私が主宰しているオンラインサロン。会員様との交流もありますが、エッセイストらしく旅の長文や画像も掲載しています。こんな感じで載せてるよ~と以前Upしたバスク地方の文章です↓↓

 

 

************************

○救いようがない家族の物語

 

 気温は30度近いが空気は乾いていた。向かい風が心地よく冷たい。今朝マドリッドの宿で見た天気予報。スペイン全土にお日様マークが輝いていた。この国は太陽が本当によく似合う。ジリジリと照りつける日差しはグローブとジャケットの隙間の日焼け跡を、さらに濃くする。

 

 朝から飲まず食わずでオートバイに跨っていた。ガソリン残量がいよいよ、というところで私も朝食を取ろう。そう思って滑りこんだのは、マドリードから120km地点にあるドライブインだった。そこのレストランがとんでもなかった。

 

 愛想のかけらもない女性店員がふたり、ツンケン働いており、同じ顔をしているということは彼女たちはきっと姉妹だろう。ブロンズの髪。細身の体型。整った顔立ち……。器量はそこそこいいが、なんとも感じ悪い。妹だと思しき女がスペイン語のメニューを投げるように出してきた。英語のメニューがほしいと私が言うと、深いため息をつく。フレッシュオレンジジュース、スペインオムレツのホットサンド、サラダをオーダーした。おそらく姉と思われる眉間に意地悪なシワを寄せた女は、カウンター越しから「ほら、できたわよ! あんた取りに来なさいよ!」みたいなことを早口なスペイン語で私に言う。

 

 食事は可もなし不可もなしといった感じの“ドライブイン風”だった。あのひどい態度の女たちが作ったにしてはマシな味だとホッとしていると突然、蒸気機関車のような音が聞こえてきた。

 

 シュッ、シュッ、シュッ、シュ。

 シュッ、シュッ、シュッ、シュ。

 

 なんと!殺虫剤を振りまいてるではないか!! 客が食事中だというのに……。

 

 極めつけにはクレジットカードが使えるか聞いたら姉は、眉間にさらに深いしわを刻み、「私は英語がしゃべれないのよ。なんであんた、スペイン語話さないのよ!」。そのようなことを、まくし立てるように言うのだった。私が財布からVISAカードを抜き取って見せると、姉は舌打ちをし、カードをひったくり行ってしまった。サインしながら私は彼女の目を見て、にっこり笑って日本語で言ってやった。

 

「あんたたち、ひどい性格ブスだね」

 

 しかしすごい店に入ったもんだ。

 姉妹の仕打ちを受けた旅人たちは、きっと二度とこの店には来ないだろうが、マドリードから約120キロと場所がいい。新しい客がどんどんやって来ては、みな不愉快な思いをして去っていくのか。

 

  と、そのとき、ヒステリックな怒鳴り声が聞こえた。驚いて声の方を見やる。先ほどの無愛想な姉妹と同じ顔の、性悪具合をさらにパワーアップさせた表情の女が立っていた。彼女はこめかみに青筋を浮かべ姉妹たちを怒鳴り散らしている。まさに大ボス現れる! この親あってあの娘たちアリ!! 救いようがない物語を見てしまった。

 

 いやはや世界は広い。いろんなヒト、さまざまな家族がいるもんだ。オートバイのエンジンをかけ、私は北に向かって走り出した。

 

 

○「バスク」へ

 スペイン北東部、フランスの国境付近に「バスク」という自治州がある。そこは「バスク」語を話す「バスク」人が暮らす領域で、スペイン国内の、ほかの地域とは異なる文化的特徴があるそうだ。ほかにも、じつはベレー帽は「バスク」の民族衣装であること。「バスク」からアルゼンチンに移民した人が多くいるらしく、『エビータ』という映画の主人公にもなったファーストレディのエバ・ペロンや、そういえばベレー帽姿が印象的なチェ・ゲバラも「バスク」の末裔だそう。

 

 そんな「バスク」は美食地帯としても有名みたいで、ここ数年、流行に敏感な30~40代の東京のOLたちが、「バスク」という言葉に目をキラキラさせる。彼女たちが集う広尾とか恵比寿とかコスパがいいビストロでは、「バスク」風のスパイシーでおしゃれな皿が出てきて、サーブするオーナーが得意気な顔で説明してくれる。「バスク」料理の特徴として、唐辛子を使ったメニューが多いこと。チャコリというワインがシュワシュワして美味なこと……。

 

 それから「バスク」人はRHマイナスの人口割合が世界で一番高いとか、「バスク」語は世界でもっとも習得が難しいと言われている言語だそうで、「バスク人は悪魔に惑わされない。悪魔はバスク語がわからないからだ」とか「バスク人を地獄に落とそうと悪魔は必死でバスク語を学んだが、結局無理だった」とかジョークのネタにもされているほどだそう。

 

 けれど「バスク」語と日本語は文法的に共通点が多いらしい。とはいえ「スペインで日本語を学ぶときバスク語の文法を使って説明するとスムーズだが、結局誰も習得できない」のだろう……。

 

“外国のなかの外国”みたいな「バスク」という場所ににわかに興味が湧き、遠回りではあったが、マドリッドからその地方に寄って次の旅先、フランスはボルドーを目指すことにした。

 

(つづく)

 

 

○キャプション/メモ

 
・マドリードを離れた瞬間、交通量が減った。乾燥した荒れ地から一転、木々が増えた。道路の断片には地層が浮かんでいて、景色を眺めながら走るのが楽しかった。
 
 
 
・これが例のドライブイン。「終わっている」レストラン。カウンターのなかにいるのはおそらく妹。

 

 

 

・バスク地方はヴィトリアの街並み。ホテルにオートバイを置いて徒歩で散策。エンジンに解放されてバルで呑む気マンマン(笑)。

 

 

********************

昨年末行ったトークライブの模様、Youtubeで毎週金曜夕方配信開始しています。今週はアジア編です。

 

【第7部東南アジア、インド】国井律子さんプレミアムライブ ”バイクで旅した世界 あの頃と今”+特別コーナー(バイク紹介)バイクで世界中を旅してまわった旅エッセイストの国井律子さんのオンラインライブを2020年12月13日に開催しました。全7部構成で語られたうちの「第七部東南アジア、インド」の内容をまとめた動画です。新型コロナウイルス以前の世界の姿を見てまわった国井律子さんの目線でいきいきとしていたあの頃の世界と人々を画像で振り返る...リンクyoutu.be

 

 

私が運営しているオンラインサロン、ほぼ毎日更新中!

先日行ったトークライブの画像とショートコラムも掲載中! ライブの模様がこちらではノーカットで全編視聴できます。

 

お気に入りの温泉、GoToトラベルネタ(お正月は急きょ停止……。紆余曲折しまくりのGoToですが、私が経験したGoTo宮古島でのトラブル、割引金額、地域共通クーポンについての注意、赤裸々にリアルタイムで載せてます)、そのほかにも旅のこと、収納とかオススメおつまみなどプライベートのこともいろいろ書いています。

 

 

 

 リモート呑みも毎月開催! 3月もマンツーマンor少人数でリモート呑み予定!! 27と28の夜に予定しています。

メンバーの皆さまと、クローズドなサロンならではの交流ができれば。7日間無料ですので、この機会にぜひ!