●藤崎慎吾 『遠乃物語』 光文社 | 新・駅から駅までウォーキング

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メモ遠野とは 一字違いの 幻空間本 


藤崎慎吾 『遠乃物語』 光文社 2012.7.20発行 

遠乃物語/光文社
¥2,100
Amazon.co.jp


★本の内容(Amazon.co.jpより引用)  


『遠野物語』成立前夜の傑作幻想譚。
京極夏彦、東雅夫両氏推薦!


台湾帰りの人類学者・伊能嘉矩が、佐々木喜善ととも
に迷い込んだ、もう一つの「とおの」。
ここには昔語りも言い伝えもなく、怪異は現となって
郷を襲っていた──。
抜群の筆力で、「物語ること」の根源に迫る傑作。


明治39年、台湾原住民の査察を終え、郷里の遠野に
戻っていた人類学者・伊能嘉矩は、天ヶ森近くの熊野
神社で、マラリヤの発作を起こして倒れる。
目をさました彼は、介抱してくれた佐々木喜善ととも
に、「遠乃」という、郷里とは似て非なる町に迷い
込んでいることを知る。
違いはほとんどない。
しかし、ここでは、昔語りも言い伝えも存在しない
ようなのだ―。


★ここだけの話


なぜこの本を買ったのか、と聞かれれば、知っている
人の名前が登場するから、と答えます。
しかも日本の人類学の先達、伊能嘉矩が主人公として
書かれているので、これを読まないわけにはいきません。
彼と一緒に不思議な体験をするのが、柳田國男に遠野の
昔話を語って聞かせた、あの佐々木喜善です。
実在の人物2人が怪奇現象に出会い、その謎を解き、
そこから脱出するまでを一気呵成に運んでいます。


「遠野」とは違う「遠乃」に迷い込んだ2人。
すべてが少しずつちがっていることに気づきます。
1年のうちに逃げ出さないと永遠にここに住みつくこと
になってしまうことを知り、物語の終盤は一刻を争う
脱出劇です。
ここの部分がスリル満点でとてもおもしろかったです。


さて、実際の伊能嘉矩も台湾全土で人類学の調査・研究
を重ね、その結果を本にして出版したり、各地で公演を
しています。
また、郷里の遠野を中心とした調査・研究も行なって
いました。
こうした研究を通じて柳田國男と交流を持つようになり
ました。
本に書かれているように、台湾で感染したマラリアが
何回か再発し、59歳の時に亡くなりました。
残されていた台湾研究の遺稿は、柳田國男の尽力により
出版されたと言われています。


また佐々木喜善もこの本に書いてある通りの人物で、
病弱であったため、47歳で亡くなっています。
生前、柳田國男に聞かせた昔話が「遠野物語」として
出版されたわけです。
オシラサマ、ザシキワラシ、河童、天狗などが登場する
400以上の昔話を覚えていたそうです。
これら口承文芸で大きな功績があり、「日本のグリム」
と称されています。
名付けたのは金田一京助だそうです。


この本は、およそ100年前の時代設定ですが、人物に
ついても、農村風景についても、取材が行き届いている
ため、非常にいきいきを描かれています。


私の場合、40年前に、ある農村でフィールドワークを
行ないました。
その時のことが思い出されます。
古い神社の祠、田んぼのあぜ道、親切な村の人たち、
人なつっこい子供たち。
そう言えば、昔話や言い伝えはあったのか、もう忘れて
しまいました。
そんなに昔のことではないような気がしますが……

でもしっかり書きとめておかないと、後世になって伝承
がなかったと言われてしまいそうです。

やはり書き記すことが大事なんですね。


『遠乃物語』は、柳田國男の「遠野物語」と同じくらい、
いい本でした。