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「イノセント・ガーデン」(Stoker)


古くは「ディファイアンス」(と言っても6年前であるが)

そして2011年には等身大の主人公を演じた「永遠のぼくたち」

底抜けに明るい「アルバート氏の人生」、更には難役に挑んだ

「ジェーン・エアー」と作品ごとに監督の意向を完璧に

反映させる演技を観客に提示し続けている

オーストラリア出身の女優ミア・ワシコウスカ。


このミア・ワシコウスカが同じくオーストラリア国籍を持つニコール・キッドマンと

お互いに相容れない母と娘を演じた「イノセント・ガーデン」



成長著しい韓国映画界出身のパク・チャヌク監督が

初めてハリウッドでメガホンをとった本作は、

女優ミア・ワシコウスカの実力を開花させた

“恐ろしい”サイコスリラーとして仕上げられている。



子どもの頃から一緒に野鳥の狩猟を共にして父親が大好きな

インディアの父がインディアの誕生日直前に突然自動車事故で

死亡する事からこの物語が始まる。



父の死後すぐに、これまで一度も会ったことがなく世界中を放浪していた

とされる父の弟チャーリーがインディアの前にあらわれる。


チャーリーの出現後インディアの周囲でチャーリーを知っていた人たちが

忽然と姿を消してしまい、インディアに対して異常に近親感を抱いている

(このあたり描写に原題のStorkerから連想されるStalkerの意味する

ところが完璧に反映されている)チャーリーの態度に

インディアはいつか恋心を抱くようになる。



車から降り、風になびくコーンフィールドに立つ女性の姿にかぶさる

意味深長なナレーションから始まり、再びこのシーンで幕を閉じる本作は

チャーリーを演じたマシュー・グード、ニコール・キッドマンそしてミア・ワシコウスカの

狂気と紙一重の目の演技が本作の見どころとなっていた。








最初の人間:LE PREMIER HOMME

この作品の舞台は、フランス領として、フランスを含む欧州から

新しい人生を求めてこの地に移住してきた白人の入植者達と、

先祖伝来のこの地に住み続けてきたアラブ系民族を主体とする先住民の

対立を発端とするアルジェリア戦争真只中の1957年のアルジェリア。


フランスから移住し、小作農として一家を支えてきた大黒柱の父親を

第一次世界大戦で亡くし、母、祖母そして母の弟が一緒に暮らす

貧しい生活を余儀なくされてきた少年コルムリ。


本作では主人公コルムリが少年だった1924年と、

著名な作家に成長したコルムリが母の住むアルジェリアを訪れる1957年の

アルジェリアを交錯させ、コルムリの精神世界を形成させることに大きく影響した、

厳格で敬虔なキリスト教徒の祖母、貧困に負けず愛情をもって育ててくれた母、

コルムリの才能を見抜いた小学校時代の恩師そしてアラブ人の同級生との

関わりあいを抒情的に描き上げる。


アルベール・カミュの未完の遺作であり自伝的小説を映画化したとされる本作。

著名な作家として成功したコルムリが母国に帰国し、乞われて行った大学

の講演で、この地で日常化している破壊活動に対して、いっさいの政治的暴力を

斥ける演説を行った際の聴衆からの罵声は、アルベール・カミュ自身がサルトルから

徹底的に批判され、孤立を深めていった自身の姿とオーバーラップする。


フランスとアラブの共同体実現を願うコルムリは「この国(アルジェリア)を知らずに語る

フランス人より彼(アラブ人)を身近に感じる。彼の顔は私の祖国の顔だ」と言い。

作家の自分を「モノを書く者は決して死者の高みには至らない」と表現する。


2013年のアルベール・カミュ生誕100年を記念してイタリア人監督

ジャンニ・アメリオの手により制作されたこのフランス映画は、

その映像が醸し出す雰囲気がアルベール・カミュの文学世界を想起させ、

カミュの人生の立ち位置をしっかりと再現させた重厚な作品。










天使の分け前:The Angels' Share

かつては造船、鉱工業などの重工業で栄えたが、

1970年代から80年代にかけて不況期が続き、

治安も悪化していた人口約58万人のスコットランド最大の

都市グラスゴー。



スコットランド各地のモルト・ウィスキーとグレーン・ウィスキーを

卓越したブレンダーが絶妙のスキルで間ぜ合わせる

ブレンドウィスキーの首都と呼ばれるこのグラスゴーからは

オールド・パー、ブラック・アンド・ホワイト、ホワイト・ホース、

J&B、ティーチャーズ等々のブランドが生み出されている。



麦芽を乾燥させる工程で使用されるビート(泥炭)の煙臭、

そしてバーボンやシェリーの熟成に使用されていた樽に詰めて

熟成されることで醸し出される複雑なフレーバーを特徴とする

スコッチウィスキー



本作「天使の分け前」は、グラスゴーを舞台にした作品をこれまでも

制作しているケン・ローチ監督が、この地を象徴するウィスキーと、

不況を原因とした職が無く、将来の希望も無い若者達の無軌道な

生き様をテーマに、

これまで喧嘩や傷害事件を繰り返してきた青年ロビーが

あるきっかけでウィスキーを繊細にテイスティングできる能力を

持っていることに気づき、ウィスキーがその後の人生を変えていく

物語である。



貧困ゆえに無軌道な生き方を続け、一度スイッチが入ると

手がつけられないほどの凶暴性を発揮してしまうロビーに

一目ぼれし、ロビーの子供を身ごもっていた良家の子女レオニーの

思いが通じ、ロビーは最近犯した傷害事件で刑務所入りの変わりに

300時間の奉仕活動を命じられる。



奉仕活動をしていたロビーはレオニー出産の知らせを受け病院に駆けつけるが、

ロビーの事を快く思わないレオニーの親戚から手荒く放り出される。

この一部始終を目撃していた奉仕活動監督官のハリーに自宅に招かれ

大事にしていた30年物のスコッチを振舞われたことから

ハリーの人生は新たな方向に舵を切る。



スコットランドのみならず、英国の誇りスコッチウィスキー。



「英国で失業中の若者が100万人を超えた」ことが本作

制作のきっかけで、「普通に働き、尊厳ある最低限の暮らしをする。

なぜ、そんなことすら難しい経済システムを許してしまったのか」

と語るケン・ローチ監督が用意した結末は、その言葉に込められた

監督の思いが痛快に表現されていた。



36回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した内田けんじ

監督・脚本の「鍵泥棒のメソッド」にも通じる、

ケン・ローチ監督の“裸”の人間の幸せに対する思いを感じる作品。