私が主宰しているオンラインサロン。会員様との交流もありますが、エッセイストらしく旅の長文や画像も掲載しています。こんな感じで載せてるよ~と以前Upしたバスク地方の文章です。今日は続編。前編はこちら↓↓

 

 

 

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○バスクに到着

 マドリッドから北へ約350km。岩山を越え、坂を下ったあたりから、バスクの州都ヴィトリアの街が見え始めた。真新しい工場やいまどきの造りのホテルなど、どちらかというとアメリカンな雰囲気のゾーンが続き、街の中心が近づくにつれて、ようやくヨーロッパらしい旧い建造物や石畳などが現れた。

 

  イクリニャと呼ばれるバスクの州旗。パターンはユニオンジャックのようだが、赤地の上で緑の斜め十字と白の十字を交差させた斬新なデザインだ。その象徴的な旗が街中にひるがえっている……という、勝手なイメージを抱きながら私は街のなかをきょろきょろするが、まったくもって見受けられない。本当にここはバスクなのか。心細くなり、「バスクらしい食」を探す。しかしそこにも困った問題が……。この街の人々は英語がまったく話せないのである。

 

 そもそもスペイン語がわからない私には、彼らの言葉がバスク語なのかわかるはずがないと、遅ればせながら気づいた。“ローカルフード”という簡単な英単語すら理解してもらえない。意思の疎通ができない。ぞわぞわと這い上るような孤独感に襲われた。

 

  言葉がわからないとなったら、味方となるのはインターネットだ。Wi-Fiが使えるカフェへ向かう。検索で引っかかったのはバスク料理とスペイン料理、両方が食べられる店だった。迷いに迷い、花屋の主人に身振り手振りで道を聞きつつ苦労して行ってみると、店はあったが休みだった……。

 

 せっかくここまでやって来たのだ。私の悪あがきは続く。街の中心にある広場の、一番近くで目に付いたホテルをたずねてみる。豪奢な造りの5つ星ホテル。フロントの女性はここでもスペイン語(もしくはバスク語?)しか話せなくて、でも彼女から「サガルトキ」というおすすめの店を聞き出すことに成功! “ノボルトキ”もあるのか? などとくだらないことを心のなかで思いながら、教えてもらったバルへ向かった。

 

  バルとは喫茶店と居酒屋と食堂とコンビニとが一緒くたになったような、独特の形態をしたスペインの飲食店だ。新聞や宝くじが売られていたり、地元の人々の日常生活の延長線上にある。旅人にとってもトイレを借りるついでにふらり休憩したり、宿に朝食が付いていなかったら、朝はトーストとコーヒー。昼は手ごろで軽めのランチを。夜は小さく切ったパンに少量の食べ物が乗せられたさまざまな種類のピンチョスや、タパスと呼ばれるおいしい小皿料理などをつまみ、財布にやさしい価格でアルコールをいただける。私みたいな酒好き貧乏トラベラーにとってたまらない場所なのだ。

 

 で、サガルトキ。地元の人々でごった返しているその店で、ウエイトレスのおばちゃんに差し出されたメニュー。こんなもの読めたら天才! と思えるほど難解な文字が書き連ねており、もうお手上げだ。バスク地方特有の微発泡ワインを、「チャコリ!」と単語だけで言ってみたら、おばちゃんはこころよくうなずいて戻って行った。

 

 スグに若いウエイターがやって来て、瓶に入った白ワインのような液体をずいぶん高いところからグラスに注いでくれた。なんだか特別な儀式のような光景に心が躍った。いざグラスに口を付ける。味はふつうの白ワイン。ていうか、ひどく酸っぱい。突然口のなかに広がった酸味に目をしばしばさせて舌の上でころがしてみると、発泡している感覚はあるが、ひとことで言うと「気が抜けたスパークリングワイン」。正直おいしくはない。それとマドリッドやバレンシアでは毎晩喜んで食べていたタパスと呼ばれるツマミ。バスクのそれは全部しょっぱくて、全部脂っこくて、5口でリタイアした……。

 

 入った店が悪かったのか、バスク料理が私の口に合わないのか、ガッカリしてホテルへ向かう。すると、先ほど迷いまくってたどりついたが閉まっていた店がやっているではないか。

 

 22時ごろまで明るい夏のスペイン。夕飯もだいたいそのくらいから始まるということを忘れていた。さっきは開店準備中だったのだ。バスク料理が食べられるなら、ちょっと入ってみようか。 幸いにもメニューには画像が付いていて、ん? でも、Tボーンステーキ? パスタ!? これといってバスクらしいものはなさそうだった。この店でももちろん英語は通じなくて、若いウエイターと四苦八苦なやり取りをしていたら、常連っぽいオジサンも寄ってきた。彼らと3人、あーだこーだ顔を突き合わせても何も生まれず、口を開くのすら面倒くさくなった私は、お得意の「チャコリ!」とだけ単語を発し、本当はちっとも呑みたくなかった酸っぱすぎる微発泡の液体をクイッと呑み干し、そそくさと退散したのだった。

 

 

 ○バスク、バスク、バスク……

 ヨーロッパ人にとって異質な「バスク」という存在。謎めいたものに対する憧れや幻想が世界を駆けめぐり、やがて日本にも伝わってきたのだろうか。スペインから戻り、しばしばその土地の名前を耳にするたび、どうも「バスク」という幻想が世界をひとり歩きしているような気がしてならなかった。それともバスクは、言語堪能でヨーロッパをよくわかっている“こなれた旅人”が楽しめる特別な場所なのか……。いずれにしてもバスクと私との温度差は相変わらず開いたままで、いつかまた訪れてもろもろを確認しないといけない場所だとは思っているが。

 

 

 

 ○キャプション/メモ

 

・バルで呑む気マンマン(笑)。

 

 

 

・ヴィトリアの中心地、ビルヘン・ブランカ広場をウロウロ。言葉がまるでわからない土地。インターネットの情報も希薄。とにかく歩いて知るしかない。そしてジブンのなかで咀嚼するしかない。

 

 

 

・歩き疲れたらカフェでひとやすみ。ガソリン(ビール)休憩。

 

 

 

・芸術の街なのか、ヴィトリアには至る所に壁画アートがあり散策するのが楽しい。

 

 

 

・旧市街地が小高い丘の上にあるため、動く歩道がありがたい。中世の街並みにもなぜか似合う近代的なマシーン。

 

 

 

・チャコリは微発泡性でごく辛口。酸味が強く、アルコール度数が9.5~11.5度とやや低いワイン。おもにスペイン北部のバスク州、ナバーラ州、カンタブリア州、ブルゴス県北部で栽培・製造されている。チリでも少量を生産しているとか。高いところから注ぐことにより香りが華やかに、味わいがシャープになるそうだ。

 

保存が難しく通常はボトル詰めされてから1年以内に消費するデリケートなチャコリ。99%は地元で消費されていたとか。近年輸送設備が整い日本でも呑める機会が増えているそうだ。……などという予備知識がないまま赴いたバスク。ファースト・インプレッションはとにかく「ビックリ」の連続(笑)! もう一度行ったらきっと楽しめそう!? 今度はメジャーなサン・セバスティアンなど海沿いのエリアを訪れてみたい。

 

 

 

 

・カウンターに陳列されたガラスケースのツマミ。テキトウにピックアップしてみたけど、お味はいまいち……。

 

 

 

・立ち飲みスタイルの店内は、大人たちがワイワイがやがや。いい雰囲気だった。

 

 

 

 ・英語もままならないのに、スペイン語? バスク語!? まるで宇宙語と接しているような日々……。赤字の上の「TXAKOLI」が例のチャコリ。

 

 

 

・ちょっとわかりづらいのですが、手首のあたり、色が違う。グローブとジャケットに微妙な隙間があり、ツーリング中ずっとここに陽が当たっているから。長いグローブ、買わねば。

 

 

 

 ・広尾某所にて。夫と結婚5周年記念&私の誕生日のお祝いディナーへ。そこでも「バスク風」と店主が説明してくれたピリ辛な付け合わせが出てきた。

 

 

 

日本で食べる方が断然おいしい。それってどの国の料理にも言えることだけど。……で、このレストランで「バスク風」な皿に触れてみて、今回の原稿を書こうと思ったんです。実際私がバスクを旅したのは2010年6月最終日。

 

 

 

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昨年末行ったトークライブの模様、Youtubeで毎週金曜夕方配信開始しています。今週はアジア編です。

 

【第7部東南アジア、インド】国井律子さんプレミアムライブ ”バイクで旅した世界 あの頃と今”+特別コーナー(バイク紹介)バイクで世界中を旅してまわった旅エッセイストの国井律子さんのオンラインライブを2020年12月13日に開催しました。全7部構成で語られたうちの「第七部東南アジア、インド」の内容をまとめた動画です。新型コロナウイルス以前の世界の姿を見てまわった国井律子さんの目線でいきいきとしていたあの頃の世界と人々を画像で振り返る...リンクyoutu.be

 

 

私が運営しているオンラインサロン、ほぼ毎日更新中!

先日行ったトークライブの画像とショートコラムも掲載中! ライブの模様がこちらではノーカットで全編視聴できます。

 

お気に入りの温泉、GoToトラベルネタ(お正月は急きょ停止……。紆余曲折しまくりのGoToですが、私が経験したGoTo宮古島でのトラブル、割引金額、地域共通クーポンについての注意、赤裸々にリアルタイムで載せてます)、そのほかにも旅のこと、収納とかオススメおつまみなどプライベートのこともいろいろ書いています。

 

 

 

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