『ブルーバレンタイン』(Blue Valentine)
高校を中退後、正規雇用の職に就くことなく、
引越し業者の荷物運びや塗装のアルバイトで日銭を稼ぎ
自分自身の自由な時間を優先してきたディーンと、
将来の医者を目指し大学で医学を学んできたが
自らは望まぬ妊娠で人生航路を変えたシンディ。
ブルーカラーのディーンを演じたのは
「きみに読む物語」でも似たような境遇の青年を
好演したライアン・ゴズリング。
そしてシンディは「ブロークバック・マウンテン」そして本作の後で
制作された「テイク・ディス・ワルツ」で家庭崩壊を厭わない、
今の自分の心に忠実な主婦の精神の葛藤を見事に
演じきったミシェル・ウィリアムズ。
物語はシンディが覚悟を決めて生んだ娘フランキーが大切にしていた
ラブラドール・レトリーバーが、ある朝犬小屋からいなくなり、
一番大好きな義理の父ディーンにこのことを
伝えるためフランキーがディーンを起こす場面からスタートする。
粗末な家、そしてディーンとは別のベッドで寝ているシンディの様子に
この夫婦の結婚5年後の今の状況が活写され、
物語は二人が結婚する5年前の状況、そして現在の二人とフランキーが
状況が交互に展開していく。
ディーンを本当の父と思い慕っているフランキー、
一方、生まれ育った環境、将来設計が全く異なるシンディとディーンの
心の溝は5年間の間に少ずつ大きくなっていき、
愛犬の失踪をきっかけとして、二人の関係は修復のきかない状況
に追い込まれていく。
自由に生きたい男と安定を求める女。
歯車がかみ合わなくなった両親の犠牲となるのは
二人で育ててきた最愛の娘。
心の余裕をなくしたディーンが、看護師として病院で勤務中の
シンディのもとへ押しかけ、周囲への迷惑をお構いなしに関係修復を
迫る場面でのライアン・ゴズリングは“ぶざま”であり、
心底愛する女性を失いたくないとの男の身勝手な思いが
その演技に凝縮されていた。
「首斬り人の娘」
なんとも残酷な響きを持つ「首斬り人」を職業とするヤーコブ・クィズルを
主人公として、17世紀のドイツ南部の田舎町を舞台に、
人間の欲望を描くオリヴァー・ベチュの歴史ミステリー「首斬り人の娘」
わが国でも中世以降 行刑役は“賎民”の職業とされてきていたようであるが、
中世から近世のドイツでも処刑人の仕事は“卑しい”職業として、
処刑人の家に生まれた男の子は父親の後を継ぎ、
娘は処刑人の家に嫁く事が当然と思われていた時代。
さらにこの時代は、“魔女狩り”と称して、魔女をでっちあげ、
過酷な拷問の上多くの女性を焼き殺す蛮習がまかり通っていた。
物語は両親を亡くし養子として育てられていた子供達が残虐な方法で
次々と殺され、その遺体には魔女の印と見られるマークが残されていた
ことから始まる。
この印を唯一の“証拠”としてこれまでこの街の多くの子をとりあげ、
養子女達にやさしかった産婆のマルタが子殺し犯の”魔女“として捕らえられ、
事件の早期解決を画策する街の重鎮たちから“魔女”の烙印を押される。
絶対絶命のマルタを心ならずも拷問にかけながらも、
必死で真犯人を探す、ヤーコブ、その娘マグダーレとマグダーレに
恋心を抱いている若き医者のジーモン。
処刑人ヤーコブが代々引き継いでい解剖学を含めた医学関係の書籍は
ジーモンにとって宝の山であり、“賎民”とは単なる為政者が決めたことで、
人としては、地位のある医者のジーモンの父よりはるかに医学について造詣が
深いヤーコブは、マルタの拷問の際も草木から抽出した神経麻酔薬を飲ませ、
マルタの痛みを軽減する。
17世紀のドイツの田舎町での習慣、人々の暮らしの様子が
猥雑に活写されている本作は、
持てる者たちに特有の欲望、
集団的狂信の恐ろしさ、
冷血と相対する熱血を根底とした
悪漢小説である。




