「さよなら渓谷」
「悪人」で2007年に大佛次郎賞及び毎日出版文化賞を受賞した
芥川賞作家 吉田修一が「悪人」とほぼ同時期に執筆していた
「さよなら渓谷」。
高校生時代に、無限の可能性を秘めたこれからの人生に終止符を
打たれるような事件を経験させられた女性と、この事件に関係し、
同じように人生を棒に振ってしまった男。
吉田修一の著作を原作として、大森立嗣監督が自ら脚本も書き上げて
制作した映画「さよなら渓谷」は絶望の淵を見て、このことを二人だけで
共有することで人生の意義を見出そうとした二人の軌跡であり、
屈折した人物を演じさせたら卓越した演技力を示す演技者達と、
選び抜かれたロケ地の映像が見後な
日本映画の底力を示す作品である。
「悪人」との類似点は“幸福”に見放されても生きる意味を探る女性と
この女性の存在で人間性を取り戻していく男。
シャーロット・ランプリングの代表作ともいえるイタリア映画『愛の嵐』
(Il Portiere di notte)で取り扱われて女と男の耽美的世界とは
似て非なる日本文化の薫りに溢れた本作は、
女優真木よう子の代表作として日本映画史に残るであろう。
「嘆きのピエタ」
神学校を卒業したキム・ギドク監督が、欧州の美術館で出会った、
磔刑から降ろされて聖母マリアに抱かれるイエス・キリストの姿を
モチーフとする「ピエタ」に触発されて制作した「嘆きのピエタ」
天涯孤独な存在として、ひとかけらの愛情も受けることなく、そして
「暴力は悪」との社会的規範を自覚することなく生きてきた男の前に、
ある日突然、男を生まれてすぐに捨てたと名乗る女性が出現したら。
金こそ、この男が理不尽な世の中を生き延びるために必要不可欠な
ものであり、これを担保するのは自らの肉体と脳を道具する暴力。
敢えて残酷で恐ろしい行為を想像させる映像を挿入することで、
世界中どこの地域でも必ず存在する暴力は悪との思いを観客に
伝えたかったと話すキム・ギドク監督。
金が象徴する、貧困からの脱却そして豊かな生活の希求をその根幹とする
メキシコ・米国国境でのマフィアの縄張り争いをテーマとし、残虐シーンを
スクリーンにそのまま映像化する作品もハリウッド映画では少なくないが
(「トラフィック」、ドン・ウィンズロウ原作の「野蛮なやつら」等々)、
本作では残虐シーンは観客にそれを暗示するに止めることで、
視覚からではなく心理的に暴力の愚かさを伝える。.
ある目的のために自らをささげる母なる存在、
母なる存在により人の心(隣人愛)を取り戻した男の贖罪の姿
高度成長を下支えしている町工場が軒を連ねるソウルの寂れた一角を
心象風景とした、キム・ギドク監督の思いが伝わってくる力作。





