われわれの仕事である「土木工事」が日本の歴史にどう関わってきたかということはほとんど知られていない。
だが、人間が自分たちの生活をする場所を作ろうと土を掘り木を切って組んで竪穴式住居を作った時から、土木工事のような作業は必ず行われてきたのだ。
稲作が広まるには、田んぼを作ったり高床式倉庫を作ったりしなければならなかった。
歴史が一歩前進する時に、土木工事が必ず関わってくるのだ。
戦国時代も、江戸時代も、そして明治以降の歴史も、土木工事が必ず表裏一体となっている。
しかも災害大国であるので、完成したのちも崩壊と建設を繰り返してきたのだ。
長く業界にいながら、私もようやく最近そのことを実感し始めている。
その「土木史」を以前から深く学ばれ、いろいろな手法で発信されてきたのが懇意にしている緒方英樹さんである。
以下は、前に紹介した緒方さんのされてきた仕事。
アニメ映画「パッテンライ」
土木偉人かるた
その緒方さんが新たな本を出版されて早速読んだ。
土木史の集大成的な本で、まさに日本の歴史を土木工事の側面から丁寧に説明された本である。
多少認識のあった私も驚くほど知らなかった過去を教わった内容であった。
断片的ではあるが、こんな言葉に認識を新たにした。
彼ら僧侶たちは、日本初の土木技術者であり、民衆のために尽くす事業は、人々の命と暮らしを守り整える「福祉」に通じるという意味において、土木の原点とも言えるだろう。
武田信玄のみならず強い武将の配下には、必ず「土木」に通じた技術者や職人集団がいた。それは豊臣秀吉、徳川家康しかりである。
戦国武将にとって、治水や築城といった土木技術に長けることが戦国バトルに勝ち抜く大きな要素であり、領土の内政を確立し、経済基盤を持つことが戦国時代の覇者になれる必須条件であった。
加藤清正にしても、合戦で多くの手柄を立てた功ばかりが目立つが、土木技術者としての天才的な手腕を発揮するのは関ヶ原の合戦以降のことである。つまりは、戦国乱世が落ち着き、軍事力を治水などの大土木工事に注ぎ込めるようになってからだ。そうした各地域の領主は優秀な土木技術者グループを抱え、地域づくりだけでなく災害対策にも力を発揮した。
などなど、などなど。
あまりにも知らなかったことだらけで、結果こんなにも付箋を貼ることになった。
自分たちの仕事としての土木工事と、そしてこれまで認識していた日本史とを、併せて紐解いていくとこんなにも違った側面が見えることに私はかなり驚いた。
本好きで年に100冊くらい読んでいる私であるが、そういう意味でも今までにない発見をしたのがこの本である。
先般読んだ本にあった「環境としての母親」という考え方に私が共感を覚えたばかりだが
インフラの存在は、まさに「環境としての母親」なのだと考えている。
本著は、日本の歴史をずっと支えてきた「環境としての母親」たる土木技術の意義を深く理解、認識出来る、すばらしい内容だと断言したい。
土木関係者、そして普段土木の仕事にまったく興味のない方にも広く読んでいただきたいものだ。
購入はこちら。