この文章は、2018年12月1日(土)19:00開演の劇団暗黒郷の夢『Whiteout』についての劇評です。
最初に躓いたのは劇団名にある「暗黒郷(ディストピア)」という言葉だった。公演パンフレットには「ディストピアはユートピア(理想郷)の反対語」とある。では理想郷とはなんなのだろう。
警察官のあつし(高田滉己)と高校生のさきか(北国歩実)はとても仲の良い兄妹だった。ある日突然さきかが家に帰ってこなくなる。心配するあつしに先輩の上出(田中祐吉)は「マザー」を信仰するある団体の話をする。さきかはその団体にいるらしい。上出はあつしに潜入捜査を勧めた。
団体の施設内は雰囲気が出来上がっていた。統制された信者たちと、管理する人たちがいる。管理される信者はマザーの声を聞き、管理する側のシスターやドクターの指示通りに動き、期待通りの発言をすることで居心地のいい場所に居続けられる。何も考えなくてもいい。今のところ、彼らにとってそこは理想郷なのだ。
そこは「マザー」の言葉を信じるものが集まる場所だった。集まった信者は顔を隠すような形の白い衣装を身に纏っていて、高らかに賛美歌のような歌を歌う。映像で映し出されたマザー(奈良井伸子)の言葉に信者たちは心酔する。マザーの目を少し伏せた表情、声のトーン、語りかけるような言葉には気持ちが持っていかれるような感じがした。
彼らは過去の自分との決別を表明する儀式に入る。思い入れのある品物を壷に捨てるのだ。どうしても品物を捨てられない人は、別室で特別な何かを受けるようだった。家族の写真を捨てられなかった信者は恍惚とした表情で自ら別室行きを希望した。すでに新人の信者として潜入していたあつしは、別室に行くにはまだ早いとその場に留められた。あつしの付き添いのように宛がわれた信者がいた。それはさきかだった。家に帰ろうというあつしに、さきかは拒絶を示す。そこに別の男性信者が現れてあつしを気絶させる。
目が覚めたあつしは頭に電流が流れる器具を装着され手足を拘束されていた。そこにいたのはドクター(朱門)だ。このドクターがよくしゃべる。自分の信念を延々としゃべっている。ときどきあつしが否定する言葉を挟むのだが、歯牙にもかけない。言葉に迷いがない。あつしは完全に押されている。あつしの前で過去の品物を捨てる儀式が始まった。さきかがあつしとさきかにとって大事なミサンガを切きざいていた。ショックを受けるあつしに止めを刺したのは上司の上出だった。あつしの顔を覗き込んだ男性信者は上出だった。あつしを気絶させたのは彼だった。あつしは絶望したように脱力した。きっと彼は何が正しくて何が間違っているのかわからない状態だ。
あつしはこの後どうなるのだろうか。そのまま居続けるのか。妹と一緒に、あるいはあつし一人でこの施設から立ち去るのか。この場所で抗わず、マザーの言葉を信じて、幹部の指示の元、毎日を過ごす。毎日に疲れを感じる私には少しだけ魅力的に見える。
この文章は、2018年12月8日(土)19:00開演の空転幾何区『Twilight』についての劇評です。
5、4、3、2、1……。作品の中でカウントダウンを聞いて妙に胸がざわついたのは、慌ただしい年末だったから、だけではない。人はいつでも、未知の世界へ旅立ちたいという願望と不安を心の奥底に秘めているのではないだろうか。12月8、9日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された空転幾何区『Twilight トワイライト』(作・演出:川端大晴、佐藤史織)は、お互いを探して時空を飛び交う二人のタイムトラベラーが会えそうで会えない状況を描いたSF風味のナンセンスなコントだったが、どうしようもなくすれ違ってしまう人間存在の寂しさをさりげなく感じさせ、笑いの中にどこか切ない後味を残した。
タイムマシンの研究者であり、テストドライバーでもある結城(能沢秀矢)は、ようやく完成した試作機に乗り込んで出発するが、行方不明になってしまった。同僚である相沢(船橋徹也)が後を追いかけるが、そこに結城はいなかった。現代へ戻ったり、未来へ行ったりとタイムリープを繰り返すが、二人はなかなか出会えない。結城が過去を変えたことで相沢の命が危うくなったり、未来では研究室自体が海底に沈んでいたりとトンデモない事態が発生。また、タイムマシン開発室のチーフ(佐藤史織)はもともと自己愛の激しい性格だったが、いつの間にか彼女を教祖とする新興宗教が立ち上がり、メンバーたちが信者になっていた。そんな変遷を乗り越えながら、白衣に身を包んだ同じ顔ぶれのスタッフたちが相も変わらず大真面目で研究に打ち込んでいる姿自体がバカバカしくて面白い。
舞台中央に置かれたタイムマシンは蒸気機関車型であり、ちょうど「D51」(デゴイチ)のような先端部分を観客は正面から見る格好となる。時間旅行への出発時には蒸気機関車の汽笛音が流れ、懐かしさをかき立てる。ただ、過去も未来も舞台上は同じ研究室なので時間の違いがわかりにくかった。今はいつの時代かということを表示する装置が取り付けられていたと観劇後に聞いたが、私はそれに気づかなかった。
エンディングで時空のねじれを解消して二人が未来で再会するためのカウントダウンが始まる。今は携帯電話が発達したおかげで、待ち合わせ場所を間違えるというトラブルは減ったはずだ。しかし、1950年代に一世を風靡した映画『君の名は』(脚本・菊田一夫)のように「会えそうで会えない」シチュエーションはもともと恋愛ドラマの定番。2016年公開で大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)も男女が時空を超えてすれ違う物語だった。今回の作品も、二人のタイムトラベラーが恋人同士という設定にしたら、もっと切ないラブロマンスになっていたかもとふと考えた次第である。
《以下は更新前の文章です。》
5、4、3、2、1……。年末のこの時期にカウントダウンを聞くと、胸がざわざわする。人はいつでも、未知の世界へ旅立ちたいという願望と不安を心の奥底に秘めているのではないだろうか。12月8、9日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された空転幾何区『Twilight トワイライト』(作・演出:川端大晴、佐藤史織)は、時空を飛び交う二人のタイムトラベラーが会えそうで会えない状況を描いたSF風味のナンセンスなコントだったが、どうしようもなくすれ違ってしまう人間存在の寂しさをさりげなく感じさせ、笑いの中にどこか切ない後味を残した。
タイムマシンの研究者であり、テストドライバーでもある結城(能沢秀矢)は、ようやく完成した試作機に乗り込んで出発するが、誤って違う時代へ紛れ込んだらしい。同僚である相沢(船橋徹也)が後を追いかけるが、そこに結城はいなかった。仕方なく現代へ戻ったり、今度は未来へ行ったりとタイムトラベルを繰り返すが、二人はなかなか出会えない。結城が過去を変えたことで相沢の命が危うくなったり、未来では研究室自体が海底に沈んでいたりとトンデモない事態が発生。また、タイムマシン開発室のチーフ(佐藤史織)はもともと自己愛の激しい性格だったが、別の時代では彼女を教祖とする新興宗教が立ち上がっており、メンバーたちから崇められていた。そういう変遷を乗り越えながら、どの時代でも白衣に身を包んだ同じ顔ぶれのスタッフたちが相変わらず普通にタイムマシンの研究に励んでいること自体がバカバカしくて面白い。
舞台中央に置かれたタイムマシンは蒸気機関車型であり、ちょうど「D51」(デゴイチ)のような先端部分を観客は正面から見る格好となる。時間旅行への出発時には蒸気機関車の汽笛音が流れ、懐かしさをかき立てる。開発中のエピソードとして、研究員たちが焼きそばパンを電子レンジで温めようとするが、コンセントをタイムマシンに借用してしまったので電源がない。代わりに乾電池を使った「電池レンジ」で温められないかと電気の直流と交流の違いも無視したギャグが炸裂する。
壮大なストーリーにもかかわらず、舞台上は過去も未来も同じ研究室なので時間の違いがわかりにくかった。もちろん作り手は辿り着いた時代がいつなのかという錯覚を利用して笑わせてもいたのだが。結末に今度こそ二人は同じ時空で出会おうと期待を込めて未来行きのカウントダウンが始まるのだが、不思議に胸が高鳴った。今は携帯電話が発達したおかげで、待ち合わせ場所を間違えるというトラブルは減ったはずだ。しかし、1950年代に一世を風靡した映画『君の名は』(脚本・菊田一夫)のように「会えそうで会えない」シチュエーションはもともと恋愛ドラマの定番。2016年公開で大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)も男女が時空を超えてすれ違う物語だった。今回の作品も、二人のタイムトラベラーが恋人同士という設定にしたら、もっと切ないラブロマンスになっていたかもとふと考えた次第である。
5、4、3、2、1……。作品の中でカウントダウンを聞いて妙に胸がざわついたのは、慌ただしい年末だったから、だけではない。人はいつでも、未知の世界へ旅立ちたいという願望と不安を心の奥底に秘めているのではないだろうか。12月8、9日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された空転幾何区『Twilight トワイライト』(作・演出:川端大晴、佐藤史織)は、お互いを探して時空を飛び交う二人のタイムトラベラーが会えそうで会えない状況を描いたSF風味のナンセンスなコントだったが、どうしようもなくすれ違ってしまう人間存在の寂しさをさりげなく感じさせ、笑いの中にどこか切ない後味を残した。
タイムマシンの研究者であり、テストドライバーでもある結城(能沢秀矢)は、ようやく完成した試作機に乗り込んで出発するが、行方不明になってしまった。同僚である相沢(船橋徹也)が後を追いかけるが、そこに結城はいなかった。現代へ戻ったり、未来へ行ったりとタイムリープを繰り返すが、二人はなかなか出会えない。結城が過去を変えたことで相沢の命が危うくなったり、未来では研究室自体が海底に沈んでいたりとトンデモない事態が発生。また、タイムマシン開発室のチーフ(佐藤史織)はもともと自己愛の激しい性格だったが、いつの間にか彼女を教祖とする新興宗教が立ち上がり、メンバーたちが信者になっていた。そんな変遷を乗り越えながら、白衣に身を包んだ同じ顔ぶれのスタッフたちが相も変わらず大真面目で研究に打ち込んでいる姿自体がバカバカしくて面白い。
舞台中央に置かれたタイムマシンは蒸気機関車型であり、ちょうど「D51」(デゴイチ)のような先端部分を観客は正面から見る格好となる。時間旅行への出発時には蒸気機関車の汽笛音が流れ、懐かしさをかき立てる。ただ、過去も未来も舞台上は同じ研究室なので時間の違いがわかりにくかった。今はいつの時代かということを表示する装置が取り付けられていたと観劇後に聞いたが、私はそれに気づかなかった。
エンディングで時空のねじれを解消して二人が未来で再会するためのカウントダウンが始まる。今は携帯電話が発達したおかげで、待ち合わせ場所を間違えるというトラブルは減ったはずだ。しかし、1950年代に一世を風靡した映画『君の名は』(脚本・菊田一夫)のように「会えそうで会えない」シチュエーションはもともと恋愛ドラマの定番。2016年公開で大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)も男女が時空を超えてすれ違う物語だった。今回の作品も、二人のタイムトラベラーが恋人同士という設定にしたら、もっと切ないラブロマンスになっていたかもとふと考えた次第である。
《以下は更新前の文章です。》
5、4、3、2、1……。年末のこの時期にカウントダウンを聞くと、胸がざわざわする。人はいつでも、未知の世界へ旅立ちたいという願望と不安を心の奥底に秘めているのではないだろうか。12月8、9日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された空転幾何区『Twilight トワイライト』(作・演出:川端大晴、佐藤史織)は、時空を飛び交う二人のタイムトラベラーが会えそうで会えない状況を描いたSF風味のナンセンスなコントだったが、どうしようもなくすれ違ってしまう人間存在の寂しさをさりげなく感じさせ、笑いの中にどこか切ない後味を残した。
タイムマシンの研究者であり、テストドライバーでもある結城(能沢秀矢)は、ようやく完成した試作機に乗り込んで出発するが、誤って違う時代へ紛れ込んだらしい。同僚である相沢(船橋徹也)が後を追いかけるが、そこに結城はいなかった。仕方なく現代へ戻ったり、今度は未来へ行ったりとタイムトラベルを繰り返すが、二人はなかなか出会えない。結城が過去を変えたことで相沢の命が危うくなったり、未来では研究室自体が海底に沈んでいたりとトンデモない事態が発生。また、タイムマシン開発室のチーフ(佐藤史織)はもともと自己愛の激しい性格だったが、別の時代では彼女を教祖とする新興宗教が立ち上がっており、メンバーたちから崇められていた。そういう変遷を乗り越えながら、どの時代でも白衣に身を包んだ同じ顔ぶれのスタッフたちが相変わらず普通にタイムマシンの研究に励んでいること自体がバカバカしくて面白い。
舞台中央に置かれたタイムマシンは蒸気機関車型であり、ちょうど「D51」(デゴイチ)のような先端部分を観客は正面から見る格好となる。時間旅行への出発時には蒸気機関車の汽笛音が流れ、懐かしさをかき立てる。開発中のエピソードとして、研究員たちが焼きそばパンを電子レンジで温めようとするが、コンセントをタイムマシンに借用してしまったので電源がない。代わりに乾電池を使った「電池レンジ」で温められないかと電気の直流と交流の違いも無視したギャグが炸裂する。
壮大なストーリーにもかかわらず、舞台上は過去も未来も同じ研究室なので時間の違いがわかりにくかった。もちろん作り手は辿り着いた時代がいつなのかという錯覚を利用して笑わせてもいたのだが。結末に今度こそ二人は同じ時空で出会おうと期待を込めて未来行きのカウントダウンが始まるのだが、不思議に胸が高鳴った。今は携帯電話が発達したおかげで、待ち合わせ場所を間違えるというトラブルは減ったはずだ。しかし、1950年代に一世を風靡した映画『君の名は』(脚本・菊田一夫)のように「会えそうで会えない」シチュエーションはもともと恋愛ドラマの定番。2016年公開で大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)も男女が時空を超えてすれ違う物語だった。今回の作品も、二人のタイムトラベラーが恋人同士という設定にしたら、もっと切ないラブロマンスになっていたかもとふと考えた次第である。
この文章は、2018年12月8日(土)19:00開演の空転幾何区『Twilight』についての劇評です。
舞台中央には、機関車の先頭部分を模した黒い円が見える。それはタイムマシンだ。中には相沢(船橋徹也)が乗っている。タイムマシンの左右に2カ所ずつ、腰ほどの高さの台がある。それらはタイムマシンの制御盤だ。制御盤についた4人の研究員(チーフ・佐藤史織)、(斉藤・川端大晴)、(アキ・大橋茉歩)、(ナッツ・間宮一輝)が点検を始める。4人はチェック項目を次々発言していく。マシンの始動に向けてカウントダウンが始まる。機体からは煙が上る。そしてタイムマシンは時間旅行に旅立つ。はずが、失敗してしまったらしい。それでも、彼らはまたチャレンジする。時間を移動して、一人の男を取り戻すため。
そこではかつて、結城(能沢秀矢)をパイロットとして、タイムマシンの実験が行われていた。過去に向かい飛び立とうと始動するマシン。しかしトラブルが起こり、システムを停止しなければならなくなってしまう。止まったタイムマシンを見てみると、中には誰もいなかった。結城は過去に行けたのか、それとも消滅してしまったのか。実験を中止させるため、相沢は時間の旅に出ることを決意する。
相沢は、過去に時間移動することに成功する。過去で出会ったアキに、タイムマシンの点検を頼み、相沢は元の時間へと戻る。だが、結城は失われたままだった。相沢は何度もタイムトラベルを繰り返すが、未来は予想外の方向に変化し、結城は戻らない。そして飛ぶたびに、変わらないはずの過去が変わっているのだ。時には宇宙人からの侵略に遭っているところに、時には海底に沈んだところに、まるで異世界を旅するかのように、彼は様々に変化した過去を移動する。
何度目かの移動で、ようやく相沢は結城に出会う。結城は結城の時間軸で、時間移動によって失われた相沢を探していた。二人は追いかけあうように、それぞれのいない過去へと旅をしていた。その影響で過去が変わっていたのだ。
この物語で大きく描かれていたのは相沢と結城、二人の友情だ。過去を変えることは、未来を変えること。それは誰かを救うことになるかもしれないが、誰かを苦しめることにもなるかもしれない。それでもただ一人のために、自分の身体をかけて時間の旅へと飛び出していく相沢と結城。何度も何度も失敗を繰り返し、それでも諦めることなく彼らは、それぞれの時間軸において、再び挑戦する。過去を変えることで自分の身に何が起こるかはわからない。しかし彼らにとっては、お互いが自分よりも大切な一人なのだ。相手を思う気持ちは、何度過去が変えられても変えられない。そして旅する彼らを未来で待つ研究員達の心も、変わらない。
変えることができるのは、自分が存在している今だけだ。何があっても大切にしたいものをなくさないために、今いる場所でできることに尽力する。過去、現在、未来、いついかなる時にも大事な心と行動を、彼らは表現していた。
(以下は更新前の文章です)
舞台中央には、機関車の先頭部分を模した黒い円形が見える。それはタイムマシンだ。中には相沢(船橋徹也)が乗っている。タイムマシンの左右に2カ所ずつ、腰ほどの高さの台がある。それらはタイムマシンの制御盤だ。制御盤についた4人(チーフ・佐藤史織)、(斉藤・川端大晴)、(アキ・大橋茉歩)、(ナッツ・間宮一輝)が点検を始める。4人はチェック項目を次々発言していく。マシンの始動に向けてカウントダウンが始まる。機体からは煙が上る。そしてタイムマシンは時間旅行に旅立つ。はずが、失敗してしまったらしい。それでも、彼らはまたチャレンジする。時間を移動して、一人の男を取り戻すため。
その研究所では、結城(能沢秀矢)をパイロットとして、タイムマシンの実験が行われていた。過去に向かい飛び立とうと始動するマシン。しかしトラブルが起こり、システムを停止しなければならなくなってしまう。止まったタイムマシンを見てみると、中には誰もいなかった。結城はどこに行ったのか。過去に行けたのか、それとも消滅してしまったのか。結城の無事を信じて、相沢は、結城を取り戻す時間の旅に出ることを決意する。
相沢は、過去に時間移動することに成功する。過去で出会ったアキに、タイムマシンの点検を頼み、相沢は元の時間へと戻る。だが、結城は失われたままだった。相沢は何度もタイムトラベルを繰り返すが、結城は戻らない。そして飛ぶたびに、変わらないはずの過去が変わっているのだ。時には宇宙人からの侵略に遭っているところに、時には海底に沈んだところに、まるで異世界を旅するかのように、彼は様々に変化した過去を移動する。
ようやく二人が出会えた時に、過去が改変されていた理由が判明する。結城は結城の時間軸で、時間移動によって失われた相沢を探していたのだ。二人は追いかけあうように、それぞれのいない過去へと旅をしていたことになる。
過去を変えることは、未来を変えること。それは誰かを救うことになるかもしれないが、誰かを苦しめることにもなるかもしれない。それでも、研究者達は夢を見た。過去の世界が見たい。そして、未来の世界が見たいと。憧れであるタイムトラベルの世界を、空転幾何区は舞台上で作りだしてみせた。
そしてこの物語で大きく描かれていたのは友情だ。ただ一人のために、自分の身体をかけて時間の旅へと飛び出していく相沢と結城。何度も何度も失敗を繰り返し、それでも諦めることなく次へと向かう二人。それは世界を変える行動であるが、彼らにとっては、お互いが世界よりも大切な一人なのだ。相手を思う気持ちは、何度過去が変えられても変えられない。そして旅する彼らを未来で待つ研究員達の心も、変わらない。
再会した二人は、タイムマシンで未来へと向かっていく。ただ一つを思い続けられる強い心があれば、どんな未来でもきっと受け入れていけるだろう。
舞台中央には、機関車の先頭部分を模した黒い円が見える。それはタイムマシンだ。中には相沢(船橋徹也)が乗っている。タイムマシンの左右に2カ所ずつ、腰ほどの高さの台がある。それらはタイムマシンの制御盤だ。制御盤についた4人の研究員(チーフ・佐藤史織)、(斉藤・川端大晴)、(アキ・大橋茉歩)、(ナッツ・間宮一輝)が点検を始める。4人はチェック項目を次々発言していく。マシンの始動に向けてカウントダウンが始まる。機体からは煙が上る。そしてタイムマシンは時間旅行に旅立つ。はずが、失敗してしまったらしい。それでも、彼らはまたチャレンジする。時間を移動して、一人の男を取り戻すため。
そこではかつて、結城(能沢秀矢)をパイロットとして、タイムマシンの実験が行われていた。過去に向かい飛び立とうと始動するマシン。しかしトラブルが起こり、システムを停止しなければならなくなってしまう。止まったタイムマシンを見てみると、中には誰もいなかった。結城は過去に行けたのか、それとも消滅してしまったのか。実験を中止させるため、相沢は時間の旅に出ることを決意する。
相沢は、過去に時間移動することに成功する。過去で出会ったアキに、タイムマシンの点検を頼み、相沢は元の時間へと戻る。だが、結城は失われたままだった。相沢は何度もタイムトラベルを繰り返すが、未来は予想外の方向に変化し、結城は戻らない。そして飛ぶたびに、変わらないはずの過去が変わっているのだ。時には宇宙人からの侵略に遭っているところに、時には海底に沈んだところに、まるで異世界を旅するかのように、彼は様々に変化した過去を移動する。
何度目かの移動で、ようやく相沢は結城に出会う。結城は結城の時間軸で、時間移動によって失われた相沢を探していた。二人は追いかけあうように、それぞれのいない過去へと旅をしていた。その影響で過去が変わっていたのだ。
この物語で大きく描かれていたのは相沢と結城、二人の友情だ。過去を変えることは、未来を変えること。それは誰かを救うことになるかもしれないが、誰かを苦しめることにもなるかもしれない。それでもただ一人のために、自分の身体をかけて時間の旅へと飛び出していく相沢と結城。何度も何度も失敗を繰り返し、それでも諦めることなく彼らは、それぞれの時間軸において、再び挑戦する。過去を変えることで自分の身に何が起こるかはわからない。しかし彼らにとっては、お互いが自分よりも大切な一人なのだ。相手を思う気持ちは、何度過去が変えられても変えられない。そして旅する彼らを未来で待つ研究員達の心も、変わらない。
変えることができるのは、自分が存在している今だけだ。何があっても大切にしたいものをなくさないために、今いる場所でできることに尽力する。過去、現在、未来、いついかなる時にも大事な心と行動を、彼らは表現していた。
(以下は更新前の文章です)
舞台中央には、機関車の先頭部分を模した黒い円形が見える。それはタイムマシンだ。中には相沢(船橋徹也)が乗っている。タイムマシンの左右に2カ所ずつ、腰ほどの高さの台がある。それらはタイムマシンの制御盤だ。制御盤についた4人(チーフ・佐藤史織)、(斉藤・川端大晴)、(アキ・大橋茉歩)、(ナッツ・間宮一輝)が点検を始める。4人はチェック項目を次々発言していく。マシンの始動に向けてカウントダウンが始まる。機体からは煙が上る。そしてタイムマシンは時間旅行に旅立つ。はずが、失敗してしまったらしい。それでも、彼らはまたチャレンジする。時間を移動して、一人の男を取り戻すため。
その研究所では、結城(能沢秀矢)をパイロットとして、タイムマシンの実験が行われていた。過去に向かい飛び立とうと始動するマシン。しかしトラブルが起こり、システムを停止しなければならなくなってしまう。止まったタイムマシンを見てみると、中には誰もいなかった。結城はどこに行ったのか。過去に行けたのか、それとも消滅してしまったのか。結城の無事を信じて、相沢は、結城を取り戻す時間の旅に出ることを決意する。
相沢は、過去に時間移動することに成功する。過去で出会ったアキに、タイムマシンの点検を頼み、相沢は元の時間へと戻る。だが、結城は失われたままだった。相沢は何度もタイムトラベルを繰り返すが、結城は戻らない。そして飛ぶたびに、変わらないはずの過去が変わっているのだ。時には宇宙人からの侵略に遭っているところに、時には海底に沈んだところに、まるで異世界を旅するかのように、彼は様々に変化した過去を移動する。
ようやく二人が出会えた時に、過去が改変されていた理由が判明する。結城は結城の時間軸で、時間移動によって失われた相沢を探していたのだ。二人は追いかけあうように、それぞれのいない過去へと旅をしていたことになる。
過去を変えることは、未来を変えること。それは誰かを救うことになるかもしれないが、誰かを苦しめることにもなるかもしれない。それでも、研究者達は夢を見た。過去の世界が見たい。そして、未来の世界が見たいと。憧れであるタイムトラベルの世界を、空転幾何区は舞台上で作りだしてみせた。
そしてこの物語で大きく描かれていたのは友情だ。ただ一人のために、自分の身体をかけて時間の旅へと飛び出していく相沢と結城。何度も何度も失敗を繰り返し、それでも諦めることなく次へと向かう二人。それは世界を変える行動であるが、彼らにとっては、お互いが世界よりも大切な一人なのだ。相手を思う気持ちは、何度過去が変えられても変えられない。そして旅する彼らを未来で待つ研究員達の心も、変わらない。
再会した二人は、タイムマシンで未来へと向かっていく。ただ一つを思い続けられる強い心があれば、どんな未来でもきっと受け入れていけるだろう。
この文章は、2018年11月23日(金)14:00開演の劇団羅針盤『空ニ浮カブ星ノ名ハ三日月』についての劇評です。
劇団羅針盤の公演数はHPで確認するだけでも地元の劇団の中でずば抜けて多い。それだけ場数を踏んでいると言うことだ。地元の劇団の中でも固定のファンが付いている印象がある。
客席に座り舞台全体を眺めると、下手の手前にある赤い番傘が目に入る。一段上がった舞台は袖に向かう通路まで全て真っ黒な布で覆われているので、赤い傘と奥にある足場の鉄骨の銀色がとても映える。出演する俳優は4人だ。何人もの役を兼ねて演じる。時々混乱するが、一つの役を3人で演じた役はわかりやすい衣装とわかりやすいキャラクターで、上手くはまっていた。
出所してきた一松鉄司(平田知大)を舎弟の三郎(能沢秀矢)がたった一人で出迎える。お迎えにつき物の黒塗りの車はない。男は所属する組の組長の妻を殺しての服役だった。今の事務所だと言って舎弟に案内されたのはオカマバーだった。鉄司は組長の娘・五条透子(矢澤あずな)とそこで再会する。
羅針盤が得意とするのはアクションだ。今回も刀があり拳銃がありカーアクション(?)があり、4人の俳優がステージ上を動き回る。スピード感がある。スマート感があるともっといい。ストーリーは小難しくなくてわかりやすい。登場人物に裏があるところなどはスパイスとなっていていい。その中で鉄司から透子への思い、透子の五条組への思い、三郎の思いがなどが表現されるが、登場人物の思いはもっと丁寧に扱われてもいいのではないかと思う。アクションのスピードとはまた違った、人の心情を扱うのに必要なスピードまで落とすことで見ている側は登場人物に感情移入できる。同じアクションでも受け取り手がその意味を膨らませて捉えられれば、作品に厚みが出るのではないだろうか。
劇団羅針盤の公演数はHPで確認するだけでも地元の劇団の中でずば抜けて多い。それだけ場数を踏んでいると言うことだ。地元の劇団の中でも固定のファンが付いている印象がある。
客席に座り舞台全体を眺めると、下手の手前にある赤い番傘が目に入る。一段上がった舞台は袖に向かう通路まで全て真っ黒な布で覆われているので、赤い傘と奥にある足場の鉄骨の銀色がとても映える。出演する俳優は4人だ。何人もの役を兼ねて演じる。時々混乱するが、一つの役を3人で演じた役はわかりやすい衣装とわかりやすいキャラクターで、上手くはまっていた。
出所してきた一松鉄司(平田知大)を舎弟の三郎(能沢秀矢)がたった一人で出迎える。お迎えにつき物の黒塗りの車はない。男は所属する組の組長の妻を殺しての服役だった。今の事務所だと言って舎弟に案内されたのはオカマバーだった。鉄司は組長の娘・五条透子(矢澤あずな)とそこで再会する。
羅針盤が得意とするのはアクションだ。今回も刀があり拳銃がありカーアクション(?)があり、4人の俳優がステージ上を動き回る。スピード感がある。スマート感があるともっといい。ストーリーは小難しくなくてわかりやすい。登場人物に裏があるところなどはスパイスとなっていていい。その中で鉄司から透子への思い、透子の五条組への思い、三郎の思いがなどが表現されるが、登場人物の思いはもっと丁寧に扱われてもいいのではないかと思う。アクションのスピードとはまた違った、人の心情を扱うのに必要なスピードまで落とすことで見ている側は登場人物に感情移入できる。同じアクションでも受け取り手がその意味を膨らませて捉えられれば、作品に厚みが出るのではないだろうか。
この文章は、2018年12月1日(土)19:00開演の劇団暗黒郷の夢『Whiteout』についての劇評です。
幸福とは何か?脳が幸福を感じていればそれでいいのか、たとえ電気ショックによる刺激の結果であっても。12月1、2日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された劇団暗黒郷の夢『Whiteout』(作・演出:木林純太郎)では、日々の生活からもたらされる精神的な苦痛に耐えきれないで宗教団体に依存してしまう信者サイドの事情と、物理的に幸福感を醸成する技術を開発することによって世界征服を目論む教団幹部の野心を両面から描き、現代社会に警鐘を鳴らしていた。
女子高校生の広野さきか(北国歩美)は、交通事故によって母を亡くした悲しみをまぎらわすため、宗教団体「ウルス」に入信した。兄である警部・広野あつし(高田滉己)は彼女の所在もわからず途方に暮れていたが、上司の上出警部(田中祐吉)からさきかの消息とウルスに関する情報を提供される。その教団は、離れ小島に拠点を置いて外部からの接触をシャットアウトしており、連絡を取る手段がないという。極秘の潜入捜査を上出から依頼されたあつしは、さきかを取り戻したい一心で承諾する。
場面は教団内へ移り、お揃いの白い衣装をまとった信者たち。彼らは教祖的な存在であるマザー(奈良井伸子)が優しく語りかけるビデオを鑑賞し、幸福感に浸っている。全員で一斉に両手のひらを上下反対向きに合わせて拍手するスタイルも不気味で面白かった。特に信者のリーダー格であるシスターを演じた古林絵美は、強烈な「イっちゃってる感」を浮かべた表情が印象に残った。
潜入したあつしはさきかに会えたものの、他の信者たちに見つかり、別室で脳に電気ショックを加えられる。作品の前半では犯罪事実がない宗教団体に対してなぜ警察が動くのだろうかと不思議な気がして、作者の中に新興宗教への偏見があるのではないかと疑ってしまったが、あつしへの拷問によって宗教の形を借りたカルト集団であることが明らかになった。施術者のドクター(朱門)によれば、今後は意思の強い理性的な人間たちにも積極的な布教活動を展開したい考えで、実験台としてあつしを計画的に連れて来たという。結末では上出警部も信者として登場し、あつしの誘導に協力していたことが暗示される。
車椅子に拘束されて弱り切ったあつしは、これから反撃に移るのか、それともドクターの言いなりに洗脳されてしまうのか。いよいよドラマが佳境に入るところでプッツリと作品は終わる。しかし、人間にとって本当の幸福とは何かという作者の問題提起がしっかりと伝わって来たので、中途半端な印象は受けなかった。作中に出てくる電気ショックは野蛮に感じられるかもしれないが、今の世の中で電気的なデジタル信号に変換されて大量に撒き散らされているゲームや映像などの刺激もまた、脳に非現実なイメージを与えることで人間を慰めているのではないだろうか。演劇をはじめとするさまざまな文化も同様に擬似幸福感を作り出す装置なのかもしれず、それらなしでは生きられない人々が確かに存在する。境界線は非常に曖昧だが、ドクターの語った幸福観に対してあつしが見せた反抗心が忘れられない。彼ならどんなに苦しくても個人としてのプライドは捨てないだろうという気がして、共感を覚えたのだった。
《以下は更新前の文章です。》
幸福とは何か?脳が幸福を感じていればそれでいいのか、たとえ電気ショックによる刺激の結果であっても。12月1、2日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された劇団暗黒郷の夢『Whiteout』(作・演出:木林純太郎)では、日々の生活からもたらされる精神的な苦痛に耐えきれないで宗教団体に依存してしまう人々と物理的に幸福感を醸成する技術を開発することによって世界制覇を目論む教団幹部を両面から描き、現代社会に警鐘を鳴らしていた。
女子高校生の広野さきか(北国歩美)は、交通事故によって母を亡くした悲しみをまぎらわすため、宗教団体「ウルス」に入信した。兄である警部・広野あつし(高田滉己)はさきかを取り戻したいが、離れ孤島に拠点を置くウルスは外部からの接触をシャットアウトしており、連絡を取る手段がなかった。そうした情報を提供してくれた上司の上出警部(田中祐吉)から極秘の潜入捜査を依頼され、あつしは承諾するのだった。
教団内では信者たちはお揃いの白い衣装をまとい、教祖的な存在であるマザー(奈良井伸子)が優しく語りかけるビデオを鑑賞しながら幸福感に浸っている。潜入したあつしはさきかに会えたものの、他の信者たちに見つかり、別室で脳に電気ショックを加えられる。施術者であるドクター(朱門)の口から、今後は意思の強い理性的な人間たちにも積極的な布教活動を展開するため、実験台としてあつしを計画的に連れて来たことが語られる。実は上出警部自身が信者であり、教団の策略に協力していたのだった。
信者たちがビデオを見るシーンでは、リーダー格であるシスター(古林絵美)のうっとりとした表情が強烈な「イっちゃってる感」を醸し出していて印象に残った。また、両手のひらを上下反対向きに合わせて拍手するスタイルも不気味で面白かった。最初は犯罪の証拠もない宗教団体に対してなぜ警察が動くのだろうかと不思議な気がして、作者の中に新興宗教への偏見があるのではないかと疑ってしまった。やがて、拘束されたあつしに電気ショックが加えられ、宗教の形を借りたカルト集団であるという教団の実像が明らかになっていく。
車椅子に拘束されて弱り切ったあつしは、これから反撃に移るのか、それともドクターの言いなりに洗脳されてしまうのか。いよいよドラマが佳境に入るところでプッツリと作品は終わる。しかし、人間にとって本当の幸福とは何かという作者の問題提起がしっかりと伝わって来たので、中途半端な印象は受けなかった。作中に出てくる電気ショックは野蛮に感じられるかもしれないが、今の世の中で電気的なデジタル信号に変換されて大量に撒き散らされているゲームや映像などの刺激もまた、脳に非現実なイメージを与えることで人間を慰めているのではないだろうか。演劇をはじめとするさまざまな文化も同様に擬似幸福感を作り出す装置なのかもしれず、それらなしでは生きられない人々が確かに存在する。境界線は非常に曖昧だが、あつしが最後に見せたにがり切ったような表情が忘れられない。彼ならどんなに苦しくても個人としてのプライドは捨てないだろうという気がして、共感を覚えたのだった。
幸福とは何か?脳が幸福を感じていればそれでいいのか、たとえ電気ショックによる刺激の結果であっても。12月1、2日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された劇団暗黒郷の夢『Whiteout』(作・演出:木林純太郎)では、日々の生活からもたらされる精神的な苦痛に耐えきれないで宗教団体に依存してしまう信者サイドの事情と、物理的に幸福感を醸成する技術を開発することによって世界征服を目論む教団幹部の野心を両面から描き、現代社会に警鐘を鳴らしていた。
女子高校生の広野さきか(北国歩美)は、交通事故によって母を亡くした悲しみをまぎらわすため、宗教団体「ウルス」に入信した。兄である警部・広野あつし(高田滉己)は彼女の所在もわからず途方に暮れていたが、上司の上出警部(田中祐吉)からさきかの消息とウルスに関する情報を提供される。その教団は、離れ小島に拠点を置いて外部からの接触をシャットアウトしており、連絡を取る手段がないという。極秘の潜入捜査を上出から依頼されたあつしは、さきかを取り戻したい一心で承諾する。
場面は教団内へ移り、お揃いの白い衣装をまとった信者たち。彼らは教祖的な存在であるマザー(奈良井伸子)が優しく語りかけるビデオを鑑賞し、幸福感に浸っている。全員で一斉に両手のひらを上下反対向きに合わせて拍手するスタイルも不気味で面白かった。特に信者のリーダー格であるシスターを演じた古林絵美は、強烈な「イっちゃってる感」を浮かべた表情が印象に残った。
潜入したあつしはさきかに会えたものの、他の信者たちに見つかり、別室で脳に電気ショックを加えられる。作品の前半では犯罪事実がない宗教団体に対してなぜ警察が動くのだろうかと不思議な気がして、作者の中に新興宗教への偏見があるのではないかと疑ってしまったが、あつしへの拷問によって宗教の形を借りたカルト集団であることが明らかになった。施術者のドクター(朱門)によれば、今後は意思の強い理性的な人間たちにも積極的な布教活動を展開したい考えで、実験台としてあつしを計画的に連れて来たという。結末では上出警部も信者として登場し、あつしの誘導に協力していたことが暗示される。
車椅子に拘束されて弱り切ったあつしは、これから反撃に移るのか、それともドクターの言いなりに洗脳されてしまうのか。いよいよドラマが佳境に入るところでプッツリと作品は終わる。しかし、人間にとって本当の幸福とは何かという作者の問題提起がしっかりと伝わって来たので、中途半端な印象は受けなかった。作中に出てくる電気ショックは野蛮に感じられるかもしれないが、今の世の中で電気的なデジタル信号に変換されて大量に撒き散らされているゲームや映像などの刺激もまた、脳に非現実なイメージを与えることで人間を慰めているのではないだろうか。演劇をはじめとするさまざまな文化も同様に擬似幸福感を作り出す装置なのかもしれず、それらなしでは生きられない人々が確かに存在する。境界線は非常に曖昧だが、ドクターの語った幸福観に対してあつしが見せた反抗心が忘れられない。彼ならどんなに苦しくても個人としてのプライドは捨てないだろうという気がして、共感を覚えたのだった。
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幸福とは何か?脳が幸福を感じていればそれでいいのか、たとえ電気ショックによる刺激の結果であっても。12月1、2日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で上演された劇団暗黒郷の夢『Whiteout』(作・演出:木林純太郎)では、日々の生活からもたらされる精神的な苦痛に耐えきれないで宗教団体に依存してしまう人々と物理的に幸福感を醸成する技術を開発することによって世界制覇を目論む教団幹部を両面から描き、現代社会に警鐘を鳴らしていた。
女子高校生の広野さきか(北国歩美)は、交通事故によって母を亡くした悲しみをまぎらわすため、宗教団体「ウルス」に入信した。兄である警部・広野あつし(高田滉己)はさきかを取り戻したいが、離れ孤島に拠点を置くウルスは外部からの接触をシャットアウトしており、連絡を取る手段がなかった。そうした情報を提供してくれた上司の上出警部(田中祐吉)から極秘の潜入捜査を依頼され、あつしは承諾するのだった。
教団内では信者たちはお揃いの白い衣装をまとい、教祖的な存在であるマザー(奈良井伸子)が優しく語りかけるビデオを鑑賞しながら幸福感に浸っている。潜入したあつしはさきかに会えたものの、他の信者たちに見つかり、別室で脳に電気ショックを加えられる。施術者であるドクター(朱門)の口から、今後は意思の強い理性的な人間たちにも積極的な布教活動を展開するため、実験台としてあつしを計画的に連れて来たことが語られる。実は上出警部自身が信者であり、教団の策略に協力していたのだった。
信者たちがビデオを見るシーンでは、リーダー格であるシスター(古林絵美)のうっとりとした表情が強烈な「イっちゃってる感」を醸し出していて印象に残った。また、両手のひらを上下反対向きに合わせて拍手するスタイルも不気味で面白かった。最初は犯罪の証拠もない宗教団体に対してなぜ警察が動くのだろうかと不思議な気がして、作者の中に新興宗教への偏見があるのではないかと疑ってしまった。やがて、拘束されたあつしに電気ショックが加えられ、宗教の形を借りたカルト集団であるという教団の実像が明らかになっていく。
車椅子に拘束されて弱り切ったあつしは、これから反撃に移るのか、それともドクターの言いなりに洗脳されてしまうのか。いよいよドラマが佳境に入るところでプッツリと作品は終わる。しかし、人間にとって本当の幸福とは何かという作者の問題提起がしっかりと伝わって来たので、中途半端な印象は受けなかった。作中に出てくる電気ショックは野蛮に感じられるかもしれないが、今の世の中で電気的なデジタル信号に変換されて大量に撒き散らされているゲームや映像などの刺激もまた、脳に非現実なイメージを与えることで人間を慰めているのではないだろうか。演劇をはじめとするさまざまな文化も同様に擬似幸福感を作り出す装置なのかもしれず、それらなしでは生きられない人々が確かに存在する。境界線は非常に曖昧だが、あつしが最後に見せたにがり切ったような表情が忘れられない。彼ならどんなに苦しくても個人としてのプライドは捨てないだろうという気がして、共感を覚えたのだった。