![]() | 月刊 アフタヌーン 2015年 03月号 [雑誌] |
講談社 |
「月刊アフタヌーン」3月号で弐瓶勉さんの『シドニアの騎士』第70話『二零式の出撃』を読みました!
『シドニアの騎士』、間もなく(と言っても四月ですが)アニメの第2期「シドニアの騎士 第九惑星戦役」が始まりますね。それにくわえて、3月6日からは劇場版が公開され、また4月の末には早くもアニメ二期のBDが発売になります。今回もポリゴンピクチュアズの制作は順調のようで、すでに先行上映もされていますし、完成度はかなり高いのだろうなとワクワクします。また単行本第15巻も2月23日発売ということで、また楽しみが増えました。
以下、第70話の感想になります。物語の解釈および感想をわかりやすく書くためにネタバレに言及していますので、ご注意ください。
原作も大詰め。前回は岐神の復帰がメインでしたが、シドニアと大シュガフ船、それに融合個体・かなたを乗っ取ってシドニアから離脱した科学者落合の三つどもえの戦いが続く中、第2攻撃艦隊が突如出現したシュガフ船にやられ、消息不明。さらに第1攻撃艦隊にかなたが迫る中、さらに大規模なシュガフ船団が第1攻撃艦隊の目前に現れ、ようやくぎりぎり完成にこぎ着けそうな二零式衛人に搭乗した谷風長道がそちらへ向かおうというところ、シドニアの周囲にもシュガフ船団が現れた、という絶体絶命のピンチの状態で前回は終わりました。
今回の扉は、「第三衛人格納庫外部階段」そこにたたずんでいるのは岐神と、第1巻で戦死し、ガウナにその姿を乗っ取られた山野栄子の弟・山野稲汰郎でしょうか。
アオリは、「それぞれに時を重ね、思いを果たすときが来た。」今回を読むと、その意味がしみじみと分かりました。
ページをめくると、シドニアの司令室。小林艦長が戦況を見ています。シドニアに接近中のシュガフ船は最終防衛線に接近、後2時間。第一攻撃艦隊(艦長は緑川纈(ゆはた))の方も2時間でシュガフ船と接触する、という状況です。落合=かなたの方は1日、ないしは1時間で第一艦隊に到達する、という予想でしたから多方面から同時攻撃を受けているという状況です。
二零式は足が速い、のですが、さすがに両方の事態に対応するのは無理だ、と技術主任の佐々木がいいます。科戸瀬イザナと市ヶ谷テルルのいる観測艦隊からは第一攻撃艦隊の援護の許可を求めてきますが、小林艦長はあくまで大シュガフ船を破壊することを優先し、「航路変更は許さん」と言います。
艦長は思います。「シドニア防衛を優先し、態勢を立て直すか、第一攻撃艦隊に未来を託すか」、と。
それはどういう意味でしょうか。シドニア防衛を優先するということは、当たり前のように思えます。母船のシドニアを守るということが、何より優先であることは確かでしょう。しかし、第一攻撃艦隊に未来を託す、ということは、たとえシドニアがやられても第一攻撃艦隊が生き残ればまだ人類の希望はつなげる、と考えているということでしょうか。これはちょっと驚きました。
艦長は決断します。ガウナを迎え撃つと。艦砲射撃を行い、守備隊を展開する。しかし、谷風の搭乗する二零(ニーゼロ)式はレム方面(第一攻撃艦隊の方、ということでしょう)に出撃させる、と。
!
仮面の下の艦長は思います。
「ごめんねみんな…出来れば一人も死なせたくなかった…」
これはどういうことなのでしょうか。第一攻撃艦隊を生き残らせることを優先した、ということなのでしょうか。さらに驚きました。
谷風は思います。今すぐつむぎのところへ行ってやりたい、それに第一攻撃艦隊も援護が必要だ。しかし今シドニアを離れるわけには…と。
つむぎのところへ行く。つむぎは第二攻撃艦隊とともに消息不明になっていて、前々回にはバラバラになった身体の一部が宇宙空間を漂う描写がありました。
それと第一攻撃艦隊を並列的に言っているということは、『レム方面』というのがその両方を指しているということでしょうか。もし、第二攻撃艦隊に生き残りがいたら、つむぎも含めてですが、戦力になる可能性はあるわけですしね。
谷風は二零式も守備に加わり、シュガフ船団を撃退してからレムに向かえばいい、と艦長に進言しますが、艦長はそれを拒否し、大シュガフ船を破壊するためにいますぐレムに向かえ、と言います。
押し問答をしている時、そこに岐神が現れます。「俺に継衛改二を使わせて下さい!」と。
!!
!!!
なるほど!その手があったか!
誰でも乗れる機体じゃない、という佐々木に、岐神は継衛での仮象訓練の記録を見せ、その好成績に佐々木も納得します。「いいわ…大至急継衛改二の用意をして!」
岐神と対峙する谷風。このページは、ほんとうにかっこいいです。岐神は言います。「行け。シドニアは俺に任せろ」
!!
!!!
かっこいい!
谷風も微笑み、力強く「ああ!」と答えます。
ここはいいですね。「それぞれの思い」というのは、岐神にとっては「継衛に乗ってシドニアを守ること」だったのですね。ついにそれが実現する。そしてそれがわかっているのでしょう、谷風も岐神に全幅の信頼を置いた表情で「ああ!」とこたえます。このやり取りは痺れます。
岐神というのは、どちらかと言うといじめっ子役の、イヤな奴として描かれていたのですが、岐神が星白を乗っ取ったガウナ(紅天蛾など)の出現にショックを受けて操縦士をやめたとき、谷風が岐神を訪ね、いつかともに戦おう、と言いに行った場面、あれはただ谷風の思いが伝わらないまま、中途半端になっていることだと思っていたのですが、ここに来てようやく明確につながりました。
そこにヒ山が現れ、谷風におにぎりを渡し、「落合を止められるのはあなたしかいないわ。みんなをよろしくね」と言います。みんなをよろしく、とは第一艦隊や観測艦隊の「みんな」なのか。ヒ山の思いも、艦長と同じなのでしょうか。
それにしても、落合を「止める」。倒す、のではなく。ちょっとそこに引っかかりを覚えます。
搭乗する時、岐神は谷風に言います。「乗っ取られていた時、何も覚えていないが、少しだけ落合の思考がわかる気がする。奴は…」言いかけたことは轟音にかき消され、読者にはわかりませんが、「何かの役に立つかもしれない。覚えておいてくれ」と岐神は言います。
これは大きな伏線であることだけはわかりますが、どんなことなんでしょうか。
それにしても、艦長も、ヒ山も、岐神も、谷風のメインの相手は科学者落合だ、と認識しているようです。確かにシュガフ船やガウナは人間の思考の通じない相手(星白は可能性を感じていましたが)ですから、主な敵は落合と考えるしかない、かな、という気はしますが、その辺いろいろとありそうな感じですね。
谷風の搭乗するピカピカの機体には「劫衛」と書いてあります。この機体、二零式は「恒星の中でも大丈夫」と言われた新素材で作られています。かなたを構成する超構造体ほどではないので理論上最強の兵器・重力子放射線射出装置には対応出来ませんが、その他のたいていのことには対応出来る、のだと思います。
岐神は継衛改二に搭乗。他の操縦士たちは「岐神に自動化されていない継衛が操縦出来るのか?」と危ぶんでいます。その中には、山野の弟・山野稲汰郎もいます。
山野の子供時代の回想。姉の栄子がガウナに捕食され、その身体をコピーされて谷風に立ち向かってきた。そのことが一般市民にも伝わったのでしょうか。「お前の姉ちゃんが~う~な」といじめられています。ガウナの模写した姉。そして優しかった生きていた頃の姉。岐神班の一員として掌位してシュガフ船に立ち向かって行く山野は、「やっと仇が取れるよ姉ちゃん」と言います。それが、山野弟の、「果たすべき思い」だったのですね。
山野栄子のエピソードはやはり唐突に投げかけられただけで終わっていて、「郷土の誇り」みたいにいわれてガリ勉タイプの優等生だった山野は、「特別扱い」されている谷風やイザナにつんけんしていたのですが、そんな山野が真っ先にやられる、というのはある種の理不尽さがありました。もともとガウナという存在は理不尽そのもののわけですが、その中途半端であるが故に印象的だったエピソードがここで拾われて、全体のストーリーの中に回収されて行く。ほんとうに物語は終盤なんだなと思います。
そして、皆の期待を担って谷風の二零式が発信します。艦長、科戸瀬ユレ博士、クローン落合、ヒ山。無茶をするな、という佐々木も、いつものコワモテというよりも、今生の別のような悲壮感さえあります。
「つむぎ・・・」とつぶやく谷風。
そしてラストのページ、初めて明かされた二零式「劫衛(ユキモリ)」の全体像。胸があばらのような形になっています。そして全体がピカピカ。これはぜひカラーで見たいですね。
ニックネームがつけられた機体はこの「シドニアの騎士」の中でも決して多くありません。「継衛(ツグモリ)」は守り継ぐもの、という意味ですから、斎藤ヒロキから谷風への受け渡されたシドニア防衛の意志、という感じですけれども、「劫衛(ユキモリ)」は、未来永劫に人類を守る、という意味でしょうか。谷風自身は、様々な遺伝子操作を行われて生まれついての不死なわけですから、その相棒として決して壊れることのない機体が与えられた、ということなのでしょうか。
いろいろと思いが浮かんできます。もちろん先を読むことによってしか、ほんとうのことはわからないわけですけれど。
今月も余韻を持ってのラストでした。来月を楽しみに待ちたいと思います。