はじめまして。
気になることがあったのでコメントいたします。
「足元をすくわれる
」「足元をすくう
」は、個人的には誤用だと思います。
ただ、これを誤用と考える根拠がハッキリしません。
何より当方がチェックを続けている朝日新聞では、「足元をすくわれる
」の類いをかなりの頻度で目にします。
一部をあげます。
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●2006年
06-3-1
【3月】
3月18日
足元をすくわれた米国のスター軍団は悲痛だ。(朝刊17面)
「足元をすくう
」は、もうふつうの表現になってしまったのだろうか。
【11・12月】
06-11-1
11月1日
気を抜けば、足元をすくわれかねない。(朝刊16面)
06-12-1
12月7日
韓国との戦いを意識しすぎると足元をすくわれる
。(朝刊16面)
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URLは書き込めないようですが、「足元 すくう tobirisu」のキーワードで検索していただけば見つかると思います。
「足元をすくわれる
」を誤用としている文献などがございましたら、教えていただけませんか。
07年度「国語に関する世論調査」(文化庁)の件は「黒tobirisuの黒々日記」の2009.11.08分http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-193.html
に書いています。
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すると、「FC2ちゃんねる」さんから以下のコメントをもらった。
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足元をすくう
について
コメントありがとうごさいます。
さて、「足元をすくう
」についての文献が見つからなかったので、ヤフー辞書からの引用しておきます。
ヤフーの辞書検索で「足元(足下
)」を検索すると、『あし‐もと【足元/足下
/足▽許】』の項目がヒットします。
その項目に『◆「足を掬(すく)う」との混同で、「足下
を掬う」とするのは誤り。』と書いています。
足元は足の接している地面や影のことで、地面や影はすくうことができません。だから、「足元をすくう
」「足元をすくわれる
」は誤用となります。
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ネット辞書の『大辞泉』を見ると、たしかにそう出ている。
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E3%81%82%E3%81%97%E3%82%82%E3%81%A8&dtype=0&dname=0na&stype=0&pagenum=1&index=00387700278400
以前、トピを立てるときにひととおり調べたときにはなかった。そのあとに加筆されたのだろう。
そのときに立てたトピは下記。
一部のコメントをコピーしておく。
【足をすくわれる
/足元をすくわれる、苦杯を喫する】校正・校閲 トピック
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=32516488
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2008年06月27日 22:12
tobirisu
疑問に思うことがありまして、またしても皆さんのお知恵を拝借したいと思います。
A 足をすくわれる
B 苦杯を喫する
1)当方の語感だと、AもBも「(格上の者が)格下の者に負ける」というニュアンスがあります。
最近Bを「互角あるいは格上の者に負ける」の意味で使う例↓を目にしました。もしかするとBはそういうときにも使えるのかも、という気がしてきています。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=851937145&owner_id=5019671
2)Aの慣用句の場合、「足元をすくわれる」は許容できますか? 表記に関しては「足下
」「足もと
」でも同様と思われるので、「足元」でお願いいたします。
以前別のコミュ↓で「足元をすくわれる」は誤用と断言する人がいたので根拠を訊いたところ、答えてもらえませんでした。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=29102652&comment_count=14&comm_id=8873
個人的には「足元をすくわれる(「足元もすくう」も同様)」は誤用ではないかと思っていますが、根拠が見つからずに困っています。
1)2)にいずれか一方にでも(もちろん両方になら、なおうれしいのですが)、ご意見をいただければ幸いです。できれば辞書なり書籍なりの記述を示していただけると助かります。
コメント(13件)
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2 2008年06月28日 00:34
■学研『言葉の作法辞典』(電子辞書のEX-word所収)
これに「足元をすくわれる」が誤用であることの根拠が出ていました。
--
「すくう」は「掬う」あるいは「抄う」と書き、下から上へ急に持ち上げるようにする、横にはらうなどの意。「足元」は、立っている足の近くやその付近、または立場・状態などの意。したがって、足はすくえるが、足元はどのようにしても「すくう」ことなど不可能である。
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3 2008年06月28日 00:46
こんばんは。
まず私が調べたのは、共同通信社の『記者ハンドブック(第11版)』。
A・Bとも[誤りやすい用字用語・慣用句](P476~)の欄にありました。
もちろん、こちらで表記されているA・Bが正しい使い方としてですが。
ただし、Bの「苦杯を喫する」は、「苦杯をなめる」も併記されていました。
また、小学館の『類語例解辞典』では「苦杯」も「苦汁」と同様に、
「なめる」ことができるようです。(笑)
1)について
Aは「格下の者に負ける」というニュアンスを私も感じますが、意味としては、
「相手のすきにつけいって、失敗や敗北に導く『広辞苑(第5版)』」とあり、
一概に「格下から」とはいえないのではと思えます。
「足」という使い方が、「格下」というニュアンスを与えてしまうのかもしれません。
また、「すき」というのも「格上」の「格下」への油断から、とも読み取れますし。
Bも「苦汁をなめる」と同じく意味としては「苦くてつらい経験」ということで、
相手の立場以前に、自分自身の感覚から発せられる思いなので、「上」も「下」も
ない使い方になるのかな…と感じました。
2)について
「足元」は誤用と見ます。
彩図社「知らないと恥ずかしい日本語の常識」(P37)で問題となっていまして、
解説で―※「足元」は足の下の地点を指す言葉であり、具体的にすくうことができない―
と記されています。
電子辞書の広辞苑・明鏡でも「足元」は「立った足のあたり」とあるので、
足そのものではないから、と判断します。
出典が手近なものだけで判断してしまい、また、自分の意見らしいことも
申し上げたことにはなりませんが、いかがでしょうか?
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4 2008年06月28日 11:28
tobirisu
さっそくのコメントありがとうございます。
>2
>●●さん
前トピに次ぐコメントありがとうございます。
『言葉の作法辞典』 というものがあるんですか。初めて聞きました。
いろいろ誤用の話が出てるんでしょうね。
やはり電子辞書を買うべきか……悩みが深くなりました(笑)。
>3
>●● さん
共同通信社の『記者ハンドブック(第11版)』ですか。
手元にあるのは第6版なので、[誤りやすい用字用語・慣用句]の項目すらありません(泣)。
「苦杯」は、「苦杯を喫する」と「苦杯をなめる」くらいしか用例が浮かびません(再泣)。
「苦杯をなめる」だと「負ける」のニュアンスすら薄れる気がしています。
「格下に負ける」のニュアンスを感じていたのは、当方の勘違いですかね。
「足元をすくわれる」 は積年の悩みなんです。数年前にネット上の質問箱で訊いたこともありますが、不明のままでした。
http://kotobakai.seesaa.net/article/8255738.html
彩図社「知らないと恥ずかしい日本語の常識」ですか。これも初見です。探してみます。
ほかに情報をお持ちのかたがいらしたら、教えてください。
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5 2008年07月25日 17:07
tobirisu
http://www.asahi.com/culture/update/0724/TKY200807240403.html
文化庁が24に発表した07年度「国語に関する世論調査」の結果。
「足をすくわれる」が本来の形と明記してあります。少し気が晴れました。
意味は「卑劣なやり方で失敗させられること」。ウーム。そこまでヒドいかな? この意味だと、格下が格上に陥れられるときにも使えるような……。
朝日新聞がこれをヌケヌケと書く神経がわからない。
当方がチェックしている限りでは、朝日新聞ではここであげている言葉を頻繁に誤用している。
「足をすくわれる」より「足下
をすくわれる」の使用例のほうが圧倒的に多い。
「憮然(ぶぜん)」も誤用の意味で頻出している。
「檄(げき)を飛ばす」も誤用の意味で定着している観がある。
もうひとつの疑問。「論陣を張る」と「論陣を敷く」はどっちが一般的なんでしょう。どっちもアリでしょうけど、「背水の陣」は「敷く」ですよね。
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いろいろな辞書類が、「足元をすくう」を「誤用」と書くようになった。
誤用される例が目立つようになったからだろう。
一般の辞書が認めていないのにネット辞書が認めている……という表現は警戒していることにしている。なんせ、ネット辞書は新しい言葉をなんでも無節操に取
り込みすぎる。その対応の速さが魅力でもあるのだが、本来の用法以外のものを採用するときにはその旨断わってくれないと混乱する。文章量に制約がないのだ
から、そのくらいしてもバチは当たらないだろう。
古い用例と新しい用例を注釈なしに併記するとマズい例として、つい先日書いた「斜に構える」をあげておこう。
「斜に構える」をめぐって【1】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1353273124&owner_id=5019671
こういう風潮が広がると、どっちの意味でも使えなくなるから、結局使えない言葉になっています。「犬も歩けば棒に当たる」とかもこの例。
今回の場合は、節操なしに認めるネット辞書が新たに誤用としたのだから、けっこう有力な根拠になるはず。
さて、朝日新聞はどのように考えているのだろう。メールでも書いてみようかね。