※逐語訳はしておりません

 意訳したり盛っている部分もございます

 あらかじめ御容赦ください

 

 


前編 

 

中編

 

大納言左大将・藤原常行(ふじわらのときつら)。

元服前の若君だったとき、夜になっても平気で出歩きます。

そんな中、異形の鬼共の行列に出くわしてしまいました。

捕まってしまうかと思いきや、なぜか鬼共は「尊勝陀羅尼」という言葉を残して逃げ散ってしまいました。

 

 

 

 

「やれやれ助かった ……」

しかしながら、このままずっとここにいるわけにもいきません。

呆然としつつもかろうじて馬に乗り、西三条の屋敷に帰ってまいりました。

なんだかとても気分が悪い。

帰り着くなり床についてしまいます。

体も熱い。


若君が戻ってきたと聞いて、乳母が夜遊びを心配してやってまいります。

事情を知らないのでまずお説教。

 

少し離れたところで控えながら、

「一体どこへ行っていらしたのです。

 殿御前があんなふうにご注意なさったと

 いうのに。

 『また夜になって外出なさった』と殿が

 お聞きになったら、一体何と申し開き

 なさるおつもりなのですか」

 

と言いながら近くに寄ると、若君はとても苦しそうになさっている。

 

「 何をそんなに苦しそうに?」

と不思議そうに若君の身体をそっと触ると、とても熱い。

 

「一体どうなさったというのです!?」

乳母は驚き慌てて戸惑うばかり。

「実は……」

若君、 それまでの顛末を乳母に説明します。

乳母はただただ驚き呆れるばかり。

 

「なんと恐ろしいこと。

 私の兄弟の一人が、 僧侶となって

 阿闍梨の位にまでなっています。

 去年、その者に尊勝陀羅尼を書かせて

 いました。

 そしてそれをお守りとして、あなたの

 御衣の頸の部分に縫い込んでいました。

 本当にありがたいこと。

 もしこれがなかったら、今頃どうなって

 いたことか」

そう言って若君の額に手を当て、さめざめと嘆き悲しみます。

 


こうして三日ばかり。

若君は高熱を発して苦しみます。

 

父母も大騒ぎ。

あちこちから人を呼び、様々な祈祷を行います。

 

四日目ぐらいになって、ようやく若君の気分も収まってきました。

 

(あの日は一体何だったのだろう?)

若君、ふと疑問に思って暦を確認すると。

なんとその日は忌夜行日(きやぎょうにち)に当たっていたのでした。

 

妖怪共が出歩く日。

百鬼夜行の日。

出くわすと死んでしまうと言われていて、貴族はもちろん武士までもが夜の外出を控えている日でした。

 

(本来なら死んでしまうところ、三日寝込む

 程度で済んだということなのか?)

若君は震えが止まりませんでした。



このことを思うに。

尊勝陀羅尼の霊験は極めて尊いものです。

だから人の身である以上、御守として必ず身に付けるべきものです。

 

若君も、尊勝陀羅尼衣が頸に有ることをご存知ありませんでした。

それでもああやって守っていただけたのです。

 

だからこの話を聞いた人は皆、尊勝陀羅尼を書いて御守として身につけたと語り伝えられているそうです。

 

 

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