パレルモ・シューティング
シチリア島北西部に位置し、シチリア州の州都であるパレルモ。
作品中羊飼いの扮装をした透明なレインコートを羽織り、蝶ネクタイで
スーツ姿の紳士(神の象徴であろうか)がイタリアの都市パレルモは
ギリシャ語ですべての港を意味するパレルモスから名付けられたと話す。
エンディングのクレジットで明らかにされているように、
本作撮影中の2007年7月30日に亡くなった
イングマール・ベルイマン監督とミケランジェロ・アントニオーニ
監督に捧げられている本作は、
神、生、死との対話が主題の作品である一方、
全篇を流れるセンスの良い音楽と地中海の古都パレルナの景色は
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブを彷彿とさせるヴィム・ヴェンダース監督の
個性が際だった心に残る作品に仕上がっている。
切り取られた瞬間を撮影した写真を組み合わせ、加工することで、
時間を表現し、現実を飾り、再生することを職業とする写真家のフィン。
この写真家のフィンが羊飼いの男(神)と出会い、イタリアのパレルモに
導かれ、そこで生の象徴である修復画家のフラヴィアと出会う。
2010年に死去したデニス・ホッパーの遺作とも言える本作で、
作品の主題を体現する重要な役を演じたデニス・ホッパーの怪演は
見事の一字であり、互いに補完する“生”と“死”の“死”を完璧に
演じていた。
最近母を亡くしたフィンが体験する世界はヴィム・ヴェンダース自身が
作品の中で構築しているあたかもエッシャーのだまし絵のような幻影の世界であり、
死の幻想から生還したフィンを待っていたのは生の象徴
フラヴィアであった。
羊飼いは言う
「いつもこれが最期だと思うこと」
「すべてを正面から受けとめる」
それにしても美しい映画である。
「預言者」
聖書の預言者は神の言葉を伝える伝達者であるが、
本作「預言者」の”預言者“は、ある事件をきっかけとして
死者と対話し、時として将来を予感できる能力を持つようになった
19歳のアラブ系犯罪者マリクであり、
その能力も活用して、刑務所内での過酷な異民族抗争の6年間を
生き抜いたマリクの生き様を、スリルとサスペンスとペーソスを持って描いた
いかにもフランス的作品。
自身が制作した「真夜中のピアニスト」で、主人公の生き方に
強い影響を与えた父親を個性的に演じたニエル・アレストリュプを、
ジャック・オーディアール監督は本作「預言者」では若いマリクを奴隷のように
酷使するコルシカマフィアの大物として配し、マリクの成長に伴って
刻々変化する権力者と隷属者の関係を、ニエル・アレストリュプの
表情、マリクを演じた新人タハール・ラヒムの表情で浮かび上がらせる。
冒頭部の過激な描写には仰天したが、暴力が主題のこの作品は、
学習することで変われる人間の姿、そして生きる事への執念・喜びを
強く意識させる2時間30分の作品であった。
「ブラジルから来た少年」
34年前の1978年に公開されたハリウッド映画「ブラジルから来た少年」は、
実存したアウシュビッツの主任医管ヨーゼフ・メンゲルが過去に行った
人体実験を物語のヒントとして、南米パラグアイに潜伏していたナチス残党と
彼らを追っているナチ・ハンターの攻防を巡る物語。
1978年当時、鯉やカエルのクローンは研究者の手で作られていたが、
後に哺乳類のクローンとして初めて生み出されるヒツジのクローンは
未だ研究段階であったこの時代に制作された本作。
作品では体細胞から取り出したDNA
を未受精卵に移植することで
人間のクローンを作成するとして、なんと保存されたヒットラーの血液から
抽出したDNAを未受精卵に移植することで、ヒットラーのクローンを
誕生させ、誕生した赤ちゃんの素性を明かすことなく、養子として
世界各国の家庭で、金髪でブルーの目をし、同じ性格の少年に
成長させている。
「アラバマ物語」や「ローマの休日」とは打って変わり、1970年代の中頃から
“悪役“も演じているグレゴリー・ペックが”死の天使“ヨーゼフ・メンゲルを演じ
当時70歳を超えていたローレンス・オリヴィエがナチ・ハンターを
ライフワークとするユダヤ人教授リーバーマンを演じた本作品には、
第二次世界大戦に従軍し、「パットン大戦車軍団」を制作した
フランクリン・ジェームス・シャフナー監督の戦争に対する思い、
“人間の狂気”に対する思いが反映されているように思う。