脳静脈・静脈洞洞血栓症(CVT)

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脳静脈・静脈洞洞血栓症(CVT)は脳の静脈あるいは静脈洞が閉塞して静脈還流障害がおこり、頭痛、痙攣、意識障害などの症状が、急性あるいは亜急性に発症する疾患である・全脳卒中の1%未満であるが決して稀な疾患ではない。症状は多彩であるが頭痛(90%)、痙攣(40%)、意識障害(60%)が急性ないし、亜急性に認められた場合はCVTを鑑別する必要がある。

50歳未満の女性や子供に多いとされる。妊娠、産褥、悪性疾患静脈洞に隣接する乳突蜂巣副鼻腔の感染、細菌性髄膜炎などから波及する場合、凝固亢進状態など多彩な病態を基礎に発症する。Dダイマーが正常値であればCVTの可能性は低い。SWIを含むMRIで血栓化した静脈または静脈洞を確認し、MRVでそれと同じ静脈が描出されないことを証明するのがgold standardである。大規模な臨床研究で有効性を検討したものはないが急性期はヘパリンの持続点滴で治療されることが多い。早期に診断して治療ができれば予後は比較的良好である。原因疾患があればそれの治療、痙攣、脳浮腫に対する治療も併用する。再発予防は3ヶ月〜12ヶ月のワーファリンと原因疾患の治療である。

脳アミロイドアンギオパチー(CAA)

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詳細は「脳アミロイドアンギオパチー」を参照

脳血管にアミロイドが沈着することで血管壁が脆弱化したり、内腔の狭窄、閉塞が生じ、その結果脳出血や脳梗塞が生じる。Boston criteriaで診断される。

線維筋性形成異常症(FMD)

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若年性脳梗塞の原因のひとつとして欧米では多数報告されているが日本では稀である。

遺残原始血管

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血管の奇形によって動脈硬化が進行する場合がある。

CADASILとCARASIL

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CADASILを疑う場合の臨床的特徴は、40〜50歳と比較的若年発症、脳卒中のリスクファクターを有さない、ラクナ梗塞発作を繰り返し、次第に進行して仮性球麻痺や認知症症状を呈する、家族に類似症状を認める(常染色体優性遺伝形式)ことである。常染色体優性遺伝形式をとる若年性脳梗塞を試た場合、特に小血管病変の場合はCADASILを疑う。CADASILには病気としては3期知られている。第1期は前兆を伴う片頭痛とMRIにて境界鮮明な深部白質病変が認められる。第2期ではTIAや脳梗塞を生じたり、うつなどの精神症状が出現しMRIで深部白質の癒合性病変、ラクナ梗塞巣をみる。第3期では認知症や仮性球麻痺、MRIではびまん性深部白質病変のように進行していく。CADASILの診断基準ではDavousらのものが知られている。病理学的には脳実質小動脈の中膜筋層の変性、消失と外膜の線維性肥厚および血管壁の非アミロイド性の好酸性PAS陽性顆粒沈着で確認される。確定診断では遺伝子解析でNotch3変異(特にhot spot exon3、4)を確認するか皮膚、筋生検でNotch3細胞外ドメインに対する抗体を用いた免疫染色でGOM(granular osminophilic material)を確認することが必要である。重要な類似疾患にCARASILがある。高血圧を伴わず細動脈硬化によって生じる白質脳症であり常染色体劣性遺伝を示す疾患である。白質脳症と30歳代から進行する認知症はCARASILと類似するが、反復性の腰痛や変形性脊椎症、禿頭はCARASILに特徴的な所見である。HTRA1遺伝子の機能喪失から生じるTGFβファミリーシグナル伝達系の抑制不全が細動脈硬化に関与している。病理学的には血管内皮の増殖が著明であり、中膜のTGFβ1の発現の増加とともに内膜では細胞外マトリックスの発現増加がみられる。有効な治療法はみつかっておらず、抗血栓薬が用いられるが有効性は確認されていない。

血管炎によるもの

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血管炎としては抗リン脂質抗体症候群全身性エリテマトーデスによるものが若年性脳梗塞の原因として有名である。

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群(APS)は原発性抗リン脂質抗体症候群と全身性エリテマトーデスなどに合併する続発性抗リン脂質抗体症候群が知られている。全身の血管に血栓が形成されるが動脈にも静脈にも血栓形成が起こりうるのが本疾患の特徴と考えられている。抗リン脂質抗体症候群は日本に4万人程度いると推測され、発症年齢の30~40歳前後である。約半数は全身性エリテマトーデスに続発すると考えられている。動脈系血栓の約90%が脳血管においておこるとされている。抗リン脂質抗体陽性例のうち、血栓症を合併するものは20〜30%とされており大部分の症例では血栓症は生じない。しかし、一度発症した症例のうち、半数以上で繰り返し血栓症を起こすことが知られている。一般検査においては、血小板減少(40〜50%)、APTT延長、梅毒血栓反応生物学的偽陽性などの所見、既往に習慣性流産、血栓症の既往があれば、抗リン脂質抗体症候群を疑う。これらの所見がなくとも若年者での脳梗塞やリスクファクターが少ない症例で疑う。

抗リン脂質抗体症候群(APS)の分類基準としては2006年の改訂札幌・シドニー基準がよく知られている。血栓症が認められるため12週間以上の間隔でループスアンチコアグラントか抗リン脂質抗体が陽性ならば分類基準を満たす[8]。抗リン脂質抗体症候群と関連が深い神経症状は血管症状としての脳梗塞やTIAであり、抗リン脂質抗体症候群患者の13.2%で虚血性脳卒中が認められる[9]。日本人では無症候性脳梗塞を含めると抗リン脂質抗体症候群の脳梗塞発症率は61%と高く、代表的な中枢神経病態である[10]。逆に脳梗塞患者における抗リン脂質抗体陽性率は13.5%程度である[11]

抗リン脂質抗体症候群の脳梗塞に対してはステロイドや免疫抑制剤は使用せず抗血栓薬を用いる。抗リン脂質抗体症候群では血栓症再発率が高く、抗血栓療法を行っているのにも関わらず1年間に7%の患者で再発が見られるため二次予防が重要である[12]。脳卒中治療ガイドライン2021では抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞再発予防には第一選択としてワーファリンを考慮してよいと記載されている。しかし推奨度Cでありエビデンスレベルは高くない。膠原病医の見解や診療の慣例と一致していない。また脳卒中診療ガイドラインではDOACに関してワルファリンと比較して脳梗塞再発を抑制できない可能性があり使用を勧められないと記載されている。

確かに抗リン脂質抗体症候群患者における動脈血栓症の適切な管理について専門家間でのコンセンサスは乏しく、エビデンスも十分ではない[13]。高齢者の再発性脳梗塞で抗リン脂質抗体陽性者ではPT-INR2.0前後の低用量ワルファリンとアスピリンで効果に差がないという報告がある[14]。抗リン脂質抗体症候群患者の動脈血栓症ではPT-INR 2.0-3.0の通常量ワルファリンとアスピリンの併用療法を第一選択とし、高齢者にはアスピリン単剤という意見もある[15]。適切な治療においても再発を繰り返す場合はワルファリンをヘパリンへ変更する[16]。あるいは抗血小板2剤併用療法という意見もある。とくに北海道大学からの報告ではワーファリンよりも抗血小板薬2剤併用の方が再発率が低かった[17]

原発性脳血管炎(PACNS)

原発性脳血管炎(PACNS)は中枢神経(CNS)に限局した血管炎であり、主に脳や脊髄の軟膜および脳実質内の長径200〜300μmの細動脈から中動脈レベルの血管が障害される。原因ははっきりとはしておらず、マイコプラズマ水痘帯状疱疹ウイルスなどの感染を契機に血管炎を引き起こす例や血管にアミロイド沈着などが認められ複数の原因の関与が示唆されている。症状の進行は一般的に亜急性の経過を辿ることが多いが、痙攣などで急性に発症する例や頭痛が持続する慢性の経過を辿ることもある。臨床症状としては認知機能低下83%、頭痛56%、痙攣や発熱30%、脳梗塞14%、脳出血12%の順に多く脊髄血管も障害された場合はそれに応じた症状が出現する。40〜60歳発症が多く、男女差はない。診断のゴールドスタンダードはカテーテルによる脳血管造影、脳生検(軟膜や脳皮質の小血管炎)などである。全身性炎症反応は乏しいが髄液検査では何らかの異常が認められる。MRIでは血管炎に船尾なって単発、または多発の白質、灰白質の脳梗塞巣や出血巣が確認され、腫瘍状にみえることもある。また小血管炎の結果、白質病変が認められる。血管造影では小動脈の拡張、狭窄を示しビーズ状と称される。その他周辺の血管やそこからはずれた血管も不揃いで閉塞や途絶が認められる。治療は結節性多発動脈炎の治療に準じて、ステロイドとシクロホスファミドの併用療法などが行われることがある。

高安動脈炎(大動脈炎症候群)

高安動脈炎(旧称:大動脈炎症候群)は大動脈およびその基幹動脈、冠動脈、肺動脈に生じる大血管炎である。若年女性の微熱、めまい、炎症反応高値、血管雑音などが特徴とされている。本疾患に特異的な血液、生化学検査はなく、CRPや血沈、白血球数、ガンマグロブリン、貧血の有無から高安動脈炎の活動性の評価を行い、並行して易血栓性の検討の評価を行う。治ちょうはステロイドであり、臓器梗塞予防のために抗血小板薬を用いることもある。

神経ベーチェット病

神経ベーチェット病はベーチェット病の約10〜20%に認められる。約2〜5倍男性に多い。20〜40歳が好発である。神経症状は発症後3〜6年後に出現する(ベーチェット病診断後)ことが多いが、神経症状が初発となる場合もある。神経ベーチェット病の分類は実質性病変(脳幹、大脳、脊髄病変)80%と非実質性病変(血管病変、動脈瘤など)20%に分かれ、実質性病変はさらに急性型、慢性型に分かれる。急性型は髄膜炎症状+局所症状を示し、ステロイド反応性良好である。慢性型は急性型の経過の後に神経障害、精神症状が進行する。脳幹、大脳、小脳の委縮を伴い、髄液IL-6>20pg/ml(SLEなどでも上昇する)などが特徴的な検査所見となる。ステロイド抵抗性でありMTX少量パルス療法が(7.5〜15mg/week)が有効とされている。眼ベーチェット病と用いられるシクロスポリンは神経ベーチェット病を増悪、誘発させる。急性型は血管炎と考えられている。

肥厚性硬膜炎

肥厚性硬膜炎は様々な原因で脳や脊髄の硬膜が肥厚し、病変部位に応じて頭痛や脳神経麻痺、痙攣や脊髄圧迫症状など様々な症状きたす症候群である。造影CTや造影MRIにて造影効果を伴う硬膜の肥厚が認められる。原因としては感染症の続発やANCA関連血管炎症候群、IgG4関連多臓器リンパ増殖症候群(IgG4+MOLPS)などの報告がある。治療はステロイドが主体となっている。

疾患分類 疾患
感染性疾患 結核、細菌、真菌、梅毒、HTLV-1
膠原病関連 関節リウマチ、多発性筋炎、MCTD、シェーグレン症候群、SLE、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、MOLPS
その他 特発性、悪性腫瘍、サルコイドーシス、造影剤の髄腔内投与、静脈洞血栓症、透析、外傷、薬剤

原因不明の脳梗塞

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精査後も明らかな原因を特定できなかった脳梗塞のこと。再発予防はバイアスピリンが慣習上用いられるが、長期経過観察例ではholter ECGにて心房細動などが検出できなかった心原性脳塞栓症が多く含まれていると考えられる。

分類に含まれないが重要な脳梗塞の概念

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若年性脳梗塞

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若年者脳梗塞の病型と成因は中高年のそれとは大きく異なる。中高年の場合は動脈硬化に基づく心血管疾患や心房細動の関与が大きいのに対して40歳以下の若年性脳梗塞は動脈硬化や心房細動の影響は少なく特異な原因によるものが多い。抗リン脂質抗体症候群、ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)、血管炎や凝固異常、奇異性脳塞栓症(Paradoxical brain embolism)などが原因としてよく知られている。奇異性脳塞栓症とは静脈で生じた血栓が右心系左心短絡路を介して右心系から左心系に流入し脳塞栓症を発症する病態である。シャント性疾患としては卵円孔開存症(PFO)、肺動静脈瘻(PAVF)、心房中隔欠損症(ASD)などが知られている。頻度は脳梗塞連続例を対象とした検討で5%程度である。PFO in Cryptogenic stroke Study(PICSS)では脳梗塞を発症し、PFOがみつかったものの深部静脈血栓症や塞栓源性心疾患を有さない症例ではワルファリンとアスピリンによる治療効果は同等としている。心房中隔瘤(ASA、心房中隔が左房側と右房側に交互に突出する病態)がある場合は再発のリスクが上昇するとされているが、その再発予防に関しては結論がでていない。またシャントのカテーテル的閉鎖術に関しても長期予後や閉鎖後の抗血栓療法の指針などは示されていない。

線条体内包梗塞

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一部BADと重複する概念である。BADはTOAST分類で原因不明の脳梗塞となる必要があるが線条体内包梗塞では内頸動脈狭窄や心房細動などの例が含まれても構わない。Donnanらの分類では線条体内包梗塞を心原性脳塞栓症、内頚動脈閉塞群、中大脳動脈近位部異常群、成因不明の4郡に分類している。中大脳動脈近位部異常群がBADに該当する。数本の穿通枝領域を含む大きな梗塞を形成し、皮質領域は梗塞が免れるがラクナ梗塞では通常は生じない、失語症、視野欠損、失行、失認などの皮質症状を起こすこともしばしばある。

Binswanger病

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白質病変を特徴とする脳血管性認知症として知られる。多発ラクナ梗塞性認知症とともに日本の脳血管性認知症の約半数を占める。皮質下血管性認知症に分類され、脳小血管病変を主因とする。

多発性脳梗塞

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多発性脳梗塞や全身に多発する梗塞を認めた場合際は心原性脳塞栓症を念頭に治療を開始し、それと並行して塞栓源となりうる心疾患などの検索を行う。原因となる疾患としては非弁膜性心房細動が高く、その他としてはリウマチ性心疾患、特に僧帽弁狭窄症、急性心筋梗塞心室瘤人工弁、左房粘液腫、奇異性脳塞栓症などがあげられる。非心原性脳塞栓症の原因としては大動脈弓や総頚動脈など頭蓋内外主幹動脈の動脈硬化性病変より遊離した血栓が塞栓源の頻度が高い。アンチトロンビンIII欠乏症プロテインC欠乏症プロテインS欠乏症などの先天性凝固異常症や抗リン脂質抗体症候群、播種性血管内凝固症候群、悪性腫瘍の遠隔効果などの後天性凝固異常症などが原因となる。

脳幹梗塞

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詳細は「脳幹」を参照

脳梗塞と紛らわしい病態

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救急室での脳梗塞の鑑別では低血糖痙攣、大動脈解離にともなう脳梗塞などは治療法が異なるため重要な鑑別疾患となる。そのほか、稀であるが重要な疾患を述べる。

一過性全健忘(TGA)

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一過性全健忘(TGA)とは認識や知能が保たれている状態で突発する著明な近時記憶障害、逆向性健忘で自分のおかれている状況が理解できず、同じ質問を何回も繰り返す特徴がある。発作持続は6〜7時間程度で逆行性健忘の短縮を経て改善する。Caplanの診断基準やHodgeの診断基準が知られている。発作目撃者の情報が得られる。神経症状は前向性あるいは逆行性の健忘、一過性記憶障害のみ、発作は24時間以内に消失する、最近の外傷や2年以内のてんかんがないの4つが重要な特徴である。Hodgeらによると年間発症率は3/10万人、平均年齢は62歳、再発率は13%であり発作持続時間は15分〜12時間である。誘因としては精神的、身体的ストレス(25%)、冷水浴(13%)、情動変化、性交、血管造影、運転、カラオケなどが報告されている。TGAの病態としてはPapesの記憶回路を含む海馬、大脳辺縁系の一過性代謝障害が考えられている。

MELAS

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家族歴を有する若年性糖尿病、難聴などを特徴とするミトコンドリア脳筋症のひとつにMELAS(メラス)がある。MELASは血管壁ミトコンドリアの機能不全による痙攣発作、不全片麻痺や半盲などの脳卒中様発作を繰り返す。脳卒中様発作は後頭葉頭頂葉でしばしば認められ、病変分布が支配領域に一致しないため脳卒中様発作と言われる。

RPLS、PRES

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詳細は「可逆性後頭葉白質脳症」を参照

RPLSは1996年にHencheyらによって提唱された概念であり、後頭葉を中心とした白質脳症を呈し、頭痛や視覚障害、意識障害などの症状を示す。その病変は可逆的なものである。高血圧性脳症尿毒症子癇急性腎炎膠原病化学療法免疫抑制剤投与などが原因となることが知られている。通常は収縮期血圧200〜220mmHg以上、拡張期血圧120mmHg以上を示すことが多い。若年者では収縮期血圧150mmHg程度で発症する場合もある。免疫抑制剤の場合は薬剤の内皮細胞障害などが原因と考えられている。基本的な病態は血圧自動調節能の上限を超える血圧上昇によるBBBが破綻し、血管透過性亢進によって血管性浮腫がおこるとされている(breakthrough説)。急激な降圧は脳虚血を起こしやすいため、容量を調節しやすい静脈薬で開始1時間以内で平均血圧の25%以内、次の2〜6時間で160/100〜110mmHgを目標とする。グリセリン製剤を併用することもある。その他の治療としては痙攣を合併した場合は抗てんかん薬の投与である。

一過性脳虚血性発作(TIA)

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詳細は「一過性脳虚血発作」を参照

TIAに関しては定義の混乱が認められる。1990年の厚生省の基準では「脳虚血による局所神経症状が出現するが24時間以内に(多くは1時間以内)完全に消失しかつ頭部CTにて責任病巣に一致する器質性病変が認められない」とされていたがその後のMRIの普及によって、上記の定義を満たしていても拡散強調画像で高信号域を認めることが非常に多く、脳梗塞の経過をとるものも認められた。そのため2002年The TIA working groupでは「TIAとは局所脳虚血あるいは網膜虚血が原因による短時間の神経症状による症状であり、通常は1時間以内に症状は消失し急性脳梗塞の所見を伴わないもの」とした。いずれにせよ、緊急MRIが行えるか否かで診断名は変わってしまうということである。ABCDDスコアを用いて脳梗塞の進展の予測が可能である。MRIにおける拡散低下病変やMRAにおける動脈硬化性変化を含めると精度が向上するという報告も存在する。

名称 内容 点数
A(age) 60歳以上 1点
B(blood pressure) 収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHg 1点
C(clinical features) 片側脱力 2点
  脱力を伴わない言語障害 1点
D(duration of symptoms) 60分以上 2点
  10分以上60分未満 1点
D(diabetes) 糖尿病あり 1点

TIA発症後2日以内の脳卒中のリスクは3点以下では1.0%、5点以下で4.1%、6点以上で8.1%とされている。糖尿病を除いたABCDスコアでは1週間以内の脳卒中のリスクが評価されており、4点では2〜4%、5点では12〜28%、6点では28〜36%とされている。TIAの概念が浸透するに従って一過性の神経症状全てがTIAと診断されがちになっている。以下にTIAに特徴的でない症状、TIAと考え難い症状をまとめる。NINDS-Ⅲでは局所性脳機能障害=TIA+脳卒中である。局所性脳機能障害とは脳の機能局在で説明できる神経脱落症状である。失神は脳の全般的な一過性虚血であり局所性脳機能障害である脳卒中ではない。脳卒中で意識障害を起こすことはあるだろうが、その場合は広範な脳梗塞になったら起こるものである。一過性の意識障害のみで局在性脳神経障害が伴わなければTIAは疑わない。

  症状
TIAに特徴的でない症状 椎骨脳底動脈系の他の症状を伴わない意識障害
  強直発作、強直間代発作、間代発作
  身体のいくつかの領域にわたって遷延性に進行する症状
  閃輝性暗点
TIAとは考え難い症状 感覚障害の進行
  回転性めまいのみ
  動揺性(浮動性)めまいのみ
  嚥下障害のみ
  構音障害のみ
  複視のみ
  便あるいは尿失禁
  意識レベルの変動に伴う視力障害
  片頭痛に伴う局所症状
  錯乱のみ
  健忘のみ
  drop attackのみ

しかし、非常に稀だが回転性めまいのみの脳梗塞なども知られており、除外は慎重に行う必要がある。

TSI(Transient symptoms associated infarction、脳梗塞関連一過性症候[注 2]

MRI画像上は拡散低下が認められないのがTIAであるが、画像上拡散低下が認められるものの経過、持続時間がTIAとなるものをTSIと区別することがある。これは虚血性心疾患でいう不安定狭心症に相当すると考えられている。超急性期においてはDWIにて高信号を示すがADC-MAPにて低信号を示さないこともあり、これは多くの場合ペナンブラであると考えられている。この画像所見は脳梗塞のpseudo-normalizationと経過で区別する必要がある。

症状

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脳梗塞は、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示す。症状から責任病巣を決定することができる(神経診断学)。AHA(American Heart Assocition;米国心臓協会)のガイドラインでは一般人が脳卒中を疑うきっかけとして次のような症状、症候を述べている。

片側の麻痺
通常は身体一側の脱力、不器用さ、または重い感じを示す。麻痺は:運動の障害を意味し、もっとも頻度の高い症状が麻痺である。中大脳動脈の閉塞によって前頭葉運動中枢が壊死するか、脳幹の梗塞で錐体路が壊死するかで発症する。
多くの場合は、片方の上肢・下肢・顔面が脱力または筋力低下におちいる片麻痺の形をとる[注 3]。ただし、脳幹梗塞では顔面と四肢で麻痺側が異なる交代性麻痺をきたすこともある。
一側のしびれ感
通常、身体一側の感覚鈍麻、異常感覚。感覚線維、または頭頂葉の感覚中枢が壊死することで出現する。感覚の鈍化または消失が起こるほか、慢性期には疼痛が出現することがありQOLへの影響が大きい。
言語障害
言語了解や発語の障害(失語症)や不明瞭な言語(構音障害)。喉頭・咽頭・の運動にも麻痺や感覚障害が及ぶことで嚥下や発声機能にも障害が出現する。構音障害は後述する失語とは違い、脳の言語処理機能は保たれながらも発声段階での障害のためにコミュニケーションが不十分となっているものである。嚥下障害は、摂食が不十分となって社会復帰を困難にしたり、誤嚥によって肺炎の原因となるなど影響が大きい。
嚥下・構音障害を起こすような咽頭・喉頭機能の障害は脳幹の延髄の障害に由来することから球麻痺と呼ばれる(延髄は球形)が、より上部から延髄へいたる神経線維の障害でも類似した症状がみられるため、これは仮性球麻痺と呼ばれる。
片側の失明
痛みのない一眼の視力消失、しばしば「カーテンがさがる」と表現される。
めまい
安静時に持続するぐるぐる回転した感じのこと。めまいのみでは非血管性の疾患のありふれた症状である。したがって少なくとももう1つの一過性脳虚血発作あるいは脳梗塞の症状も存在することが必要である。
失調
平衡機能の悪化、歩行時のつまづき、よろめき、身体一側性の協調運動障害。小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現する。これに関連してめまいが出現することもある。

これらの症状が認められた場合は早期に医療機関の受診が望まれる。そのほか、以下のような症状も代表的である。

意識障害
脳幹の覚醒系が障害された場合などに意識レベルが低下するほか、広範な大脳皮質の破壊でもみられる。それがなくても、急性期にの腫脹などによって全体的に脳の活動が抑制され、一過性に意識レベルが下がることがある。ラクナ梗塞で意識障害を来しにくいのは、梗塞範囲が小さいため腫脹など脳全体への影響が小さいことによる。
高次脳機能障害
失語失認をはじめとした多彩な高次機能障害が出現することがある。半側空間無視空間のうち左右どちらかが意識からはずれてしまう)が多くみられる。これは大脳劣位半球頭頂葉でみられるものだが、右利きの人間の95%は劣位半球がにあることから、ほとんどは「右利きで左片麻痺」の患者にみられる症状であると言える。逆に失語は優位半球の障害でみられるもので、「右利きで右麻痺」の患者にみられることが多い。

上記症状の重症度は日本の医療機関であればNIHSSで、プレホスピタルではKPSS(倉敷プレホスピタル・ストロークスケール)で評価されることが多い。

経過

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発症
脳梗塞の症状は徐々に進行して増強してくるものから突然に完成するものまで千差万別である。ただし、塞栓性のものは突然に完成することが多い。
発症時間で最も多いのが夜間から早朝にかけてである。これは、就寝中には水分をとらないために脱水傾向になることと関わっている。年間を通じてはに多い。夏は脱水、冬は体を動かさなくなることが発症と関わっている。とくに高齢者は夜間頻尿を恐れ、水分を控える傾向が多く、発症率の増加の一因となっている。
気づかれる症状として最も多いのが麻痺である。「体が傾いている」「立ち上がれなくなった」などの訴えで病院に搬送されてくることが多い。逆に、失語のみなどの一見奇異な症状では脳梗塞だと気づかれず医療機関への受診が遅れることもある。
急性期
脳梗塞の症状は急性期にもっとも強く、その後徐々に改善していく。これは、壊死に陥った脳組織が腫脹して、周囲の脳組織も圧迫・障害していることによる。腫脹が引いていくとともに、周囲の組織が機能を回復して症状は固定していくのである。ただし、腫脹や、壊死組織から放出されるフリーラジカルは周囲の組織をも壊死させる働きがあるためこれらを抑制することが機能予後の向上につながる。
急性期は血圧が高くなる。場合によっては(収縮期血圧で)200mmHgを超えることもある。これは、虚血部位に対して血流を送り込もうという生理的な反応であり、無理に降圧を図ってはいけない。(降圧しすぎると、梗塞範囲を広めるおそれがある)
降圧薬、不用意な頭位挙上は脳循環血流を悪化させ、再発や症候増悪をおこす。症状が安定するまで少なくとも24時間はベッド上安静とする。
亜急性期
軽症から中等症のものであれば、数日で脳の腫脹や高血圧は落ち着き、場合によってはほとんど症状が消失するまでに回復する。ただし、ある程度大きな後遺症が残った場合にはリハビリテーションを続けても発症前と同レベルまで機能を回復するのは非常に困難である。
慢性期
原因にもよるが、脳梗塞の既往がある人の脳梗塞再発率は非常に高い。そのため再発予防のための投薬を受け続ける必要がある。また、長期の後遺症としててんかんパーキンソニズムを発症することがある。

確認方法

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自分や家族で行えるFAST (ファスト) と呼ばれる確認方法がある[18][19][20]アメリカマサチューセッツ州公衆衛生局による啓蒙キャンペーン (en) ではビデオアニメーションも制作されている [21]

  • Face : 顔のまひの確認。口の横あたりを口角(こうかく)と言うが、両側の口角を引き上げるようにして「いー」と言って笑顔を作ってみる。それまで何でもなかったのに片側の口角が突然あがらなくなったら麻痺が起きている[18]
  • Arm : の麻痺の確認。目を閉じて、手のひらを上向きにして両腕をまっすぐ前に突き出してみる。麻痺がある場合、麻痺がある側の腕が内側に回転しながら下がってくる[18]
  • Speech : 言葉の麻痺の確認。短い簡単な文章を実際にいくつか発音して確認する。例えば「太郎が花子にリンゴをあげた」と「ラ行」の多い文章を言ってみると判りやすい[18]。思い出せない場合、どんな文章でもいいから、いくつもはっきりと言ってみる[18]。はっきり言えない場合は言葉の麻痺が起きている。
  • Time : 以上の3つ(FAS)の確認を行い、どれかが明らかに該当していたら、「Time」つまり医師に見てもらうべき時だ、ということで病院に行く。家族が車などで連れてゆくか、あるいは119番を呼びFASTの確認結果がどのようであったか伝え、救急車に来てもらう。病院で検査を行う。

診断

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神経内科または脳神経外科が行うが、発症後3時間以内の超急性期では迅速な対応が必要であり、救急科が行うことも多い。

身体所見(神経学的所見)

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上記の巣症状のほか、上位中枢の障害を示唆する錐体路徴候腱反射の亢進、バビンスキー反射の出現)や眼球運動異常などから梗塞部位が推測できる。神経学的所見から脳梗塞(脳卒中)の客観的な重症度を記載する方法として、いくつかのスケールが提唱されている。最も簡便で臨床的に多用されているのはNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)である[22]。これは超急性期の血栓溶解療法を実施する際には必須の項目となっている。

検査所見

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一般的な血液検査上は特徴的な所見はないが、血栓性では血小板機能を調べると亢進していることがある。ただし、血液検査から高脂血症・糖尿病などの基礎疾患を評価する意義は大きい。超急性期の血栓溶解療法を実施する際には高血糖低血糖などの絶対禁忌項目があるため、血液検査は必須となる。

画像所見

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CT
X線CTでは、脳出血との鑑別、正中構造の偏位など圧排所見、広範囲な初期(早期)虚血変化(early CT sign)の確認ができる。脳出血ではよほど小さなものでない限り超急性期から血腫が明確な高吸収域として確認できる。early CT signはCTの撮影条件によって判定が困難になることから「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」ではCT撮影条件の標準化が行われている。early CT signには脳虚血を示すものと血管の閉塞を示すものが知られている。細胞性浮腫は発症1時間前後で血管原性浮腫は発症3時間程度で認められることが多い。
early CT sign 所見 意義 病態
レンズ核の不明瞭化 レンズ核と内包の境界が不明瞭となるが島皮質との境界は明瞭 中大脳動脈領域の虚血 細胞性浮腫
島皮質の消失 島皮質と皮質下の境界が不明瞭となる 中大脳動脈領域の虚血 細胞性浮腫
皮髄境界の不明瞭化 皮質と皮質下の境界が不明瞭となる 中大脳動脈領域の虚血 細胞性浮腫
脳溝の消失 脳溝が狭小化する 中大脳動脈領域の虚血 血管原性浮腫
hyperdense MCA sign 中大脳動脈M1が高吸収を示す 中大脳動脈M1の閉塞 血管閉塞
MCA dot sign 中大脳動脈M2が高吸収を示す 中大脳動脈M2の閉塞 血管閉塞
脳虚血がMCA領域の1/3を超えるとき(1/3MCA領域)は血栓溶解療法の治療適応外となるため、近年では初期虚血変化有無の判定が重要となっている。MCAの領域はASPECT法で計算される。ASPECT法では基底核視床レベルと側脳室レベルの2スライスを用いて減点法でスコアリングする。early CT signが全くなければ10点であり、全てに認められれば0点となる。最もよい適応はASPECTにて8点以上の例であり、ASPECT2点以下は3点以上と比較して4倍以上出血のリスクが高いとされている。
やや時間が経過すると、壊死した脳の腫脹がみられることがある。そして、壊死した組織は発症数日すると軟化してCT上暗くなるが、これらの所見はどれも発症急性期にははっきりしないものである。
MRI
MRIではより早期から所見を捉えることができる。T2強調画像で病変が高信号になる(細胞の腫脹をみている)のが発症約6時間でみられるほか、拡散強調画像 (DWI) では高信号を約3時間後から認めることができるとされる。概念上はDWIにて高信号を示している部位はすでに不可逆的な変化を示していると考えられており、その周囲に可逆的な部位であるペナンブラが存在すると考えられている。しかしDWIの高信号域の多くは梗塞巣に一致するが淡い病変の中に可逆性の病変が含まれることもあることが知られている。逆に超早期はDWIでも偽陰性を示すことはしばしば認められる。発症24時間以内でも5%ほどの偽陰性が知られている。特に発症6時間以内の椎骨動脈灌流域で偽陰性が多く20%も認められる。特に延髄病変で多いとされている。逆に大脳皮質での偽陰性は低く2%程度である。初回のDWIにて高信号が認められなくとも経過、症状から脳梗塞が強く疑われた時は24時間後に再度撮影するのが望ましい。その場合は3mm程度の薄いスライスでb value 2000以上で行うと検出率が高くなる。
病期 病態 DWI ADC-MAP T2WI CT
発症直後(0 - 1時間) 閉塞直後の灌流異常 所見なし 所見なし 所見なし 所見なし
超急性期(1 - 24時間) 細胞性浮腫 高信号 低信号 所見なし early CT sign
急性期(1 - 7日) 細胞性浮腫と血管性浮腫 高信号 低信号 高信号 低吸収
亜急性期(1 - 3週間) 細胞壊死による炎症反応から徐々に浮腫軽減 高信号から徐々に低信号へ 低信号から徐々に高信号へ 高信号 低吸収からFEを介して低吸収へ
慢性期(1か月 - ) 壊死、吸収、瘢痕化 低信号 高信号 高信号 髄液濃度
上記表は脳梗塞におけるMRIの典型的経時的変化である。超急性期は細胞性浮腫のため拡散係数が低下し、それはDWIにて高信号、ADC-MAPで低信号という形で表現される。急性期では毛細血管のBBBの破綻により血管性浮腫が起る。血管性浮腫により単位組織あたりの水分量が増加するためT2WIにて高信号を示すようになる。急性期に再灌流により血管性浮腫が増悪し、著明な脳浮腫や出血性梗塞を起こすこともある。亜急性期になると細胞壊死と血管壊死により拡散係数が上昇してくるため、一時期見かけ上正常化(pseudo-normalization)する。拡散強調画像ではT2 shine throughの影響をうけて亜急性期後半まで高信号が持続する。この現象があるために拡散強調画像で高信号でも拡散係数の低下や脳梗塞超急性期と言えずとすることができず、ADC-MAPを併用して評価する。発症2週間ほどでCTでも血管性浮腫の軽減により一時的に病変が等吸収になる。しかし不明瞭化はしておりFE (fogging effect) と言われる。亜急性期では軟膜髄膜吻合による側副血行路の発達や代償性の灌流増加にて比較的小さな梗塞巣内の出血が認められることがあり、T2*にて低信号を示す。これは急性期の出血性梗塞と異なり、重篤な神経症状の増悪を招くことはないが、ラクナ梗塞の場合はこれらの所見がある場合は抗血小板薬投与をしない方が無難とされている。その後は慢性期所見としてT2WI高信号となるが、組織欠損の程度によりFLAIR画像で低信号化したりする。細胞外液腔の開大によるものである。
脳血管障害では遠隔部に二次性が起ることが知られている。代表例を示す。
二次性変化 所見
皮質脊髄路のワーラー変性 皮質脊髄路に障害があるとその遠隔部で4週後よりT2短縮、10週頃よりT2延長。DWIでは2日から8日程度で信号変化が認められる。
視床の変性 外側線条体動脈を含め中大脳動脈領域に障害があると皮質視床路を介して同側視床が発症3か月以降にT2延長。背内側核から起ることが多い。
中脳黒質の変性 線条体の障害で同側中脳黒質に発症10日前後でT2延長が認められ、1か月ほどで消失する。
下オリーブ核仮性肥大 小脳歯状核病変では対側の下オリーブ核に橋背側中心被蓋路では同側に変性がおこる。数か月でT2延長がおき、その後肥大する。
交叉性小脳萎縮 橋核が障害されると対側の中小脳脚にワーラー変性が生じる。橋核近傍が障害されると対側に同様の変性が生じるため、両側性となることも多い。
そのほか、有名な所見としては皮質層状壊死(cortical laminar necrosis)というものがあり、椎体細胞層(第3層)が選択的に虚血に陥ることであり発症後3週間ほどでT1WIにて皮質に沿った高信号域が認められる。また血管の閉塞に関してはintra-arterial sign(IA sign)というものが知られている。通常はFLAIR画像では血管内腔はflow voidとなるが、血液の鬱滞が認められると急性期にはFLAIR画像での血管の描出が認められるというものである。
MRA
脳主幹動脈の狭窄、閉塞がTOF-MRAやMIPにて明らかになる場合もある。主幹動脈の閉塞はflow voidの消失を確認することで検出可能であるが、MRAを行うことでよりわかりやすくなる。なおflow voidとは血液や脳脊髄液の流れのために発生する信号の消失を示す。その他頸部動脈の造影MRAなども経動脈評価でCTAとともによく用いられる。MIP画像の注意点としては狭窄の過大評価をしやすいことである。乱流が認められると狭窄が実際よりも過大に評価される。この影響で一見閉塞に見えることもある(flow gap)。末梢が対側と同程度に描出されていれば高度狭窄ではなく乱流を見ている可能性が高い。3TのMRAでは3D black blood imagingという撮影法を用いることで、プラークの性状まで評価できる。
プラーク性状 TOF T1WI プロトン密度強調画像 T2WI
脂質コア(出血なし) 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号
脂質コア(新鮮出血) 高信号 高信号 低信号〜等信号 低信号〜等信号
脂質コア(出血あり) 高信号 高信号 高信号 高信号
線維性被膜 低信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号
石灰化 低信号 低信号 低信号 低信号
線維組織 等〜低信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号 等信号〜軽度高信号
BPAS(basiparallel anatomic scanning)
動脈解離の検出や慢性閉塞と急性閉塞の鑑別に有効とされている。MRAが血液のフローを信号化するのに対して、BPASは血管の外観の表示を行う。
頚動脈エコー

詳細は「頸部血管超音波検査」を参照

血栓性の場合、頚部血管のエコーで、血管内壁の粥腫(プラーク)による狭小化を確認できることがある(高度な場合には外科的切除の対象になる)。エコーでは、頭蓋内血管を微小栓子(HITS)が流れているのを確認できることもある。
エコーではプラークの性状としてエコー輝度、表面性状、均一性、可動性を評価する場合が多い。エコー輝度は病理組織との対比で低輝度は粥腫や血腫、等輝度は線維組織、高輝度は石灰化病変と一致すると言われている。低輝度の場合は脆弱であり脳梗塞のリスクが高いとされている。表面性状としては壁の不整はプラークがなくとも脳梗塞のリスクがあるとされている。また2mm以上の陥凹、すなわち潰瘍は脳梗塞のリスクが高い。またプラークの性状が不均一であると均一な場合よりもさらに脳梗塞のリスクが高いとされている。またプラークに可動性のある血栓が付着する場合も高速のリスクが高いと考えられているが頻度は低い。
心エコー
非弁膜性心房細動が最も心原性脳塞栓のリスクとなるのだが、心臓超音波検査を行うことでさらに詳細な評価を行うことができる。塞栓源として重要な所見としては左心耳内血栓、卵円孔開存(PFO)、心房中隔瘤、心臓腫瘍、大動脈弓部複合粥腫病変などがあり、これらは経食道心エコーでの検出率が高い。卵円孔開存(PFO)は一般剖検で20%ほど認められる所見で右左シャントとなり静脈で形成された血栓が左室系に流出することで脳梗塞を起こす。これは奇異性脳塞栓症といい若年者脳梗塞や原因不明の脳梗塞で頻度が多い。発症様式で塞栓性が疑われるが心房細動もなく、内頚動脈に有意病変が認められない場合は大動脈源性脳塞栓を疑い大動脈弓部複合粥腫病変を検索する。
 
ウィキペディアより抜粋