※逐語訳はしておりません

 意訳したり盛っている部分もございます

 あらかじめ御容赦ください

 

 


前編はこちら 

 

 

大納言左大将・藤原常行(ふじわらのときつら)が元服前の若君だったときのお話。

父母の止めるのも聞かず、夜になっても平気で出歩きます。

ある夜、正面から燈を灯してやってくる行列が。

やり過ごそうと門に隠れ、そこから覗き見ると、それは異形の鬼共の行列だったのでした。

 

 

 

肝を潰すとはまさにこのこと。

心も乱れどうしていいのか分かりません。

若君は目を閉じて、ただどうすることもできず伏せているしかありません。

 

耳をそばだてて聞いていると、鬼共がわいわいがやがや騒ぎながら通り過ぎていく。

(見つからないでくれよ……)

もう祈るしかありません。

 

通り過ぎざまの話す声も聞こえてきた。

「人の気配がするぞ。おい、

 あれを捕まえてこよう」

行列の中から一人が抜けて、こっちに向かってきます。

 

(あああああ。

 私の命は今日限りなんだ)

若君はどうすることもできずただ震えています。

 

ところが鬼の様子がおかしい。

くるっとそのままUターン。

走り帰って行列の中へ戻っていきます。

 

鬼の方のやり取りが聞こえる。

「どうして捕まえないのだ?」

「いや、捕まえることができない」

「なんでだよ。早くやれ。俺が行こう」

 

また他の鬼がこっちに向かって駆けてきます。

(あー、やっぱり助からない)

若君はまた頭を抱える。

 

ところがまたさっきと同じように、門の近くまで来ると、そのままUターンして元のところへ戻っていきます。

 

「どうだ、捕まえたか?」

「いや、捕まえられなかった」

「変なこと言うやつだ。じゃあ俺が行こう」

また一人鬼が走りかかってくる。

 

さっきの二人よりもずっと近づいてきた。

腕を伸ばせば届くぐらいにまでやってきます。

(あああ、もう今度こそだめだ)

 

しかし。

やっぱりUターンして戻っていきます。

 

鬼同士のやり取りが聞こえます。

「どうだ?」

「捕まえられないのも道理、納得した」

「どういうことだ?何に納得した?」

「尊勝陀羅尼がいらっしゃるからだ」

 

その途端。

たくさんの燈した灯が一斉に消され、真っ暗になる。

そして東西に走り散る音がして、妖怪達はいなくなってしまいました。

闇の中、辺りは急に静まり返ります。

 

若君、

「助かった……」

髪の毛が太るほどの恐ろしさを感じ、もう身動きが取れません。

 

 

(後編に続く)