今月の硬筆課題の「腰骨を立てる」というのはどういうことなのか。
まず、日本人の足腰について深堀ります。
今は椅子に座ることが普通ですが、昔は日本人は地べたに近いところで生活をしていました。便所、洗濯、風呂の焚きつけなど、しゃがんだ姿勢で行うものばかり。かつては普通にできていた所作が現代人はできなくなっています。それは経験的な足腰がなくなっているから。
「腰」といわれて「腰椎」や「くびれ」のあたりを思い浮かべた人は西洋の身体観で観ています。「肚」も「腹筋のあたり」ではありません。丹田、もっといえば、足裏が土に接するところまでとなります。
では「腕」といえば、肩のあたりまで、となるところですが、文化的な感覚経験では、着物の袖から出ている部分(肘から手首の間)となります。
というように、経験的な身体観が昔とはまったく違ってきているということ。
正座にしても、椅子がなかったころは足は痺れなかったといいます。一昔前は電車の座席におばあさんが正座をしていたりということが普通にあったようです。なぜ正座をするのかといえば楽だからです。現代の40代より下の世代は正座がきついという感覚がありますよね。三味線などの正座が必須の習い事は、正座を強要すると生徒が集まらないため、椅子を使うこともよしとするのだとか。
「足腰がある」というのは、どんな姿勢でも足先まで気持ちが行きわたっている状態で、それなら痺れは切れません。しかしながら私たちは、一番物事が身に付く時期に1日の大半を椅子に座って、手と頭だけを使って足腰を弱くする練習を小学校からずっとやっているわけです。結果、日本人から「足腰がなくなった」のです。一か所に座り続けることは、学校制度が導入されるまでほとんどありませんでしたからね。
日本人の身体観が変わり始めた起点は明治以降。「気をつけ」の姿勢で膝を伸ばし、背筋を立てることが本来の姿勢と思っている日本人は多いですが、幕末の写真を見るとわかりますが、武士や農民は猫背気味で膝は伸ばしていませんでした。
高度経済成長期に多くの人が家の建て替えで和室をなくし、椅子に座る暮らしをするようになるとその変化は身体観にかなり大きな影響を与えることになりました。古い時代から椅子はありましたが、背もたれがないのがほとんどでした。それは、椅子は身をもたせかけるためではなく、少しの間、腰かけるために利用するもので、座面に深く座り背をもたせかけると、足腰が用をなさなくなってしまうからです。
座るというのは、しゃがむ途中の恰好なのです。
足腰に気を向けながらゆっくり立ち、しゃがんでみる(スクワットではなく)と、中腰あたりできつく感じます。この時に足腰が発生している状態です。この時のきつさは身体の硬さや筋力の問題ではありません。正座で痺れが切れるときも足腰が発生している状態で、この「きつさ」や「痺れ」が身体からの「足腰がある」という訴えということ。この訴えを聴けないのは、理解するだけの素地を見失いつつあるから。
では足腰がなくなると、心はどう影響を受けるのか。
正座、蹲踞、踵をつけてしゃがむことができない人が増え、足腰の感覚経験がなくなると同時に「腰抜け」や「へっぴり腰」という言葉を使うこともなくなり、身体から「腰」が抜け、腰が抜けると「力(根本的な自信)」が入らなくなる。腰を入れて二足で立ったり座ったりするという基礎的なことが実は自信につながることを実感できなくなった現代人は、他人の意見や評価の中でしか生きることができなくなってしまっているという。
あと、小学校では鉄棒にぶら下がれない子が増えているようで。昭和末期から平成生まれの多くの子たちは、「根性」「気合い」といった、力を入れる感覚が身体とつながっているということを実感できなくなっているため、機能としては問題なくても、手に力がうまく入らないのだそう。
別の問題ですが10年前に、筆圧が弱くなっている小学生のことを書いていたのを思い出しました。
腰の重要性がなんとなく理解できたところで、冒頭の森先生が提唱されていた、四六時中根性で腰を立てとけっていう立腰教育。
森先生は、人は「心身相即」の生き物だから、心を立てようと思ったらまず体を立てなければならないと説かれました。
心を整えるならまず身から
立腰教育の詳細はこちらの論文がおすすめ。
https://www.seiryo-u.ac.jp/u/research/gakkai/ronbunlib/j_ronsyu_pdf/no47/06_honda_47.pdf
この教育、
”年齢的には心の柔軟な低年齢の頃から始めるのに越したことはない。年齢が上がると知識が増え、精神的成長とともに頭で考えるようになる。年齢が上がるほど論理的に納得できなければ、「立腰」がいかに大きな意味と効果をもっていても、受け入れにくくなる。”
ので、幼少期からでも始めたほうがいいみたいですね。
あと正座教育も忘れずに。