『わたしを離さないで』(Never Let Me Go)
「1952年医学界に画期的な進歩が訪れた。
不治とされていた病気の治療が可能となり、
1967年人類の平均寿命が100歳を超えた」
カズオ・イシグロの2005年の著作と同じ題名で2010年に
制作され、上記のモノローグで始める映画「Never Let Me Go」
(『わたしを離さないで』)は外の世界との接触を禁じられ、“純粋培養”
された若い男女が“真”の生きる意味を自分のものとする過程を
主人公キャシーの視点で感情を抑えて描いた、
哀切極まりない作品として仕上げられている。
1952年=昭和27年。
第二次世界大戦終戦後7年、まだまだ世界中に戦争孤児が
あふれていた時代。
1978年から始まる本作で登場する子供たちは戦争孤児ではないが、
子供たちが何故“ヘールシャム学院”と呼ばれる全寮制の“施設”で
両親と一度も会うことなしに少年・少女期を過ごし、
青年期に達してからはまた同じような施設で過ごしているのか
この作品では明らかにされることはないが、
明らかにこの作品の主人公達は家族との接点がなく、
ある目的の為だけに生かされている。
ヘールシャム学院で短期間教鞭をとり、すぐに学校を去ることになる
ルーシー先生は涙を流し子供たちにこのように言う。
「人は何にでもなれる。 でもあなたたちの人生はすべて決められている。
自分というものを知ることで、 “生”に意味を持たせてほしい。」
生涯の友となるトミーが少年時代にキャシーにプレゼントし
重要な場面でキャシーが繰り返し聞く、カセットテープ
「Songs after Dark」からの一曲で、架空の?歌手“Judy Bridgewater”は
心をこめて次のように歌う
“Kiss me darling hold me hold me
never never let me go」
“一人にしないで、いつまでも一緒にいて”
キャシーを演じたキャリー・マリガンそしてキャシーの少女時代を
演じたイゾベル・ミークル=スモールがこの曲を聴くときの
無垢の表情がとても素晴らしく、キャシーのその後の人生を知る
ことになる観客の心を鷲掴みにする。
来日したイシグロ・カズオはインタビューに答えて、次のように
言っている。
「人生は思ったより短く、そのなかで最も重要なことは何かを
考えさせるようなものを描きたかった。
決して悲観的な物語ではない」
「上海家族」(假装没感覚, SHANGHAI WOMEN)
“気が付かないふりをする”を意味する「假装没感覚」を
原題とする彭小蓮(ポン・シャオレン)監督の2002年の作品
「上海家族」は、上海旧市街の風景を形作っている黄浦江の
さりげない朝晩の景色を最高に美しい映像として切り出し、
黄浦江とともに生活している上海の庶民の姿、
そして上海で暮らす母と娘の心の動きを
女性監督の視点から丁寧に描いている。
テームズ川、ハドソン川、イースト川、セーヌ川、シカゴ川、
そして、隅田川、多摩川等々と大都会を流れる川は
そこに住む人々の生活の一部であり、四季それぞれに
多彩な姿を見せてくれている。
本作の黄浦江も
川面で美しく反射する日の光、
川にかかる橋を行きかう沢山の自転車、
対岸の浦東新区でそびえる上海テレビ搭など
過去からそして今後も永遠に流れ続ける悠然とした姿が、
夫と別れ、自分の気持ちを殺して娘のために
人生設計を考えている母と、母を愛するが故に
母の生き方に反発する娘の相克と対比して
描かれているように思った。
不誠実な男、吝嗇な男との出会いと別れを
繰り返す母、そして母の生活が変わるたびに自分の
生活も変えていく娘、
そんな娘が心配で娘の日記を盗み見る母、
この行為を原因とする娘との相克を通じて
困難な状況下で生き方を模索する母と娘の姿、
そして和解した二人が強く生きていく姿が
さまざまな歴史を経て現在に至る上海旧市街の景色とダブらせて
描かれている。
ネクタイ
ハロウインが終わり11月が始まった。
今年のクールビズも日程的には一昨日で終了し、
今朝の社内はネクタイ姿のビジネスマンが多かった。
このネクタイ、発祥の地は年間を通じて湿度が低い欧州。
スーツ姿にはやはりネクタイが無いとしまらないが、
亜熱帯モンスーン気候に属し湿度の高い夏の日本では
クールビズのおかげで半袖ノーネクタイが定着し、数か月間
洋服ダンスで眠っていたネクタイが、この季節、
気分をリフレッシュさせてくれる貴重な小物として、
その地位を取り戻す。
コロラド州デンバーではネクタイを締めて店に入ると
そのネクタイが店の人のハサミで中間部からカットされ、店に飾られる
ステーキハウスがあり、カットを前提にそれなりのネクタイを
していく人がいるほど、欧州と比較して米国ではネクタイは
ビジネス=フォーマルの象徴として捉えられ、その反動として派手すぎる
ネクタイや、ノーネクタイのカジュアルが一般的であるように思う。
一方、現職そして歴代のアメリカ大統領、欧州の首脳陣は
聴衆へのアピールを考慮し、おそらくは周囲のアドバイスに基づいて
その場その場に合わせた,ネクタイを選択することで自分を演出している。
私自身としてもネクタイはビジネスの必需品で、ここ数十年、創業明治38年の
銀座に本店を置くオリジナル紳士用品店の玉川店で毎年購入する
ネクタイを愛用している。
服飾の一分野として、時代と共にその幅や色柄が少しづつ変わり、
映画を見るとその時代が判るネクタイ、これから来年の初夏までさりげなく
男のお洒落を演出してくれる。


