※逐語訳はしておりません

 意訳したり盛っている部分もございます

 あらかじめ御容赦ください

 

 


今は昔、水尾天皇(清和天皇のこと)の御代に。

西三条の右大臣という方がいました。

お名前を藤原良相といいました。

 

その大臣の御子に、大納言左大将である藤原常行(ふじわらのときつら)という方がいました。

この左大将が、 元服前の若君だったときの話です。

 

 

若君なので、冠をつけることなく過ごしていらっしゃいました。

とても見目麗しい。

 

ただもう既に色好みの気持ちが非常に強い。

夜になったら屋敷を出て、東西あちこちほっつき歩くようなことが多かったのでした。

 

 

さて。

若君の父、良相大臣が屋敷を構えているのは西大宮より東・三条より北。

その辺りの地域を西三条と呼んでいました。

平安京の中で大内裏よりも西側、西の京にあたるエリアですね。

 

若君がいま熱を上げている女性は、大内裏よりも東側、東の京にいる。

だからしょっちゅうそちらへ向かいます。

 

父も母もそれを止めます。

「よしなさい。夜も遅くになって

 そんな遠くまで出歩くのは危ない」

 

それでも若君はやめるつもりがない。

こっそり人に知られないように侍の馬を引き出してきて、またがる。

小舎人童(こどねりわらわ 召使いの少年)・馬舎人(うまとねり 馬を引く従者)の2人ばかりを連れて大宮通りに出て、東へ向かいます。

 

 

大内裏の正面、美福門の前あたりを過ぎます。

「何だあれは?」

東大宮の方からたくさんの火を灯し、何やら大騒ぎしながら人々がやってきます。

 

若君はこれを見て、

「誰だ、こんな夜になって?

 どこかに隠れた方がいいだろうか?」

 

すると、お供の小舎人童は、

「昼間に見ましたところ、

 神泉の北の門が開いていました。

 そこに入って戸を閉めて、

 しばらくやり過ごしてはどうでしょう?」

 

「あー、いいな。そうしよう」

若君は喜んでそっちへ急ぐ。

 

「あ、本当だ。まだ開いてる。

 よし、ここに入ろう」

馬から降りて柱のもとにかがまることにしました。

 

 

火を灯した者共が通り過ぎます。

「どんな連中だい?」と、若君は興味津々で戸を細目に開けて見る。

 「う ! !」

出そうになる声、押し殺し。思わずのけぞりうろたえる。

 

なんと。

人の行列ではありません。

鬼共です。

様々な恐ろしげな姿をした鬼達が、ぞろぞろと歩いているのです。

 


 (中編に続く)