さる6月28日に美輪明宏さんがご逝去されました。しばらくはテレビで追悼特集をやっていましたが、その一つ映画『黒蜥蜴』1968年を見ました。美貌の女賊と明智小五郎の対決を描いたもので、改めて美輪さんの美しさと妖しさと迫力に圧倒されました。生前は数々の著名人に愛され(男色を含めて)、その一人が文豪・三島由紀夫であったことは有名です。この映画も、原作(江戸川乱歩)を美輪さんのために戯曲化したのが三島氏で、なおかつチョイ役でも出演されています。
というわけで、今回は同氏のSF小説『美しい星』をご紹介します。
1962年に執筆され、新潮社から発刊。今も重版されているので、根強い人気があるようです。
三島氏のキャラクターが強烈すぎて近寄りがたく思われ、『金閣寺』以外の作品を読んだことがほとんどありませんでした。そんな中で知人から譲られたのが、この作品。タイトルから「少しは読みやすい内容かも」と思ったら、実際はもっと読みやすく、しかもおもしろかった。いつかこのブログでご紹介しようと思っていた1冊です。
埼玉県飯能市に住む両親・20代の娘と息子の家族が、ある日「自分たちは、別々の星からやってきた宇宙人だ」と気づきます。
時は米ソの冷戦真っただ中。一家は核戦争をやめさせるべく、さまざまな活動を行います。
そんな中で浮かび上がってくるのは、世間に溶け込めない家族の姿です。先代までは相当の資産家だったことと、容姿が美しいために、周囲から「気取っている」と思われてしまう。
人間、時にはバカ話をしたり、失敗話で笑い合うことも必要ですが、この一家はどうもそういうことが苦手なようです。その上「自分は宇宙人」とか「地球を救う使命がある」と信じているので、よけい浮いてしまう。
やがて父は末期のガンが見つかり、息子は「天職」と信じた政治家秘書をクビになり、娘は「自分もキミと同じ金星人だ」と名乗る男に騙されて妊娠。母は働いたことがないので、一家の生活手段がない。
という完全に「詰み」の状態になります。
やがて父は「空飛ぶ円盤が迎えに行く」という啓示を受けて、一家で地球を去る決意をします。
半信半疑でお告げの場所へ向かうと、果たして円盤が待っていた・・・というシーンで物語は幕を閉じます。
読んで一番思ったのは、以前書いた記事にも関連していますが、「プライドを捨てて、俗世で生きようとしない」者の哀れさです。
「宇宙人」を「そこらへんの人間とはちがう」という意味に置き換えるとわかります。生きるためには、なりふり構わず汗水たらさなければいけない時もある。例えばこの一家なら、お母さんと息子は今日からでも働く、娘は妊娠を隠さず、子どもが生まれてもできることを探す。
でもそれができない。
どこに行っても周囲となじめず、仕事も長続きしない。「どうして自分はこうなのか」「自分の居場所はないのか」と思ったことのある人は少なくないでしょう。「自分は宇宙人だから」と原因がわかり、「円盤で脱出させてもらえる」一家は、ずいぶんと幸福です。
奇想天外な異色小説というより、「生きづらさを抱える人々」についても考えさせられる作品です。
次回はたぶん8月、久々に旅行記録をご紹介する予定です。




