チェイシング・リリー(CHASING THE DIME)
2002年のマイクル・コナリーの著作「CHASING THE DIME」
(邦題:チェイシング・リリー)
刑事ハリー・ボッシュシリーズとも刑事弁護士ミッキ・ハラーシリーズとも
異なる味わいの、34歳の化学者ヘンリー・ピアスを主人公とする本作であるが、
ハリー・ボッシュの家族の秘められた過去、
ベトナム従軍時代の悪夢に通じるマイクル・コナリー自身が少年時代に
恐れた暗いトンネル、
そして何より最先端のコンピューター技術を小説に取り込むことが好きな
マイクル・コナリーの嗜好が際立つ作品。
ストーリー自体はハリー・ボッシュ個人の秘密、特に母親との関係と
ヘンリー・ピアスが直面する事件が酷似していることを読者が気付く事で、
読者は瞬時にマイクル・コナリー劇場に引き込まれていく。
本書の特徴は、いまから12年も前に執筆された本作で、現在でもユニークな、
夢のドラッグ・デリバリーシステム(例えば患者のインシュリン濃度を一定に保つ
細胞デバイス)や分子スイッチ、分子エレクトロニクスに係るアイデアの数々の
描写がいまだに斬新さを感じさせられることで、
マイクル・コナリーの頭の柔軟さを堪能できる。
ストーリーはスタンフォード大学2年生の時にコノピューター・サイエンスを学ぶ
仲間数人と悪ふざけで行ったハッカー行為で警察に逮捕され、
その後化学者としての道を歩むこととなるヘンリー・ピアスの引越し先の
電話番号が、ロスアンゼルスのエスコート嬢リリーの番号と
同一番号だったことから始まる。
美貌のエスコート嬢リリーの身に何が起こったのか。
自分の家族の過去の暗い体験からヘンリー・ピアスはリリー探しに
のめりこんで行く。
ある種のたんぱく質と細胞が結合して
SEM(走査電子顕微鏡)のモニターに映し出される
化学ルミネサンスの美しさは絶対的なものであり、
疑心暗鬼になって生きる現実とは別の
嘘や駆け引きのない真実の世界である。



