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「湿地」(Mýrin)



日本の都市部でも、かつては田んぼや小さな池だった地域が
埋めたてられ、住宅地に変身している場所があるが、
本作「湿地」では、アイスランドの首都レイキャヴィークにあった
北の湿地(ノリデュルミリ)の上に建てられた家が持つ特筆が
物語の一つのポイントとなっている。


凶悪な殺人事件が殆どないレイキャヴィーク出身の
アイスランド人アーナルデュル・インドリダソンが
ミステリー小説で描こうとしたのは、
人を殺すことはないが被害者のその後の人生に決定的な影響を
与える卑劣な犯罪者のエゴイスティックな心と
被害者の苦悩の生き様。


ノリヂュルミリの集合住宅で殺害された孤独な老人の
死体の上に残された謎の言葉からこの物語は始まる。


この事件を担当するのが、離婚歴のある一匹狼的な犯罪捜査官・エーレンデュル


遺伝的な病気が一つのキーワードとなっている本作で、読者は比較的早く
真犯人を類推することが可能であるが、この本の面白さはエーレンデュルの
人物描写であり、小さいときに別れた薬物中毒の娘との関係であり、
“男尊女卑”の雰囲気が漂っていたかつてのアイルランドの文化。


北欧ミステリーとして評価の高い“特捜部Q”シリーズのデンマーク人作家
ユッシ・エーズラ・オールスンの作風と同じ系列に属し、
敢えて悪を描くことで浮き上がってくる人の尊厳、
そして北欧の気候・風土・文化の香りを強く感じる一作。




「フルートベール駅で」(Fruitvale Station)



ロスアンジェルスのダウンタウンを拠点とする私学の南カリフォルニア大学。
この大学を卒業したアフリカ系アメリカ人ライアン・クーグラー(28)が
監督としてはじめて制作した長編映画が「フルートベール駅で」


アフリカ系アメリカ人が多く住み、全米屈指の犯罪都市であったオークランドに
かつて住んでいたことがあるライアン・クーグラーが監督を務め、
「バード」で麻薬と酒に耽溺した天才ジャズプレーヤー チャーリーパーカーを
演じたフォレスト・ウィテカーが製作総指揮を執った本作


欧州からの移民である欧州系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人の対立、
憎悪。アフリカ系アメリカ人を人間として見ない欧州系アメリカ人。


本作はかつて薬物売買の罪で刑務所入りしたが、
母、妻そして愛娘のタチアナとの心のふれあいから
更正を図っていた22歳のアフリカ系アメリカ人オスカー・グラントが
2009年の1月1日早朝にベイエリア高速鉄道車内トラブルを
原因としてフルートベール駅での強制的取調べ時に
欧州系アメリカ人に背後から撃たれ、死亡した事件を取り扱っている。


これまで同じような題材の映画は多く制作されているが、
これまでの人生で図らずも差別を経験してきたフォレスト・ウィテカーと
ライアン・クーグラーが制作した本作には
アフリカ系アメリカ人も夫であり、父であり、熱い心を持った
一人の人間なのだとの強いメッセージが込められている。


人を人として尊重することができるのは
人間としての矜持。


アカデミー女優のオクタヴィア・スペンサーが
素行が良いとはいえないが、
根っからの悪人とは違うオスカーを愛する母を演じている。





「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(Nebraska)


舞台は米国中西部の農業州であり
トウモロコシ・大豆の生産で、米国トップの位置にある
穀倉地帯ネブラスカ。


特に大きな出来事も無く、平凡な日々を繰り返している
典型的な“田舎”のイメージがあるネブラスカを舞台に、
年老いた父親の元に届いた怪しげな100万ドル当選の
懸賞はがきをめぐる父と息子の物語。


人が老いるということ、
そしてその老いに直面した家族がどのように
肉親の老いとむきあうのか。


顔には無数の皺が刻まれ、
白髪となった父と
この父の存在を大切に思っている息子。


父のもとに届いた100万ドル当選を告げる1通のはがき、
インチキと考えるのが常識的なこのはがきを疑うこともなく、
賞金を受け取りいこうとする父。


温厚な父を口汚くののしる母、
金目当てによってくる人々、
この年齢としてはおかしくないごく初期の痴呆症を
伺わせる父の振る舞いを頭から否定することなく、
父の思い通りにさせる次男。


100万ドルがインチキだと判っている見るものに対し監督が設定した、
次男が父親のために本作の最後に用意したあることは
“人生捨てたものではない”との心豊かなメッセージ。


78歳になるブルース・ダーンが年老いた父を演じ、
「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペイン監督の手による
2013年のアメリカ映画