レスラー 誇りと闘志と復活
監督:ウォルター・ヒル、作曲・演奏:ライ・クーダーの
名コンビによる1989年の作品“ジョニー・ハンサム”を観た。
この作品からは、かつて劇場で観たナインハーフとは少し異なるが、
30代後半のミッキー・ロークが持つ“哀しさ”が漂っていた。
今年57歳となるニューヨーク州出身のミッキー・ロークが
再び脚光を浴びた2008年の映画「The Wrestler」(レスラー)に
主題歌を提供したのは、
親交がある3歳年上のブルース・スプリングスティーン。
かつて一世を風靡したが今は“落魄れている”大スターが、
心を許せる女性との出会いで、人生ともう一度向かい合う男の姿は、
ジェフ・ブリッジスの「Crazy Heart」も同じで、感動的であるが、
「The Wrestler」では手に汗をして、自分の肉体を
酷使することで生きる糧を得る“ブルー・カラー”の
誇りと苦悩の生き様が色濃く描かれていた。
The Riverの頃より年輪を増し、渋さを感じるこの曲には、
かつて影響を受けた“吟遊詩人”とも言われたボブ・ディランを
強く彷彿させる歌声と説得力を感じた。
“私の友よ、これ以上何を望むのか、これ以上何を望むのか”
「カランジル」 サンパウロ
成田空港からロスアンゼルス、アトランタあるいは他の
米国都市を経由して飛行機で20数時間の都市サンパウロ。
ブラジル最大の都市であり、ビジネス街には高層ビルが建ち並び、
郊外にはフジフィルム・ブラジルを始め多くの企業の工業団地がある
先進都市であるが、治安面では、貧民街ファヴェーラも点在し、
昭和30年代の日本を再現したかのような懐かしい東洋人区域
リベルダージも日が暮れると危険な地域と化す、
犯罪の多い都市でもある。
“蜘蛛女のキス”は本作品の監督であるブエノスアイレス出身の
ベクトール・バベンコ監督がブエノスアイリスの刑務所に収監されている
性犯罪者と青年革命家の心のふれあいを当時の世相をバックに
名優ウイリアム・ハートとラウル・ジュリアが巧みに演じた
心に残る作品であったが、
今回は舞台をサンパウロの刑務所に移し、
エイズ予防で刑務所を定期的に訪れている医者を語り部として、
犯罪を生む人間の心、そしてその社会背景、そして些細な事件から
発生した1992年のブラジル史上最大の悲劇を映像化していた。
サンパウロの北にあり2002年に多くの建屋が破壊され
使命を終えた、南米最大の刑務所であったカランジル刑務所が
本作品の舞台で、
刑務所なので塀はあり、監視はされているが、それほど厳しくなく、
ファヴェーラでの生活と相似形の雑居房で未決囚を含む多くの囚人が
生活している。
ロドリゴ・サントスがビハインド・ザ・サンとはうって変わった
“アスファルトに咲く花”の演技で殺伐とした刑務所内での描写に
人間らしい潤いを与えていた。
この作品の後半部分では、
“パシフィック”で映像化されているのと同じように、悲惨な映像が続く、
家族がある一人の人間を”もの“として殺戮する人間、
“パシフィック”と異なるのは殺人者が自国民を守る事を仕事とする
治安部隊であり、殺される人間は無抵抗で
銃器を保持していない自国民。
虐殺から生き残った青年宛に母から送られていた手紙
には、詩編91編から次の言葉が抜粋され綴られていた。
「(神はあなたを救い出してくださる。)
あなたの傍らに一千の人
あなたの右に一万の人が倒れるときすら
あなたを襲うことはない
あなたには災難もふりかかかることがなく、
天幕には疫病もふれることがない 」
6年後の2016年にオリンピックが行われる、サンパウロより貧富の差が
激しく、海岸線が美しい街リオ・デジャネイロ。
任期は2011年迄であるが、飢餓ゼロ計画を立ち上げ、貧困層の問題に
積極的に取り組んでいるルーラ(ルラ)大統領が進めているこの国の改革で
成長したブラジルの姿を、2016年にこの目でみてみたい。
カリフォルニア・ガール T・ジェファーソン・パーカー
人口の約4割をスペイン語圏からの移民とその子孫である
ヒスパニックが占めているカリフォルニア州。
題名のカリフォルニア・ガールは、
オレンジの木箱を出荷する際に貼られる紙ラベルに描かれた、
インディゴブルーの空の下、
何列にも立ち並ぶオレンジの木々を背景に、
完璧な色と形のネーブルオレンジを差しだしながら、
微笑んでいる漆黒の髪の美女をイメージしている。
貧しい家に生まれ、恵まれない辛い少女時代を過ごしたが、
生長するにつれ、漆黒の髪を持ち、
カリフォルニア・ガールのイメージ通りの美貌と
快活な性格で皆に愛されていたジャニル・ヴォン。
結果的には天性の自由な生き方が徒となって、
19歳で殺害された薄幸の女性ジャニル。
本作はジャニルが5歳の1954年から始まり、1968年に殺され
その真の殺害犯が解明される2004年まで、50年にわたり、
赤狩り、ベトナム戦争、ドラッグを精神解放剤としたヒッピー文化等
カリフォルニナそして米国の政治、文化の変遷を縦軸とし、
ジャニル殺害事件を初めて自ら指揮する殺人事件とする次男の刑事ニック、
長男で牧師のデイヴィッド、ベトナム戦争で戦死した三男のクレイ
そして有能な新聞記者アンディのベッカー家4兄弟とその父・母の
生き様を横軸として描いた、時代と共に生きる人間の物語。
「神を信じるとは,理解しようとすることではなく、心の平安を
見いだすことです」
T・ジェファーソン・パーカーのこの作品には、
読者が望む奇跡が用意されていた。
登場人物の歩む道は平坦でなく、“人”の道を踏み外すこともあるが、
自らが築いた家族・子どもを守ることが、人間としての仕事。
禍福は糾える縄の如しであり、
色々な罪を背負って日々の生活を送っている
ジャニルを知る多くの関係者の心に
人間が持つ邪悪な感情で生を断たれたジャニルの姿は
いつまでも生き続けている。


