「ふしぎなキリスト教」
先日開催されたロンドンオリンピックの開会式が始まると直ぐに
その演出の根底にキリスト教文化の影響が流れていることを感じ、
この第一印象はショーが進むにつれて一層その感が深まった。
同じキリスト教ではあるが、その教義を異とする
プロテスタントとカソリックの宗教対決が続いている国イギリス。
ムンバイのスラムで生まれ育った少年が、高額な賞金が懸けられた
クイズ番組で勝ち続ける様を、この少年のこれまでの生き様と重ねて
描いた名作『スラムドッグ$ミリオネア』はアイルランド・カトリック教徒の
労働者階級
の両親の元に生まれたダニー・ボイル監督の作品であり、
今回の開会式もダニー・ボイル監督が演出を担当している。
今から思うと、チャン・イーモウ監督が総合監督を務め、中国が
国の威信をかけて作り込んだ北京オリンピックの開会式は
その背景に覇者の論理ともいえる儒教の影響を感じる。
少し前にこのブログで言及した「ふしぎなキリスト教」は
西洋近代化の背景を理解するにはキリスト教的な物の考え方の
理解が有用とのスタンスで、ユダヤ教、イスラム教との対比として
キリスト教が出現した歴史、聖書の言葉の解釈、キリスト教の本質、
哲学、数学・倫理学への影響等についての示唆に富んだ対談集である。
ユダヤ教、イスラム教と異なりキリスト教徒が自由に
法律をつくれることが近代化を促し、
人間の理性(数学・倫理学)に対する「信頼」が
学問を成長させた。
キリスト教の最大の特徴は「隣人愛」の精神であり、
神が与えた権利を国家が奪うことはできないとする
「自由・独立」の精神である。
マルホランド・ドライブ
ロスアンジェルスのダウンタウンからハリウッドフリーウェイを北西に進み、
ハリウッド貯水池を右手に望む地点からハリウッドヒルズに向けて
小高い丘の斜面をジグザグに縫って進み、丘を下るとサンディエゴフリーウェイに
合流するマルホランド・ドライブ。
スリルを求めてヘアピンカーブを急速度で曲がるスピード狂の若者達のメッカであり、
ロスアンゼルスを舞台に多くの作品を著しているマイクル・コナリーがその
著作「THE OVERLOOK(死角)」やエコーパーク、ラストコヨーテで度々
描いているマルホランド・ドライブ。
このマルホランド・ドライブの題名に惹かれて見たデヴィッド・リンチ監督の
2001年のハリウッド映画「マルホランド・ドライブ」は
マルホランド・ドライブを象徴する急カーブを疾走する若者達が
引き起こした自動車事故から始まり、マルホランド・ドライブの蛇行のように
過去と現在、夢と現実が錯綜しうねりながら進行する
デヴィッド・リンチ監督の独創的な個性が際だった、
その作品の解釈が観客の手に委ねられた作品であった。
勝者のみがもてはやされ莫大な冨を得る一方で、ほんの僅かの差で勝ち組に
残れなかった多くの人々の夢破れた人生がその華やかな顔の裏でうごめく
“残酷”で“酷薄”なハリウッド。
このハリウッド映画産業を舞台に、もはや出番の無くなった
無声映画時代の大女優と、ハリウッドでの成功を夢みていたが
作品が売れずその日の借金の支払いにも困っている脚本家を
主役にし“身勝手”で自己中心的な人間達の姿を
ユダヤ人であるビリー・ワイルダー監督が大胆に描ききった
ハリウッド映画の傑作「サンセット大通り」への敬意を込めて
作られたとされる本作。
本作について、監督自らは作品の解説はせず、観客の心で作品を理解して
ほしいとする「マルホランド・ドライブ」は、女優志望の女性の嫉妬、野望、失意の
心をナオミ・ワッツが全身で演じきった深みのある“ハリウッド映画”として
完成している。
冬虫夏草 ツクツクボウシセミタケ
少し旧聞に属するが、先週18日に、産学が連携して開発した製品の
中で、特に社会への貢献度の高い技術について、発明された大学等の先生と
開発企業を表彰する第37回井上春成賞授賞式が大手町の経団連会館で
行われた。
多くの候補課題の中から今年は次の2課題が選定された。
1)新規多発性硬化症治療薬フィンゴリモド塩酸塩の創薬
2)CLBO非線形光学素子
「CLBO非線形光学素子」は長い間結晶成長の研究に携われていた
大阪大学の佐々木孝友名誉教授が開発に成功した
セシウム・リチウム・ボレートCsLiB6O10(CLBO)結晶を、
株式会社光学技研が本結晶の最大の欠点であった吸湿潮解性の問題を
克服し、本結晶が持つ入射光周波数(波長)をより高い周波数(短い波長)の
光へ変換する機能を最大限に発揮した、波長200nmから350nm付近の
深紫外線領域のレーザー光を発光可能な光学素子として製品化に成功した
技術開発に関している。
「新規多発性硬化症治療薬フィンゴリモド塩酸塩の創薬」は、
冬虫夏草に属する、台湾ツクツクボウシの幼虫を寄主とする
ツクツクボウシセミタケ菌の菌糸体の免疫抑制効果を見出した京都大学の
藤多哲郎名誉教授の研究グループの発明を田辺三菱製薬株式会社が
医薬として開発を進め、日本のみならず欧米でも販売を開始している
多発性硬化症の新規治療薬の開発技術である。
多発性硬化症とは、脳の信号を体全体に伝える神経パルスの高速伝導に
大きく貢献している神経細胞の軸索を取り囲む髄鞘が、
本来は異物を破壊するはずの免疫細胞によって
破壊されてしまう原因不明の難治性自己免疫疾患であり、
症状としては運動麻痺や感覚障害緯度を伴い、
緯度の高い地域に住む欧米人の発症率が高く、
日本で林家こん平師匠がこの難病に罹患していることが公表されている。
発明者として受賞された藤多哲郎名誉教授は、台湾ツクツクボウの幼虫の
細胞に浸入し成長するツクツクボウシセミタケ菌の一種が持つ強力な
免疫活性抑制効果を発見し、構造を特定した有効成分について
田辺三菱製薬株式会社と共同で様々な置換基による修飾を試みた結果、
毒性が無く、容易に水に可溶なフィンゴリモド塩酸塩の開発に成功し、
日本発の多発性硬化症治療薬として多くの患者の治療に活用されている。
二つの技術は派手さこそないが、長い地道な研究の成果として日本オリジナルの
世界に貢献する新技術である。



