羊の目
7月17日に本年度の直木賞を受賞した桜木紫乃さんが
朝日新聞に「花の送り主」として直木賞受賞の感想を
寄稿されていた。
このエッセイの中で心に残ったのが、
受賞後宿泊していたホテルの部屋に神崎武美の
名前で届けられたという閑かなたたずまいの花束。
そして桜木は小説「羊の目」の主人公神崎武美の生き方から
「人間の生き方には人の数だけ価値観があって、
その一生の前では幸不幸の価値などまるで無意味
だと知った」と記している。
神崎武美を主人公とする「羊の目」は、伊集院静が
2006年から2007年にかけて執筆した、
「牡丹の女」、「観音堂」、「ライオンの舌」
「眠る蝶」、「竜の爪」、「ホットドッグ」、「羊の目」の
連作短編集。
親の顔を知らず、育ててくれた“ヤクザ”社会の長に実の親以上に
忠誠を誓ったある孤独な男の生きざまを伊集院の
個性溢れる抒情的文体で描いている。
連作の底流となる“羊の目”の意味するところは、フランス人の宣教師
シャルロウが子供の頃、仔羊をみていたシャルロウの後ろ姿に
「なにをしているのだ」と問いかけた父との次のような会話を通して
伊集院が伝えたかったメッセージのように思う。
「羊の目をみているんだ。父さんどうして羊の目はあんなに
美しいんだろう」
「それは羊がおまえと友達になりたいと思って懸命に
おまえを見てるからだよ。
皆、誰かのぬくもりが欲しいのだよ。
おまえにもいつかそれが判るだろうよ。
だから手を差しのべてあげる人になるんだよ」
優しく透明で美しい目を持った主人公の神崎武美。
親と尊敬するヤクザの組長の背中には観音様、
そして神崎武美の背中には素晴らしく美しい唐獅子牡丹と
蝶の刺青。
韓国の国花であり盛夏に毎朝次から次へ花を
咲かせる美しい槿(ムクゲ)の花。
今でも韓国社会の土台と考えられる、
両親そして年長者を敬う儒教の精神。
自身在日韓国人二世として生まれてきた伊集院静の
血を意識させる「羊の目」。
マフィアのドンを登場させ、アメリカ本土も舞台にした本作で、
戦前、戦後をヤクザとして生き抜き、
自己の信念を貫き通した神崎武美の目は誰よりも美しかった。
96時間/リベンジ
「コロンビアーナ」で”リュック・ベッソン組”出身としての手腕を発揮した
オリヴィエ・メガトン監督が前作「96時間」の続編として制作した
「96時間/リベンジ」は「コロンビア―ナ」と同じくアクションシーン
満載の胸のすく娯楽作品。
迷路のような公道を全力疾走しながら対向車、先行車を
よけ、追いつ追われつするカーチェース、そして、イスタンブールの街角、
集合住宅の屋根での追いかけっこと、
ヨーロッパとアジアが隣接するイスタンブールの魅力が計算され、
十二分に取り込まれた映像が観客を楽しませる。
リュック・ベッソンが製作と共同脚本を担当しその個性がいかんなく
発揮された本作、最悪の結末も想像しながら観た結果は、
リュック・ベッソンならでは持ち味が遺憾なく発揮された、
家族の映画として完成されていた。
ストーリーは、友人とパリ旅行中に国際的誘拐団に拉致された娘の
救出時に誘拐犯全員を殺した元CIA工作員のブライアンに恨みを持つ
誘拐犯の親や親族が、仕組んだブライアンの家族を巻き込む復讐劇。
ブライアンは獅子奮迅の活躍で復讐の念に燃えるアルバニア人たちに
一人でそして危うく難を逃れた娘の手助けを得て立ち向かって行く。
良質の荒唐無稽なフィクションとしての映画の特性が
十二分に発揮されている。



