「捜査官ポアンカレ」-叫びのカオス-ALL CRY CHAOS
「数学者とは不正確な図を見ながら正確な推論のできる人間のことである」との
言葉を残したとされる数学者ジュール=アンリ・ポアンカレのひ孫と設定された
インターポールのベテラン捜査官アンリ・ポアンカレが、ある天才的数学者の爆殺
犯人捜査を通じて遭遇する”狂気”と混沌の世界
米国人作家レナード・ローゼンの作品「捜査官ポアンカレ」は
―叫びのカオスーの副題通りの、迫害された人々、外的要因で
心に傷を負った人達の魂の叫びであり、同時に人類が希求する
あるひとつの安寧をめぐる物語である。
アムステルダムのホテルで気鋭の米国人数学者が爆死し、
現場近くで宿泊していた元フィアンセンの遺留品から爆発に
使用されたジェット燃料の痕跡が発見される。
神の子の復活、抑圧された少数民族の解放を血眼で追及する
狂信者たちの活動とは全く正反対の、すべての事象にはある共通項が存在し、
数学的に証明可能との冷静な思考。
物理や数学の情報が盛り込まれ、時には冗長と感じられ、
ポアンカレの家族を襲った悲劇の妥当性については必ずしも
納得できない部分もあるが、ポアンカレを取り巻く人たちの人物像、
ポアンカレ自身の家族を愛する心、そして罪を憎んで人を憎まぬ態度は
十分共感できる。
哲学的味わいを感じる米国ミステリー。
「よりよき人生」Une vie meilleure
セドリック・カーン監督の作品「よりよき人生」(Une vie meilleure)は
清濁併せ飲むフランスの大人の文化の香り高い、
どんなことがあってもそれだけは守り通す約束を果たす男の物語である。
生き方も頼りなく、将来設計も全く無計画であり、
行き当たりばったりの人生を歩んでいるダメ男ヤン。
このヤンが集団給食の調理人として培ってきた腕を生かして
より待遇の良い料理人の職を探す過程で
レストランでウエイトレスをしていた移民のシングルマザーナディアに
出会い、たちまち恋に陥る。
そんなある日、ナディアの一人息子スリマンもつれて一緒に行った
湖の傍で見つけた廃屋をレストランに改造する目的で
ヤンは無謀にも銀行そして闇金から多額の借金をして
廃屋を買い取り改修工事を始める。
このあたりまでのナディアは全く救いようのないダメ男の典型のように描かれ、
これから先の展開が全く読めないが、
ドラマは後半に向けて、ヤンが心に誓った、男としての約束を実行するための
実に男っぽい行動にうってでる。
俳優であり自身監督業も兼ねている主演のギョーム・カネ、
そしてスリマン役の少年の意気があった、実の親ではないが
“男親”の心を持った男に接する父を知らない少年の思い、
そしてこの少年の世界でたった一人の肉親である母への思いが
静かな余韻を生む。



